
陰謀論(Conspiracy theory)には長い歴史があるが、「陰謀論」という名称が使われるようになったのは、ずっと最近になってからのことだ。この名称が今日のように策謀的な意味合いを持つようになってから、ほんの数十年しか経っていない。
では「陰謀論」という名前はいつ、誰によって生み出されたのか?その名称の起源ついての陰謀論があったとしても、驚くにはあたらないだろう。
ある陰謀論によると、陰謀論という名称は、ジョン・F・ケネディ暗殺の公式見解を疑う者たちの評判を貶めるために、1967年にCIAによって考案されたのだという。
【2つの陰謀論の起源の陰謀論】
じつはこの陰謀論の起源の陰謀論には2つのバージョンがあるという。
より過激なバージョンでは、CIAがまさに”陰謀(Conspiracy )”と”論(theory)”というそれまでになかった組み合わせを考案したと主張する。
もう1つはやや穏健で、陰謀論という言葉自体はそれ以前より存在していたが、CIAが政治的プロパガンダの道具とするべく、そこに侮蔑的な意味合いを与えたと主張する。
ここ最近では、2つの理由のために、穏健バージョンのほうが支持を集めているようだ。
その理由とはまず、陰謀論という名称をCIAが直々に考案したという説は、かなり簡単に反証されてしまうことだ。
Google ブックスで検索すれば、「陰謀論」という用語が1870年代頃には存在していたことが確認できる。
そして、もう1つの理由は、数年前に政治学者のランス・デヘブン・スミスが権威ある某大学出版社から発表した著書の中で言及されていることだ。
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【CIA考案説の動かぬ証拠】
このように多少の差異はあるにしても、陰謀論という呼称の起源に関する陰謀論を支持する向きは、必ずと言っていいほど、その動かぬ証拠としてCIAの公式文書「Concerning Criticism of the Warren Report(ウォーレン報告書への批判について)」を取り上げる。
これはニューヨーク・タイムズが情報自由法の下で要求し、1976年に開示された文書だ。
同文書では、ウォーレン委員会がまとめたケネディ大統領暗殺事件の検証結果をかなりの数の人間が疑っていることについて、懸念が表明されている。
また同委員会の検証結果に異を唱える者たちに反論するため、CIA関係者を理論武装させることも狙いだった。
たとえば、まともな人間なら、暗殺実行犯とされたオズワルドのような不安定な輩を大きな計画の手駒として利用したりはしないだろうと強調したり、懐疑論者たちの理論的な矛盾を指摘したりしている。
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gorodenkoff
【CIA文書における「陰謀論」の扱い】
人によっては、CIAが世論を操作しようとするなど言語道断と思うかもしれない。
しかし、問題の文書の中に、CIAが報告書への批判の信憑性を貶めるために「陰謀論」という用語を武器として利用し、あまつさえそれを考案したなどという記述は、一文たりとも登場しない。複数形の「陰謀論」という単語が、第3パラグラフの中で事もなげにたった1度だけ利用されているだけだ。
「各種陰謀論(Conspiracy theories)は、たとえばリー・ハーヴェイ・オズワルドが我々の手先だったなどという虚偽の主張を唱え、度々我々組織に対して疑念を投じてきた。」
CIA文書の作成者は、その用語をかなりカジュアルに用いており、きちんとした定義が必要だと感じていないのは明白だ。これは、陰謀論という用語が新しいものではなく、当時すでに公式見解とは異なる説のことを指して広く使われていたことを示している。
また作成者は、ケネディ暗殺についての異説にレッテルを貼るために、「陰謀論」という用語を使えなどと奨励してもいない。このことは、その当時、陰謀論に今日のような否定的な意味合いがなかったことを示唆している。
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History Matters Archive
【なぜ陰謀論の起源の陰謀論が登場し、広く信じられるに至ったのか?】
より興味深いのは、このような陰謀論が登場し、大勢がそれを信じるに至った理由だろう。
陰謀論の起源の陰謀論の変遷に関するきちんとした研究が今のところないため、これが登場した正確な時期は分からない。しかし、1980年代か90年代ではと推定しても差し支えなかろう。
というのも、「陰謀論」という用語に今日のような侮蔑的な意味合いが込められるようになったのは、80年代のことなのだ。そして陰謀論の起源の陰謀論は、そこに込められる否定的な意味合いが大きくなってしまったことへの反応である可能性が高い。
またCIA考案説が大勢に信じられるようになった理由は、陰謀論のより大きな歴史におけるケネディ暗殺事件の役割やその人気によるものだろう。私たちは今、まるで陰謀論の世界で生きているかのように思えるが、じつはそうした話はかつての方がずっと人気があった。
少なくとも17世紀から1950年代にかけて、世界や公に語られる事件の真相を理解する術として、陰謀論は広く受け入れられていた。それはエリート層によって、主に外敵や国家転覆を目論むとされた不穏分子を標的として語られた。
そのような陰謀論が、重大な出来事に汚名を着せるための説明になったのは、せいぜい1950年代末から60年初頭にかけてのことだ。
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【メインストリームから傍流へと凋落した副作用】
このように陰謀論が社会のメインストリームから傍流へと追いやられた副作用として、今度は社会的エリートや政治的エリートがその標的とされるようになった。今やそれが語るのは、国家転覆を目論む陰謀などではなく、国家が黒幕の陰謀だ。
さらにもう1つの副作用として、陰謀論という呼称に侮蔑的な意味合いが含まれるようになった。
ケネディ暗殺事件は、陰謀論者が国家は密かに怪しからぬことを企んでいると非難し、こうした一般とは異なる見解が、1967年のCIA文書に記されているように、陰謀論と呼ばれた最初の事例だろう。
ゆえに、ある出来事が邪悪な人間による意図的な行為であると非難したがる陰謀論者たちが、この用語の登場をケネディ暗殺に関する公式見解を守るための意図的な行為であったとみなしたとしても、特に驚くにはあたらないのだ。
References:There's a conspiracy theory that the CIA invented the term 'conspiracy theory' – here's why/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:「陰謀論」という言葉はCIAによって生み出されたという陰謀論(アメリカ) http://karapaia.com/archives/52289262.html
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