
jijake1977 from Pixabay /iStock
相対性理論的宇宙の中では、一番近い星ですら遥か彼方にあり、そのくせ我々は光速を超えることができない。
だからこそ、SF小説の作家たちはストーリーを面白くするために、光よりも速く移動する方法を考案する必要があった――それがワープ航法だ。
話のギミックとしてしか存在していなかった夢の航法であるが、最近、科学者たちの間では、もしかしたら実現できるかもしれないワープ航法理論が話題となっているようだ。
【相対性の法則を破ることなく光速を超える「アルクビエレ・ドライブ」】
実現可能かもしれないワープ航法の名を「アルクビエレ・ドライブ」という。
1994年にメキシコの物理学者ミゲル・アルクビエレが提唱した理論で、光速を超える速度に到達可能でありながら、宇宙における時空とエネルギーの相互作用について記述したアインシュタイン方程式の解に基づいている。
アルクビエレ・ドライブは、宇宙船の後方に小型のビッグバンを起こして時空を膨張させつつ、前方には小型のビッグクランチを起こし、時空を収縮させることで、時空の波を作り、機体を押し流すという航法だ。
理論的には、この波の中の「ワープバブル」に乗ることで、宇宙船は光速を超えることができる。
宇宙船は時空を通過するわけではなく、時空自体が移動し、それに乗るのだから、従来の相対論的効果は当てはまらない。こうして、相対性の法則を破らずに光よりも速い移動が可能になる。
[画像を見る]
jijake1977 from Pixabay
【超光速航法の再評価の機運】
アルクビエレ・ドライブは完全に理論上のもので、しかも多分に思弁的であるとして一般には受け入れられていない。しかし、ここ数年でまた盛り上がりを見せている。
たとえば、アメリカ航空宇宙学会が主催した昨年の推進・エネルギーフォーラムにおけるジョセフ・アグニュー氏(アラバマ大学の大学院生)によるプレゼンテーションもこの話題を扱ったものだ。
こうした再評価の流れは、NASAジョンソン宇宙センター、高等推進物理学研究所(Advanced Propulsion Physics Laboratory)のハロルド・ホワイト博士によるところが大きい。
2011年のシンポジウムで、ホワイト博士は、「ワープ・フィールド・メカニクス101」と題されたプレゼンの中で、アルクビエレ・ドライブに関する最新の研究を発表。
同博士は、アルクビエレ・ドライブ理論について、いくつか本格的な検証とさらなる理論の進展が必要であるものの、理にかなっていると評した。
これ以来、この超光速航法は、一部の科学者たちから再び注目を集めるようになったのだ。
[画像を見る]
Pete Linforth from Pixabay
【近年における重要な発見】
アルクビエレ・ドライブ理論の研究はまだ黎明期にあるが、それでも近年では理論的な発展をうながすかもしれないいくつかの発見がなされている。
たとえば、2016年にレーザー干渉計重力波天文台(LIGO)が重力波の検出に成功した。これはアインシュタインが残した1世紀前の予言が正しかったことを証明するとともに、アルクビエレ・ドライブの基礎となる現象が存在することをも証明している。
先述したアグニュー氏によれば、この発見は、巨大な重力場が存在すると時空が歪んで曲がることを経験的に示したもので、時空の拡大・収縮を利用したアルクビエレ・ドライブ理論に関連する最近ではもっとも重要な進展の1つであるそうだ。
【ワープ航法実現に立ちはだかる最大の障壁】
一方で、最大の障壁はエネルギーだとアグニュー氏は考えている。電磁場や質量といった形をとる高エネルギーによって、時空が湾曲することなら知られているが、そのためのエネルギー量は半端なものではない。
アルクビエレ・ドライブを実現するには、正のエネルギーだけでなく、負のエネルギーまでが必要だ。負のエネルギーを生み出すには仮説上の粒子であるエキゾチック物質を利用するしかなく、しかもそのための質量はなんと木星に相当すると試算されている。
現実には、木星並みのエキゾチック物質を確保するなど無理難題であって、この点についてはより現実的なエネルギー量に落とし込めるような理論的進展が必要になるだろう。
それでも当初の想定に比べれば、ずいぶんと楽にはなっている。
というのも、同理論が登場した頃の試算では、必要になるエネルギーは宇宙全体の質量に匹敵するとされていたのだ。
[画像を見る]
Genty from Pixabay
【歴史上の偉大な発明と同じく、茨の道を突破することができるか?】
アグニュー氏の考えでは、アルクビエレ・ドライブを完成させる鍵を握るのは、量子理論とメタマテリアルであるという。また技術的には、超電導体、干渉計、磁力発生器の開発が不可欠であるそうだ。
そして、当然ながら資金も確保しなければならない。こちらは無から湧き上がってくるアイデアとは違って、研究者にとってはいつも悩みのタネだ。
航空電子工学、核研究、宇宙探査、電気自動車、再利用可能ロケットブースター――いくつもの偉大な発明と同じく、アルクビエレ・ドライブもまた茨の道を歩まねばならない運命にあるようだ。
しかし発明の歴史に学ぶなら、いつかはトンネルの先に光が見えるようになり、ついには視界が開けるようなこともあるかもしれない。
そのとき、人類は銀河の果てまで旅をすることが可能になることだろう。
References:universetoday / sciencealert/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:小型ビッグバンとビッグクランチを駆使して光速を超える!? 実現可能なワープ航法が科学者たちの間で話題に http://karapaia.com/archives/52288562.html
編集部おすすめ