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大気中に含まれる二酸化炭素の増加は、海洋の酸性化も進めている。そしてこのほど、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の研究グループによって、太平洋の酸性化により、アメリカイチョウガニの殻が侵食されていることが明らかにされた。
こんなにも早くカニに影響が出るとは誰も予測していなかったようで、将来の海産物の確保や海洋生物全般の健康へ向けて鳴らされた警鐘ととらえられる状況となっている。
カニですら深刻な影響を受けているのだとすれば、食物連鎖の中の他の生物たちも、何らかの影響を受けている可能性が濃厚となってきた。
【炭酸イオンの不足がカニの殻を弱くする】
「すでにカニに影響が出ているというのなら、手遅れになる前に食物連鎖の各要素に注意を向けさせるよう手はずを整える必要が大いにあります。」と、研究グループのニナ・ベドナーセク博士は語る。
北アメリカ西海岸に生息するアメリカイチョウガニ(学名 Cancer magister)は、重要な食用種で、年間200億円を超える水揚げ量があると推定される。
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今回の調査では、海水の酸性化が進んだせいでカニの殻がもろくなり、欠けてしまっていることが判明した。
海洋酸性化は、二酸化炭素が海水に吸収されてpHが低下することで起き、これが連鎖的な化学反応の引き金となる。その帰結として、水素イオンが増え、炭酸イオンが減る。
サンゴや他の甲殻類と同様に、アメリカイチョウガニもまた炭酸イオンを利用して頑丈な殻を作っている。その材料が不足すれば適切に殻を育てることができず、外敵への抵抗力も弱くなる。
A new NOAA-funded study shows for the 1st time that #OceanAcidification along Pacific NW coast is impacting shells and sensory organs of young #Dungeness #crab: https://t.co/vV1ECrzmec
— NOAA (@NOAA) January 23, 2020
Via @NOAAResearch pic.twitter.com/m4c99Dfq6q
【カニの殻の形成異常や発達の遅れ】
産業革命以降、世界の海の平均pHは8.2から8.1へ低下し、酸性度は26パーセント上昇した。
調査で捕獲されたアメリカイチョウガニの殻には、傷やへりの異常といった、カニの泳ぐ力や浮揚する力を低下させるはっきりとした跡が確認された。
そうした殻にダメージのあるカニの多くには、通常よりも小さく、成長が遅れているらしき兆候も見られた。
酸性化がカニの「幼生」の機械的受容器を不安定にしており、重要な感覚機能や運動機能の欠損につながるリスクを生じさせているようだ。
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【予想以上に速く広まる海洋の食物連鎖全体への影響】
以前、海洋酸性化が西海岸の翼足類の生息数に影響を与えているという報告があった。これらはアメリカイチョウガニの主食であって、海洋の食物連鎖全体が重大な影響を受けているであろうことを示唆するものだ。
だが、こうした調査結果は意外ではない。意外だったのは、そうした影響が数年後ではなく、現時点ですでに確認されてしまったということだ。
研究グループは今後さらに調査を進め、アメリカイチョウガニをはじめとする海洋生物が海洋酸性化にどのように対応するのか予測したいとのことだ。
この研究は『Science of the Total Environment』(1月22日付)に掲載された。
追記(2020/02/05)本文とタイトルを一部修正して再送します。
References:noaa. / zmescience/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:太平洋の酸性化でカニの殻に異変が確認される(アメリカ海洋大気庁) http://karapaia.com/archives/52287417.html