
科学は社会に大きな影響を与える。ゆえにそれに携わる研究者には多大な責任がともなう。
倫理や慎重さといったものが軽視されてしまったとき、あるいは単に実験が失敗に終わってしまったとき、ときにとんでもない大惨事につながることがある。
ここでは人としてどうなのか?と疑問に思わざるをえない10の実験を紹介しよう。
【10. ウィローブルック州立学校の肝炎実験】
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知的障害のある子供向けにニューヨーク州が設立したウィローブルック州立学校で、肝炎がアウトブレイクした。
なぜならばそこでは1956年からの14年間、ソール・クルーグマンという小児科医によって、子供を意図的に肝炎に感染させるというおぞましい実験が行われていたからだ。
だがクルーグマンだけを責めるわけにはいかないかもしれない。子供たちの両親が同意していることもあったからだ。
両親は子供を実験に参加させることに同意するならば高額な入学料を免除すると持ちかけられ、それを承諾していた。
クルーグマンらは、感染させた後にワクチンを接種したことや肝炎はそれほど重いものではないと主張して研究を正当化している。
【9. エボラ・ウイルスに自ら感染した研究者】
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エボラは地球に登場した最恐クラスのウイルスなのだが、あまりにも不用意に扱って命を落としてしまった研究者もいる。
ロシアの研究者がエボラ・ウイルスの調査中に、ウイルスが付着した針をうっかり自分に刺してしまったのだ。
ちなみにその実験で使われていたウイルスは、ヒトに由来するものではなくモルモットに由来するものだった。
エボラにはさまざまな亜種があり、程度の差はあるがそれぞれ危険だ。
感染してしまえば5~9割が死ぬ。しかも現時点では治療手段がなく、ただ症状を抑えることができるのみだ。
ロシアの事故では研究者は感染して14日後に亡くなった。このとき、あろうことか研究所は速やかにWHO(世界保健機関)に報告することを怠り、それが助かる見込みをいっそう下げることになった。
【8. 数百人を実験台にしたマッドサイエンティスト】
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レオ・スタンリー博士は、いわゆるマッドサイエンティストとして知られている。
彼は米カリフォルニア州のサン・クエンティン州立刑務所の主任外科医として、受刑者の精巣を使って怪しげなさまざまな実験を行った。
たとえば処刑された遺体から精巣を摘出し、それを生きている受刑者に移植するという実験があった。
これは、若返りや生物学的な犯罪コントロール法を模索することが目的だったという。
それだけでは不十分とばかりに、博士はヤギやヒツジ、ブタの精巣を受刑者に移植してみたり、優生学的な実験や強制的な不妊手術も行っていた。
数百人もの受刑者がスタンレー博士の実験台となり、普通ではありえない手術の犠牲者となったのである。
【7. 刑務所で起こった残酷な放射線スキャンダル】
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狂った科学者は、放射線の人体実験に参加する見返りに刑期を短縮するという取引を受刑者に持ちかけたこともある。
1963~73年、ワシントンとオレゴンの刑務所では、お金や釈放といった餌で釣られた130人の受刑者が放射線の人体への影響を確かめるための実験台にされていた。
実験は、胸部レントゲン写真2400枚分に相当する400ラドの放射線を睾丸に10分間隔で放射するというもの。
受刑者にその危険性は知らされておらず、これによりDNAが損傷して異常のある子供が生まれる恐れがある場合はパイプカットまでされていた。
この残酷な実験を行ったカール・ヘラー博士には、その後10年にわたり120万ドルの報酬が政府から支払われている。
【6. ロシアの核施設爆発で複数の研究者が犠牲に】
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モスクワから400キロ東へ行ったところにサロフという街がある。
ここは1946年から現在にいたるまでロシアの核兵器開発の中心地として知られる都市なのだが、2019年夏に爆発事故が起こって複数の研究者が犠牲となっている。
事故の詳細は伝えられていないが少なくとも5人が死亡し、彼らの葬式には大勢が参列したらしい。また、この事故によって周辺の住宅地域にも被爆者が出ているようだ。
ロシアの報道によると、兵器システムの電源として利用される小型原子炉の実験中に事故が起きたらしい。
しかしアメリカやロシア独立系メディアの推測によれば、原子力巡航ミサイルの実験だった可能性もあるようだ。
いずれにせよ、犠牲者をドヴィンスキー湾にまで吹き飛ばすくらい大きな爆発であったことは確かだ。
【5. 深刻な被害をもたらしたアフリカツメガエル】
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African Clawed Frogs
1940~50年代、女性が妊娠しているかどうか確かめるために、アフリカツメガエルの尿を使う方法が考案されたことがある。
しかし、この妊娠検査をさらに研究するためにサブサハラ・アフリカから持ち込まれた大量のアフリカツメガエルは、実験室から逃げ出して大きな禍根を残すことになった。
アフリカツメガエルは捕食者であり、もともと住んでいたアメリカ固有の両生類を狙うようになってしまったのだ。
さらにカエルツボカビ症という両生類にとっては致死的な病気を媒介しており、これによっても深刻な被害が生じている。
現在ではアメリカ全土に分布しているほか、意外なことにイギリス、オランダ、ドイツといった寒い地域でも見られる侵入性外来種である。
【4. 患者にがん細胞を移植していたがん研究者】
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“I’ve killed eight of my patients”: Dr. Cornelius Rhoads in Puerto Rico
アメリカのコーネリアス・ローズ博士は、20世紀を代表するがん研究者と評された人物だ。
権威ある米国がん学会が、がん研究に貢献した科学者に授ける最高の賞に「コーネリアス・ローズ賞」と名付けるくらい傑出した研究者だった。
しかしローズ博士の業績は、じつのところ多大な犠牲の上に成り立つものだった。プエルトリコで患者にがん細胞を意図的に移植していたことが発覚したのだ。
彼はプエルトリコ人について「地球上でもっとも汚らしく、怠惰で、堕落した泥棒のような人種である」という手紙まで記している。
この一件をきっかけとして2003年、米国がん学会は賞の名称を変更し、ローズ博士の名は消えることになった。
【3. 台風を消し去ろうとしたストームフュリー計画】
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誰もが気まぐれな天気に泣かされたことがあるだろう。それを解決しようと、アメリカ政府によって英雄的なプロジェクトが実施されたことがある。
1962~83年に実施された「ストームフュリー計画」である。
計画内容は、飛行機にヨウ化銀を積み込んで台風の目の中に投下するというもの。こうすることで水分が過冷却され、台風はその力を維持できなくなるとされていた。
当初、計画は順調に進んでいるように思われた。台風が消え去ったかのように見えたからだ。
しかし後の研究によって過冷却された水分は台風を消し去るには不十分であり、まったく意味がなかったことが明らかとなった。
最初に成功したように思われたのはただの偶然だったのだ。計画の関係者もまた気まぐれな天気に泣かされたのである。
【2. オーストラリアのマスタードガス人体実験】
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オーストラリアでは化学兵器の人体実験が行われたことがある。
第二次世界大戦当時、旧日本軍が中国でマスタードガスを使用。これがオーストラリアに次に標的となるのは自分たちではないかという恐怖を抱かせることになった。
そこで、その効果を調査するためにガス室を使った人体実験が実施されたのである。
問題だったのは、マスタードガスの効果が過小評価されていたことだ。
それから3年間にわたりオーストラリア軍の兵士から志願者を募ってガス室による実験が続けられたが、そこに携わった研究者たちはガスがどの程度有害なのかあまりよくわかっていなかった。
そんな彼らによって、人間はマスタードガスの中でどのくらい行動が可能なのか確かめられたり、ノースブルック島にガス爆弾を投下して戦場での効果を確認するといった人体実験が行われたのだ。
【1. ロンドン地下鉄の炭疽菌シミュレーション】
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炭疽菌は家畜にも人間にも感染する危険な病原菌だ。イギリスでは、そんな危険な代物を民衆に対して使用するという狂気の実験が行われたことがある。
1963年7月26日、ロンドン地下鉄のコリアーズ・ウッド駅から出発した列車の窓から炭疽菌で汚染された粉入りの箱が投げ捨てられた。
これは炭疽菌が実際に使用された場合にどのように被害が拡散するのかシミュレーションすることが目的だった。もちろん住民には何も知らされていない。
スタッフが派遣されて地下鉄中から炭疽菌入りの粉が回収されたが、箱を投げ捨てた地点から数キロ離れた場所からも感染者が発見されている。
追記(2019/11/04)本文を一部修正して再送します。
written by hiroching / edited by usagi
記事全文はこちら:人体実験から炭疽菌まで。本当に行われていた恐ろしい10の科学実験 http://karapaia.com/archives/52284242.html
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