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大多数の哺乳類と違って、人間のメスは妊娠できなくなった後も長生きする。人間以外にメスが閉経後も長生きする動物は、シャチ、コビレゴンドウクジラ、ベルーガ、イッカクのわずか4種しか存在せず、皆、海洋生物だ。
通常なら動物の世界では、子孫を残すことが最優先されている。なのになぜ、閉経後の動物が長生きしているのか?
これまで謎とされていたその理由が、シャチのおばあさんの新たな研究で徐々に明らかになりつつあるという。閉経後のシャチにも役割があるというのだ。
【閉経後も数十年生きるシャチのメス】
シャチの寿命は野生ではオスは平均30~50歳、メスは50~90年と言われている。
シャチは母系集団で、オスやメスの子どもがその母親と生涯を共にする。メスは15歳で妊娠可能になり、30代から40代の間に人間のように閉経して繁殖を行わなくなるが、その後も人間と同じように、数十年生きる。
子孫を残せなくなったシャチのメスがなぜ長生きできるようになったのか?
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【おばあさんシャチは群れの生命線】
これまでの研究で、閉経後のメスのシャチは、エサを確保するときに重要なリーダーシップをとる役割を担っていることがわかっている。
そして新たな研究で、彼女たちの存在が群れの子どもたちの生存率をかなり上げていることを発見した。更におばあさんシャチが死ぬと、その後2年で孫の死亡率が大幅に上がることもわかった
イギリス・ヨーク大学の生物学者ダン・フランクス博士率いる研究チームは、ふたつのシャチ集団の行動や個体数のデータを36年間に渡って集め、分析した。この集団は、カナダやアメリカの太平洋岸北西沖に生息するさまざまな群れで構成されている。
その結果、閉経を迎えたメスのいる群れのほうが、その孫の生存率が高くなることがわかったのだ。
おばあさんシャチを失った群れは、エサであるサケが少なくなったときに、子どもを失う率が高くなったという。
閉経を迎えたメスの死は、群れに大きな影響を与える可能性があることがわかりました。
将来の群れの個体数を把握するときに、これは考慮するべき重要事項なのがはっきりしました。サケの数が減り続けると、おばあさんシャチの存在が群れの中でより重要になってくる傾向があるようです ーフランク博士
困ったときに食べものが得られる場所に群れを連れて行くのは、おばあさんシャチだ。捕まえた獲物を孫たちに与えるのもおばあちゃんシャチなのだ。
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【閉経後、群れを守る役割を与えられた可能性】
研究者たちは、閉経により年老いたメスが孫を世話する能力が増したと考えている。我が子を産まないおばあさんシャチは、新しい世代のためにかける時間やエサを取ることに自由に集中できるからだ。
「この発見は、シャチの生存や生殖の成功をうながす要因を説明する助けになります。研究対象の群れの一部である南に棲むシャチが、絶滅の危機に瀕していることを考えると、非常に重要な情報です」ヨーク大学のスチュアート・ナトラス博士は言う。
「メスが子育てをしているときは、自分の子どもにかかりっきりになるので、どうしても彼女たちの動きや行動は制約され、閉経したメスと同じようにはサポートやリーダーシップがとれないのでは、とわたしたちは考えています。現在、これらシャチの家族間の助け合い行動を直接調査するために、わたしたちはドローンを使って、観察を続けています」
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【シャチ以外に閉経する水棲生物は?】
閉経に関する未解決の問題はまだたくさんある。将来、イッカク、ベルーガ、コビレゴンドウクジラに関する研究が、さらに詳しい洞察をもたらしてくれるかもしれない。
閉経を過ぎても長生きするメスの能力は、ハクジラの仲間で、シャチは1回、コビレゴンドウクジラで1回、ベルーガやイッカクの祖先では1回と、3度別々に進化したことがすでにわかっている。
他の生物の閉経が進化したのには、別の要因があるのかもしれないが、少なくともシャチに関しては、種の生存のために極めて重要なことだったようだ。
この研究論文は『Current Biology』に掲載された。
References:sciencedaily / arstechnicaなど/ written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:シャチのおばあさんが閉経後も長生きする理由は孫のため(英研究) http://karapaia.com/archives/52285822.html
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