
ペンギンのフンから笑気ガス marktucan/iStock
世界の最果ての生態系を知るには、まず過酷な気候と地形に対応する術を身につけなければならない。
が、しかし、極地でサバイバルする方法を知る研究者といえども、ペンギンのフンから放出されるガスは予想外だったようだ。
キングペンギン(別名オウサマペンギン)の巨大コロニーがある南極のサウスジョージア島で研究を行っていた研究者らは、ペンギンの大群が発する笑気ガスを吸いすぎておバカになってしまったようだ。
【氷河が後退した土地でペンギンが大量繁殖】
南極の北側に浮かぶイギリス領サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島――その1つを構成するサウスジョージア島は、このところキングペンギンを研究するには絶好の場所となっている。
最近の温暖化で氷河が後退したおかげで、キングペンギンが繁殖するにはうってつけの土地が出現したからだ。
今、この島には大人のキングペンギンが30万羽生息している。これだけのペンギンがいれば当然それだけフンも出るわけだが、それが困った事態をも引き起こしているという。
『Science of The Total Environment』(5月20日付)に掲載された研究によれば、じつはそのフンからは温室効果ガスが放出されており、そのおかげでいっそう氷河が解けてしまっているのだそうだ。
そして、氷河が後退した土地にさらにキングペンギンが繁殖し、よりいっそう融解が進むというループが形成されてしまっている。
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【研究者をおバカにする笑気ガス】
だが、フンの影響を受けるのは環境だけではない。そこで調査を行っていたデンマークと中国の研究者は、だんだんと具合が悪くなり、頭までおかしくなってきたという。
それもそのはず、彼らはその日、フンから放出されていた亜酸化窒素――つまり笑気ガスを吸っていたのだ。
「数時間もフンの臭いを嗅いでいれば、完全にアホになります。気分が悪くなって、頭が痛くなったりもします」と、コペンハーゲン大学(デンマーク)のボー・エルバーリング氏は話す。
笑気ガスは、吸入すると陶酔感をもたらすガスで、麻酔作用があることから医療の現場でも使われている。笑気という名称は、これを利用した手術中に、患者の顔が弛緩して笑っているように見えたことにちなむらしい。
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【ペンギンのフンの強力な温室効果】
キングペンギンは、窒素濃度が高い魚やオキアミをたくさん食べる。だが、フン自体に笑気ガスが含まれているわけではないそうだ。
ガスが発生するのは、フンが体外に排出されて地面に落ちてからのことだ。土の中に潜んでいる細菌が亜酸化窒素に変えてしまうのだという。
困ったことに、大気に放出された亜酸化窒素は紫外線によって一酸化窒素に分解され、オゾンを破壊する。さらに、その温室効果は二酸化炭素の300倍もある。
研究によれば、現時点ではキングペンギンのフンから放出される亜酸化窒素が世界的な影響を与えるようなことはないようだが、個体数が増えれば、それだけフンが増えるのも間違いない。
Combined effects of glacial retreat and penguin activity on soil greenhouse gas fluxes on South Georgia, sub-Antarctica - ScienceDirectReferences:sciencedaily / mentalflossなど/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969719352477
記事全文はこちら:ペンギンのフンから発生する笑気ガスを吸って研究者がイカれてしまうという事案が発生(サウスジョージア島) http://karapaia.com/archives/52291319.html
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