人の夢に入り込む。マサチューセッツ工科大学が夢をハッキングするデバイスを開発中

もはや夢を操作できる時代に?pixabay
 私たちは一生の3分の1を、睡眠という謎めいた潜在意識の世界で過ごしている。普段は意識されないその世界を垣間見せてくれるのが、夢だ。


 夢はただ見るものであって、現実の生活にはほとんど何の意味もないと思うかもしれない。だが今、マサチューセッツ工科大学(MIT/アメリカ)の研究グループは、夢をハッキングして、それを実用的なものにしようとしている。

【夢に入り込み干渉するとどうなるのか?】

 「夢は、夜の思考にすぎません」と、MITメディアラボ博士課程の学生アダム・ホロウィッツ氏は話す。

 「内側に潜れば、朝には変わっているでしょう。でも情報のそうした変化の体験やそれを導く思考について深く考えることはありません。」

 ホロウィッツ氏らが取り組んでいるのは、そうした問題だ。過去の研究によって、夢が記憶の強化感情の制御メンタルヘルスの維持といったことに関係しているらしいことが明らかにされている。

 だが、彼らはそこからさらに一歩踏み出し、もし夢に干渉したらどうなるのかを確かめてみようと目論んでいる。

An MIT Lab Is Building Devices to Hack Your Dreams - OneZero
https://onezero.medium.com/an-mit-lab-is-building-devices-to-hack-your-dreams-d1a10ff932e3


【夢を日常生活に活かすハッキングデバイス】

 そのために彼が所属するドリームラボでは、夢をモニターし、干渉することができるオープンソースのウェアラブルデバイスを開発している。

 その狙いの1つは、夢が単なる無秩序な思考のツギハギなどではなく、より深い認知へのアクセスポイントであるということを証明すること。さらに大きな目標は、夢をハッキングして、日常生活に活かすことだ。

 「人生の3分の1が、より良い自分を作るために作り替えられるかもしれない3分の1であるということにみんな気がついていません。記憶力や創造力の強化であれ、次の日の気分やテストの成績の改善であれ、夜には実用上重要なできることがあるのです。」

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kentoh/iStock
【睡眠をモニターして、潜在意識のアイデアを取り出す手袋】

 ホロウィッツ氏の秘密兵器は「Dormio」という手袋のようなデバイスだ。
これは、眠りに落ちる寸前の、思考が現実から開放されて夢が始まろうとしている半覚醒状態をハッキングして、柔軟な思考や自由な連想を強化するデバイスだ。

 Dormioの基本原理はそう新しいものではない。たとえばトーマス・エジソン、ニコラ・テスラ、サルバドール・ダリといった発明家やアーティストは、手に鋼球を握ったまま昼寝をしていたと伝えられている。

 うとうとと半覚醒状態に入ると、手が緩んで球を落とす。すると目が覚めるので、潜在意識の中に漂っていた創造的なアイデアを手にすることができるというわけだ。

 Dormioはその発展形で、手首と指に仕込まれたセンサーが筋肉・心拍・皮膚の伝導性を通じて、着用者の睡眠ステージをモニターする。そして半覚醒状態に入ったサインが検出されると、音声(通常は単語)を鳴らして眠りに介入する。

 50人に対して実験してみたところ、音が着用者の夢にきちんと登場することが判明した。たとえば、”トラ”という単語を合図にしてみたところ、着用者がトラの夢を見たのだ。さらに、こうした夢への介入によって、創造性が向上することも確認されたという。

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MIT
【ニオイで記憶力をアップさせるアロマディフューザー】

 ドリームラボでは、音声だけでなく、ニオイで潜在意識のさらに深いところにアクセスし、夢に干渉する方法も模索されている。それが博士課程学生のジュディス・アモーレス氏が開発するウェアラブル・アロマディフューザー「BioEssence」だ。


 BioEssenceは、心拍数と脳波から眠りの状態をモニターして、眠りが「ステージ3」(記憶が固着される段階)に入った瞬間、記憶や学習された行動に関連する香りを放出する。すると潜在意識下で記憶が強化されるという仕組みだ。

 音声や触覚タイプのものと違い、ニオイを使うので、使用者が目を覚ましにくいという特徴がある。

 「嗅覚が興味深いのは、脳の記憶や感情を司る領域、つまり扁桃体と海馬に直接つながっていることです。心の満足にアクセスできるとても興味深いゲートなのです」とアモーレス氏は言う。

 アモーレス氏は現在、BioEssenceでトラウマやPTSDに関係している不適応記憶を変化させるという実験をしている。悪夢を見ている最中に、いい思い出があるニオイを嗅がせて、心の傷を無意識のうちに治療してしまうのだ。

 映画『インセプション』を思わせる夢の補強というアイデアは、じつのところかなりシンプルだ。

 たとえば目覚ましのアラームが夢の中でも鳴ったり、誰かがあなたを起こそうと揺り動かしたときに、地震の夢を見たりするような場合を想像してほしい。ドリームラボが利用しているのは、こうした周囲の環境が夢に影響を与えるごく自然な傾向だ。

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【人の夢へ介入することの危うさ】

 しかし、こうした夢への干渉に関心しない人たちもいる。アリゾナ大学(アメリカ)の心理学者ルビン・ナイマン博士は、夢の重要性と力の根元は、それ自体で展開される能力にあるという。
そこに介入するなど、彼に言わせれば、過干渉にもほどがあるというのだ。

 「夢のハッキングなどというものは、そもそも潜在意識が知的ではなく、人生には無意味なものだという前提に依拠しています」と、ナイマン博士は言う。
 
 「潜在意識はまた別の形の知性です。そこから学ぶことができます。それは支配したり、介入して自分勝手に操作するべきものではなく、対話すべきものです。」

 ナイマン博士は、それが眠りに与える影響についても懸念している。半覚醒状態は、起きている状態と眠っている状態をつなぐ橋だ。それを乱せば、不眠になってしまう恐れだってある。

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【夢のハッキングにまつわる不気味なイメージ】

 ドリームラボの研究者は、夢への介入によって不眠になるようなことはないと考えているが、夢をハッキングするという行為が少々薄気味悪いものであることは承知している。実際、そうした不気味な雰囲気をイメージした『Cocoon』という動画まで制作した。

 「夢エンジニアリングの倫理に関する議論のきっかけを作ることが狙いです」とアモーレス氏は説明する。

 動画には、DormioやBioEssenceといったドリームラボが開発したデバイスが登場しており、そうした技術による潜在意識への介入が、自分で手綱を握っているとは思えない方法でなされているという現実を認めている。

[動画を見る]Cocoon
 だがホロウィッツ氏もアモーレス氏も、彼らの意図が夢の完全なコントロールなどではなく、自分の深いところにあるものに触れられる空間へのアクセスを手助けすることである、という点についてははっきりしている。


 「『マッピングして、制御しよう』といったこととは違います。むしろ『メガネをあげるから、何が見えるか見てごらん』といった感じです。人を自分自身から切り離してしまうようなツールにはまったく関心がありません」とホロウィッツ氏は言う。

 またアモーレス氏はこう話す。「これはすでに私たちが持っている力に意識を向ける試みですよ」と。

【誰にでも手に入れられる夢へのアクセス】

 夢を育もうという試みは昔から行われてきた。そうした研究者は、既存のローテク技術で夢に影響を与えて、研究のヒントを得たり、悪夢を解消したりしようとしてきた。

 ドリームラボが目指すのは、そうした方法の規格化・民主化を行い、研究者はもちろん一般の人も利用できる技術を開発することだ。ゆえに、ここで開発されているソフトウェアやハードウェアは一般公開されている。

 さらにアモーレス氏とホロウィッツ氏は、彼らのデバイスをいろいろな研究者に使ってもらおうとしている。

 たとえばハーバード大学(アメリカ)のディアドラ・バレット教授は、プロのアーティストがDorminoを利用したときに、より深いレベルの創造性を発揮できるかどうか調べる研究を計画している。

 だが、それ以上に彼女が喜んでいるのは、それが安価で利用可能な夢研究のツールであることだ。


 「このグループが素晴らしいのは、安くて、家でも簡単に使えるデバイスを作っているところです。それは普段の眠りを大きく妨げることもないですし、それでいてわずかな予算で大規模な研究を行うこともできます。わざわざ実験室まで来てもらう必要がないのだから、自然な状態で見る夢について良好なデータを得られることでしょう」と、バレット教授は評している。

 夢をコントロールするのではなく、誰でも夢にアクセスできる技術を作る――これこそがドリームラボの研究者が望んでいることだ。

References:An MIT Lab Is Building Devices to Hack Your Dreams - OneZero/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:人の夢に入り込む。マサチューセッツ工科大学が夢をハッキングするデバイスを開発中 http://karapaia.com/archives/52289908.html
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