
霊長目ヒト科に属するゴリラは同じくヒト科に属する人間と、これまで考えられている以上に共通点が多いようだ。彼らの社会性は驚くほど人間と似ている。
人間は自分の所有しているものに関してその権利を主張するが、ゴリラも同様だった。
これまでの常識では、ゴリラは自分の縄張りを誰かが通行したとしても、特に怒ったりはせず、平然としているとされてきたが、ところが、ニシローランドゴリラには、縄張りの所有という概念があることを示す初めての科学的証拠が得られたそうだ。
自分の土地を勝手に通行しようとするゴリラがいれば、とんでもない大騒ぎが起こるようなのだ。人間が自分の家の庭に他人が入ってくるのを嫌がり、我が家を守ろうとするのと一緒である。
【ゴリラには自分の土地を守る習性がある】
スペインやイギリスなどの研究者によって今回調査されたのは、コンゴ共和国オザラ=コクア国立公園で暮らす「ニシローランドゴリラ(学名 Gorilla gorilla gorilla)」だ。
研究グループは、2015年1月から2016年7月にかけて、60km2の範囲に点在するエサ場に仕掛けたカメラで、8つのゴリラグループを観察した。そして明らかになったのは、ゴリラは我々人間と同じく、自分の土地を暴力を行使してでも守ろうとするということだ。
彼らの行動は、少なくとも部分的には、近隣グループの位置を強く意識したものであるらしく、日の早いうちによそのグループが現れると、そこで暮らすゴリラはそのエサ場ではあまり食べなくなる。
「私たちの発見は、ゴリラには区画の”所有権”があり、近隣グループの位置によって自分たちの移動が制限されるという理解が存在することを示しています」と、研究の筆頭著者であるケンブリッジ大学(イギリス)のロビン・モリソン氏は説明する。
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Robin Morrison & Jacob Dunn
【ゴリラの行動常識をくつがえす発見】
この発見は、ゴリラの習性に関する従来の常識を完全にくつがえすものだ。
ゴリラの行動圏はしばしば重なり合っていながら、それでいて他のゴリラに対してかなり平和的な態度をとる。
だから、ゴリラには縄張りを持つ習性がないし、それを巡ってグループ同士のいざこざが生じるようなこともない――これが従来の研究者の主張だった。
なにしろ、他者に対するこうした穏健な態度は、ゴリラともう1つの人間の親戚であるチンパンジーを分ける重要な特徴であると以前より考えられてきたくらいだ。
ところが、そうではなかったのである。
とは言え、ゴリラの縄張りの境界は曖昧である。
ゴリラの縄張りについて、「チンパンジーのようにきちんとした境界を作りません」と、モリソン氏は説明する。
境界付近ならばよそ者がいたとしても、みだりに攻撃を加えるようなことはない。
だが、どうやら行動圏の中心付近に、相手の侵入を許さない優先地域や独占地域のようなものがあるらしく、そこに部外者が侵入しようものなら、物理的な攻撃で撃退しようとする。
ゴリラは他の霊長類の仲間ほど攻撃的ではないが、公開された動画を見れば、そうした境界を侵されたときに、どれほど大騒ぎになるのかが分かる。
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Western Lowland Gorillas in the Odzala-Kokoua National Park, Republic of Congo
【ゴリラにも人間と同じように複雑な社会ルールが存在する】
まさに人間のように、ゴリラには複雑な社会的ルールが存在する。すなわち、ルール違反にもいろいろな種類があり、その違いによって対応が変わってくるということだ。
モリソン氏によると、ゴリラのグループ同士は行動圏が重なることも、そこで平和に共存することだってできるのだという。このような空間の防衛と共有に関する柔軟な体制は、ゴリラたちには複雑な社会構造が存在することを示唆しているのだそうだ。
実際、よそのグループと遭遇したゴリラたちが、比較的落ち着いて行動している様子も撮影されている。
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Western Lowland Gorillas in the Republic of Congo
【人間が戦争を行うようになった進化的基盤を示唆する!?】
この発見は、人間の進化を理解する上でもヒントになるという。それどころか、人間同士が戦争を行うようになった進化的基盤の科学的証拠にすらなるかもしれない。
「ゴリラが独占する核となる区画と相互に寛容さを示す大きなゾーンは、初期人類の社会的進化を理解する一助となるかもしれません」と、論文共著者のジェイコブ・ダン氏(アングリア・ラスキン大学)は声明で述べている。
こうしたゴリラの行動は、我々霊長類の仲間たちには、縄張りを守るための暴力的な側面と、幅広い社会的協力に不可欠なグループ同士の親和的な側面の両方が備わっていることを示しているそうだ。
進化を成功させるために、協力・適応・探検というスキルに頼ってきた我々人間とちょうど同じように、ゴリラの社会的行動もまた彼らを繁栄させてきたのかもしれない。
この研究は『Scientific Reports』(3月12日付)に掲載された。
References:scitechdailyなど / written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:おなじヒト科だもの。人間とゴリラは思っている以上に共通点がある。自分の領土に対する意識の研究 http://karapaia.com/archives/52288902.html
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