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オスとは悲しいまでにメスを求める生き物だ。それは生き残りをかけての究極の本能でもある。
だが、あるバイオテクノロジー企業が開発した蛾のオスは違う。メスを殺すべく、遺伝子を改変されているのだ。
イギリス企業「オキシテック(Oxitec)」は、以前デング熱などさまざまな病気を媒介する蚊のオスにキラー遺伝子を組み込んだ企業で、今回はその技術を作物を食い荒らす蛾に応用した。
このキラー遺伝子は、交尾した後、卵が孵化した後でスイッチが入り、幼虫がメスならば死に絶えてしまう。
【毎年作物に多大な損害を与えるコナガの幼虫】
対象となったコナガ(Plutella xylostella)の幼虫は、キャベツ、ケール、ブロッコリ、菜種といったアブラナ属の植物を食べ、毎年5000億円以上もの被害を与える、世界でも主要な害虫である。
しかも、厄介なことに殺虫剤への耐性を急速に身につけており、これまでとは違う抑制法が必要となっている。
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【メスの幼虫だけを殺すキラー遺伝子】
そこでオキシテック社は、そのオスに2種類の遺伝子を組み込んだ。ひとつは自然の中でもかんたんに見分けがつくように赤い蛍光タンパク質を作り出すもの。
そして、もうひとつが、卵がメスだった場合、孵化した後でスイッチが入り、幼虫を殺してしまう遺伝子だ。
したがって、遺伝子組み換え(GM)オスがメスと交尾をして子孫を残したとしても、幼虫がメスならば死に絶えてしまう。
だが、幼虫がオスなら生き残る。そして、やがては成長し、このキラー遺伝子を広めるべくメスを求めて飛び回るのである。
なお自然のものではない遺伝子が自然環境に拡散してしまわないか不安になるかもしれない。しかしGM蛾の子孫の半分は死んでしまうので、最終的にキラー遺伝子は数世代のうちに消え去ることになる。
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【屋外実験で野生のオスと競合できることを確認】
このGM蛾を使った初の野外実験が『Frontiers in Bioengineering and Biotechnology』(1月29日付)に掲載されている。
実験は米コーネル大学の研究グループが2017年8~9月にニューヨークで行ったもので、6ヶ所で1000~2500匹のGMオスを自然の中に放出。長期的には害虫抑制法として有効で、かつ持続可能な手段であると結論づけられた。
実験室内で観察されたのと同様、GM蛾のオスは自然環境でも普通のオスと競合して、メスを獲得する力があったことのほか、キラー遺伝子はどの実験地でも検出されず、予測どおり、自然には長く残留しないことも確認されたとのこと。
オキシテック社は蛾や蚊だけでなく、ツマジロクサヨトウといった他の害虫に値しても同様の技術を応用する予定だそうだ。
追記(2020/02/05)本文とタイトルを一部修正して再送します。
References:zmescience / newscientist./ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:交尾した後、メスの幼虫のみを殺す、遺伝子組み換えした蛾のオスが開発される(アメリカ) http://karapaia.com/archives/52287281.html
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