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あなたが棚の少し高いところにしまっておいたハチミツを探しているとしよう。それがどんな形の瓶に入っていたのか覚えている。
きっと見なくても、手で触れるだけでそれと分かるはずだ。
こうした能力を「クロスモーダル物体認識」という。視覚と触覚を通じて形成される三次元物体の脳内表象のことで、部分的には、人間が脳に記憶されているその物体のイメージを思い浮かべられるためにできることだと考えられている。
どうやら、こうした心のイメージは、人間だけでなく、マルハナバチも持っているようだ。マルハナバチは複雑な認知機構を持っており、視覚と触覚を使って対象を認識できることがわかったという。
そして、これは意識の”構成単位”であるとも考えられている。
『Science』(2月21日付)に掲載された研究によると、マルハナバチはそれまで触れたことしかない物体を、目で見てそれと認識したり、その反対に目で見ただけの物体を触れるだけで認識したりできるのだそうだ。
【暗闇の中で砂糖水入りの容器の形を覚えさせる実験】
ロンドン大学クリーン・メアリーなどの研究グループによる実験では、マルハナバチをいくつかのグループにわけて、ある形の容器には甘い砂糖水が入っていることを覚えさせた。
容器には球と四角の2種類があり、どちらかの形状のものに砂糖水が入っている。だが、もう一方には苦いキニーネが入っている。
そして、あるグループについては、このことを真っ暗な中で教える。このグループのマルハナバチに容器の形状は見えず、ただ触れて感じることしかできない。
他方の明るいところで訓練したグループには、容器に触れさせなかった。そのため、容器の形状を目で見て覚えることになる。
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【触れたことはあっても、見るのは初めてなはずの容器の形状を認識】
この後で、それまでの環境を入れ替えてみる。つまり暗いところで訓練されたグループは、今度は容器には触れられず、目で見て甘い砂糖水を探さなければならない。明るいところで訓練されたグループはその逆だ。
この結果、驚いたことにマルハマバチは訓練のときよりもずっと早く砂糖水にありつくことができたという。
つまり、暗闇で訓練されたグループなら、触れたことはあっても、目で直接見るのは初めてであるはずの容器でも、すぐにお目当てのものと認識したのだ。明るいところで訓練されたグループもまた同様だ。
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【マルハナバチの驚くべき認知能力】
ロンドン大学クリーン・メアリーのクウィン・ソルヴィ博士が言うように、おそらく多くの人は、小さな脳しか持たないマルハナバチはただ刺激に反応しているだけで、世界を心で解釈するようなことはないと考えているのではないだろうか。だが、どうやらそうではないようだ。
はたして、私たちはハチの知能を過小評価していたのだろうか? あるいは、クロスモーダル・オブジェクト認識を実行するために必要となる脳の複雑さを過大評価していた可能性もあるだろう。
これまでの研究から、マルハナバチは仲間の行動を観察して学習したり、ポジティブな感情を表現したりできることが知られていた。
その賢さはすでに分かっていたのだが、それでもなお今回の結果は研究者にとって驚きだったという。
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【小さなマルハナバチにも己を認識する意識がある】
ラーズ・チッカ教授によると、この結果は私たち人間とマルハナバチには、これまで考えられていた以上に共通したところがあることを示す科学的証拠であるという。
なお、ここでの「意識」には注意が必要とのことだ。そもそも、意識とは単純な基準で定義することが難しい、非常にとらえどころのない現象だ。したがって、今回の結果は、マルハナバチに意識があるという完全な証明であるわけではない。
それでも今回の研究結果やそのほかのハチの心理を扱った研究を総合して考えれば、小さなマルハナバチにも己を自覚する意識があるらしいことが指し示されていると、チッカ教授は述べている。
References:sci-news / abcなど/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:マルハナバチは視覚と触角を使って、それが何かを認識する認知能力がある(英研究) http://karapaia.com/archives/52288302.html
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