ギロチン処刑と古代ローマ貴族。18世紀にフランスでショートカットが流行った理由。


 18世紀以前、フランスの女性はロングヘアが主流だった。それが18世紀後半になると、ばっさりと短いショートヘアの女性を見かけるようになった。


 一体何が起きたというのか?フランス革命の嵐が吹き荒れていた18世紀のフランスの歴史を紐解いていくと、その理由が明らかとなる。

 そのキーワードは古代ローマ貴族とギロチン処刑だ。
【古代ローマ貴族と18世紀フランスのショートカットの関連性】

 フランス革命後期、上流、中流階級の若くファッショナブルな男女が、こぞって髪を短くし始めた。

 これは『ティトゥス・カット』と呼ばれてたいそう流行った。ティトゥスとは、紀元前509年、君主制を打倒して共和制ローマを設立した、ルキウス・ユニウス・ブルトゥス(ブルータス)の長男ティトゥス・ユニウス・ブルトゥス(ブルータス)のこと。

 古代ローマの貴族と18世紀後半のフランスのショートヘアスタイル。一見関連のなさそうなこの関係は、1729年に始まった。

【フランス革命で大ヒットとなった古代ローマの芝居】

 1729年という年は、フランスの啓蒙作家ヴォルテールが、5幕ものの芝居『ブルトゥス(ブルータス)』を完成させた年だ。これは、自分の息子ティトゥスを死に追いやった、ルキウス・ユニウス・ブルトゥスの伝説をもとにしている。

 ティトゥスは、君主制を復活させ、いったんは追放されたルキウス・タルクィニウス・スペルブス王を返り咲かせようとする陰謀に加担したとされ、処刑された。

 ティトゥスがスペルブス王の娘タリーにぞっこんだったことが利用され、共和制ローマを裏切る陰謀の首謀者たちに引きずり込まれたのだ。

 元老院に捕まったティトゥスが父親に引き渡されたとき、ブルトゥスは息子を許したが、共和国の安定を揺るぎないものにするために、息子の処刑を主張した。


 この『ブルトゥス』は、ヴォルテールのヒットしなかった芝居のひとつだった。初演は1730年だが、従来の悲劇としての芝居理論を成していない、ブルータスの性格描写がひどすぎるとして酷評され、たった15回の上演で打ち切りになった。

 しかし、フランス革命のとき、当時のフランスの状況を踏まえて再上演されると、今度は大きな反響があった。

 1790年11月17日、パリのコメディ・フランセーズでの初日、ブルータス役の役者が"神よ! 隷属よりも死を与えたまえ!"と叫んだとき、劇場は興奮の渦と化した。

 1791年5月30日、ヴォルテールの13回忌の日、『ブルータス』は王立の国立劇場(のちのオデオン座)と、ライバルのテアトル・ドゥラレピュブリックで上演された。

 ティトゥス役の俳優、フランシス=ジョゼフ・タルマは、髪を短くカットし、古代ローマ風の衣装で演じた。その数日後、パリじゅうの若者が“ティトゥス風”ショートヘアを真似し出したのだ。

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【ギロチンによる処刑者の断髪の影響も】

 このショートヘアは、フランス革命ともうひとつの点で関係がある。ギロチンの刃だ。

 何千人もの人を処刑した恐怖政治の後、奇妙なことに若者の間で、ギロチンにかけられた痛ましい犠牲者を装うファッションが流行った。

 実際の犠牲者たちは、処刑前に執行人に髪を短くカットされた。ギロチンの刃が一発で確実に首を落とせるようにするためだ。


 それを真似て、髪を短くし、赤いリボンを首に巻いて、首が切断された"印"にしたという。多くの上流階級が"犠牲者の舞踏会"と称したパーティを主催し、古い支配体制が終わったことを祝った。

 パーティの出席者たちは、わざとみすぼらしいドレスやサンダルに裸足といった格好で、死に向かう哀れな犠牲者になりきってパーティに参加した。

 裸足は、断頭台に向かった女性たちが裸足だったことをほのめかしている。しかし、歴史家によれば、当時の証拠がほとんど残されていないため、このような舞踏会が実際に開かれていたかどうかは疑問だとしている。

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 ティトゥス・カットが人気になるにつれ、この新しいヘアスタイルはさまざまな方面から支持された。

言ってみれば、髪をアレンジして顔をこしらえるのに不利益を被る人などいない!どれほど多くの人が、広いおでこやこめかみをさらしすぎていることだろう!

ティトゥス・カットは、こうした欠点をうまいことカバーするのだ

19世紀のフランスの美容師は書いている。

さらに続く。

長い髪をバサバサたなびかせることほど、いただけないことはあるだろうか? 動きを妨げ厄介だし、ちっとも優雅ではない。

挙句の果ては、長い髪を編んだりひとつにまとめたりして、あたかもティトゥス・ヘアのように、頭を小さく見せようとする。ご本人が望めば十分に可能なのに、わざわざ長くわずらわしい髪をそのままにしておく面倒など必要なのだろうか?

References:
https://shannonselin.com/2015/05/coiffure-a-la-titus/
https://en.wikipedia.org/wiki/Bals_des_victimes
http://www.fashionencyclopedia.com/fashion_costume_culture/European-Culture-18th-Century/Fashion-la-Victime.html
/ written by konohazuku / edited by parumo

記事全文はこちら:ギロチン処刑と古代ローマ貴族。18世紀にフランスでショートカットが流行った理由。
http://karapaia.com/archives/52289808.html
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