自分の血を売って生計を立てる「売血」が増加、アメリカの貧困層の現実

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 自分の血液をお金をもらって採血させる行為は「売血」と呼ばれており、日本でも1960年代半ばまで行われていたそうだが、アメリカでは現在も「売血」で生計を立てている人々がいるそうだ。
 
 そしてその数は1999年~2016年の間で3倍も増加し、ヒトの血液を原料として製造される血漿製剤の輸出は、今やとうもろこしや大豆以上の輸出量を占め、皮肉にもアメリカ経済を支えている。

 しかし、この血漿製剤産業急成長の背後には、アメリカの貧困社会に暮らす人々の悲しい現状がある。
【急成長を続けているアメリカの血漿製剤産業】

 アメリカは、献血のために人々がお金を受け取ることが認可されている唯一の先進国であり、その血液の大部分は海外に輸出されている。

 世界最大の血漿収集センターCSLの報告によると、世界中の血漿製剤の約70%はアメリカ人のもので、その60%が他国に輸出されているという。

 献血ビジネスの急増で、今やアメリカにとって貧しい人々の血は主要な輸出品となり、総輸出の2%を占めるまでになっているのが現状だ。

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 しかもこの血漿製剤産業の成長は、更に拡大すると予測されている。

 血漿蛋白治療協会(以下PPTA)の最新データによると、アメリカで収集された血漿の量は、2014年には過去最高を記録。ビジネスニュース、分析、株式市場データを提供するアメリカの金融情報ウェブサイト『MarketWatch』でも、この産業ビジネスは2024年までには440億ドル(約4兆8100億円)に達する見込みと伝えている。

 しかし一方で、1999年以降の「売血」が3倍増加となった背景には、アメリカの貧困層の人々に対する現金の「略奪的」約束があったからだと主張する評論家もいる。

【献血は、1日2ドル生活を強いられる貧困者の生命線】

 PPTAの報告によると、1999年~2016年でアメリカの売血ビジネスは3倍になった。しかし、これはアメリカ人が慈善活動を行ったからではない。

 多数の医薬品治療のベースとしても重宝され、免疫障害や呼吸器疾患の治療などに不可欠とされる血漿製剤。この産業繁栄と輸出ビジネスの背後には、アメリカで不安定な生活を抱えている貧困層の人々らが存在する。

 アメリカでは、適度に健康で体重が50kg以上であれば、献血センターはドナーに代金を支払い、血漿を集めることが認可されている。そしてそのドナーは、アメリカでは主に貧困層がターゲットとなっているのだ。

 障碍者、仕事はあっても貧しく生活に困窮している人たち、ホームレス、シングルペアレント、苦学生らにとって、この売血ビジネスは最も信頼できる収入源であり、生計を立てることができる生命線となっている。

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 Mint Pressによると、ドナーは週2回の献血が可能で、採血ごとに平均30ドル(約3300円)~50ドル(約5500円)の収入を得ることができる。

採血センターは、特に富裕層の健康問題がない人々をターゲットにしているわけじゃない。いつでもどこでも、週100ドル(約11000円)を必死に集めようとしている貧しい人々のエンドレスな供給源となっているんだ。

 こう語るのは、ペンシルベニア州ピッツバーグで約1年半売血を続けたアンドリュー・ワトキンスさんだ。

 また、ワシントンD.C.に住む常連ドナーの1人は、次のように話している。

献血センターは、私たちのような貧困層の人々が30ドルの売血をしないと、次に50ドル得られないことを知っているんです。私たちが必死に生活していくために売血をし続けていくことをビジネスに利用しているだけです。

血漿製剤は、価値があるもののようですから、ドナーにとって悪循環になってもこのようなシステムになることを今更驚きもしませんけど。

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【売血を続けるドナーにふりかかる悪循環】

 貧困層のアメリカ人たちは、週に2回のペースで1年に104回献血をして、なんとか生活できる収入を得ることができる。

 しかし売血し続けた70%のドナーが、倦怠感、脱水症状、無気力、認知機能障害など、少なくとも1つの副作用および健康上の合併症を抱えていることが調査では判明している。

 何度も献血をするドナーの血液は、血中のたんぱく質が減少し、感染症や肝臓・腎臓障害のリスクが高くなる。結局、多くの常連ドナーがほぼ永久的な健康障害を抱え、境界線貧血を患うことになる。

 これらは、「重度」とはみなされないまでも、ドナーにとっては完全な悪循環だ。

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 金銭的に困窮している人々が売血した結果、体調不良となり仕事が満足にできない状態になると、生活苦に陥る。そしてお金に困ると、売血をするという繰り返しだからだ。

 そうなると血漿製剤産業にとって、ますます貧困層の人々が格好のターゲットになるというわけだ。

 ウィスコンシン州に住むレイチェルさんも、売血した1人だ。

私は2回献血をして、1回は脱水症状になり、もう1回は貧血になりました。貧しいので、あまり栄養のある食べ物が食べられず、貧血になっても鉄分豊富な食事ができません。

献血センターは、リピーターや誰かを紹介した時にはボーナスまでくれるのです。1週間分の家賃や請求書代、薬代など、1回の献血分で貰える30ドルというお金はとうしても必要ですが、結局、献血し続けることが叶わなくなりました。

“squeezing blood from stones”(無い袖は振れない)ということわざがありますが、このビジネスはまさに借金を返したくても返す余裕のない貧困層の人々が陥るCatch22(どうもがいても解決策が見つからないジレンマ状態)なのです。



 今後も、ますます成長を続けていくとされているアメリカの血漿製剤産業ビジネスだが、背景にある事情を知れば、それはある意味、晩期資本主義アメリカの完全なるディストピアの具現化と言えるのかもしれない。

※追記(2019/12/24)
コメント欄にて、日本に入って来ている海外産血液製剤に関する情報をいただいた。日本では現在、全血の輸入は認められておらず分画製剤のみで、貧困層が多い地域には採血センターを設置しないそうで、ドナー管理は静脈認証を行っておりガードも固いという。

また、海外産血液製剤でも血球と分ける成分献血のみで行い、加熱やフィルター等、何度もウィルスの除去不活化工程を実施するので、全プロダクトでウィルス感染はもう何十年も起こっていないそうだ。

日本でかつて問題になった分画製剤による薬害事件は、日本のメーカーが海外の安い血液を原料として輸入し加工して作った時代の話で、その時代の危険性を利権の為隠していたことで、後々社会問題となったそうだ。要は悪いのは原料ではなく、加工する側の技術とモラルだという。

なので現在、日本で海外血製剤を投与する場合でも、危険性は少ないという。

References:Mint Pressなど / written by Scarlet / edited by parumo

記事全文はこちら:自分の血を売って生計を立てる「売血」が増加、アメリカの貧困層の現実 http://karapaia.com/archives/52285605.html
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