
古代マヤの巨大都市が放棄された理由 /iStock
1000年以上も長きにわたり、古代マヤ文明の都市ティカルは、最大かつ重要な中心都市として君臨していた。
しかし、9世紀後半ごろに、ティカルと周辺の多くの町から忽然と人がいなくなってしまった。
新たな分析の結果、ティカルにあった貯水池が、この集団移住の謎を解く重要なカギであることがわかった。
米オハイオ州、シンシナティ大学の研究チームが、現在のグアテマラにあったティカルの貯水池の堆積物を分析した結果、ティカルの住民が飲み水として利用していた水が、毒物に汚染されていた証拠が見つかったのだ。
【貯水池の堆積物をDNA分析】
古典期マヤの大都市「ティカル」はたびたび深刻な干ばつにみまわれ、湖や川から切り離されていたため、雨水による汚染物質が貯水池に蓄積され、ピーク時には10万人もいたと言われるティカルの住民に悪影響を及ぼした可能性はある。
「ティカルにいくつかある主要な貯水池が、生きるための大切な水から、病気を引き起こす疫病神に変わってしまったことが、実質的、象徴的にこの巨大都市が放棄される原因になったのだろう」研究者は書いている。
ティカルの貯水システムがどのように住民の生活を支えていたのか、あるいは支えられなくなったのかを探るため、研究チームの生物学者、デヴィット・レンツは、ティカルの10の貯水池の堆積物を採取した。
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貯水池のひとつPerdidoに降りる大学院生のブライアン・レーン image by:Nicholas Dunning/UC
【貯水池に有害な2種の藍藻の存在を確認】
古代の泥にまだ含まれているDNAを分析したところ、有毒物質を生み出す2種類のシアノバクテリア(藍藻)の痕跡が見つかった。
それらはプランクトスリックス(糸状藍藻)やミクロキスティスで、ティカルが繁栄していた何世紀もの間、貯水池に蓄積されていったようだ。
そして9世紀半ば、ティカルが放棄される直前、深刻な旱魃の時期にミクロキスティスが異常繁殖し、アオコが爆発的に増えたことが特に問題になった。
「貯水池の水は、見た目にもひどいありさまだったことでしょうし、味もひどかったはずです」研究チームの地質考古学者、ケネス・タンカスリーは言う。「緑色に染まった臭い水など、誰も飲みたいとは思わなかったでしょう」
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Jimmy Baum/Unsplash
【高レベルの水銀も検出される】
毒性の源は、水中の微生物だけではなかった。堆積物の中に高いレベルの水銀が含まれていることがわかったのだ。
水銀は地下の岩盤や、降ってきた火山灰から貯水池の水に浸出することもある。
こうした自然環境からの水銀汚染の原因以外を除くと、マヤの人びとが自ら汚染物質を持ち込んだ可能性もあることに気づいた。
「古代マヤの世界では、色は重要な要素でした。赤い漆喰を使って壁画や墓を彩ったのです。酸化鉄と合わせて、陰影を変えるようなことも行われていました」
マヤの場合、赤い塗料に使った成分のひとつは、赤い色をした鉱物、硫化水銀で、人体にとっては有毒だ。
硫化水銀の毒性については、マヤでもほかの古代世界でも知られていたようだ。直接、触れることに関しては気をつけたたかもしれないが、雨水が壁に塗られた色素を洗い流し、その毒物が少しずつ貯水池に入り込んで、長い間に人体に有害なレベルまで水を汚染していたとは、気がつかなかったのかもしれない。宮殿や神殿の貯水池のそばに住んでいたティカルの高官の健康が、まず損なわれたのだ。
「結果的に、ティカルの指導者家族は、水銀が混ざった食べ物を毎回食べることになったのです。汚染された水は、ティカルの人々の健康を損なっていき、特に支配層に打撃を与え、その指導力を危うくさせたのかもしれません」
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ティカルの町のレイアウト image by:Nicholas Dunning/UC
【水質汚染に気候変動が追い打ちをかけた】
新鮮な飲み水がないこと、そして同時期に起きたた、気候変動による乾燥化など環境の悪化が追い打ちをかけ、ティカルの崩壊にとどめをさしたのかもしれない。
「こうした不運や干ばつを、指導者たちが適切にマヤの神をなだめられなかったせいだとみた人々もいたかもしれません。不運な出来事が重なり、水や食糧の不足に直面した人々が失望して、自らこの地を捨てようと決めたのです」
この研究は『Scientific Reports』(2020年6月25日)誌に発表された。
Molecular genetic and geochemical assays reveal severe contamination of drinking water reservoirs at the ancient Maya city of Tikal | Scientific ReportsReferences:phys / UCなど/ written by konohazuku / edited by parumo
https://www.nature.com/articles/s41598-020-67044-z
追記:(2020/07/07)タイトルを一部訂正して再送します。
記事全文はこちら:古代マヤ文明の巨大都市が放棄された理由が判明か、飲み水が毒物に汚染されていた証拠が発見される(米研究) http://karapaia.com/archives/52292509.html
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