マスクを着用したり、社会的距離を取るのが面倒?それは作業記憶が劣っているからかもしれない(米研究)

作業記憶と社会的距離の実行、マスク着用の関連性 / Pixabay
 マスクの着用、社会的距離の実行は、ポストコロナ社会における必要不可欠なものとなった。とは言え、これまでの習慣を捨て、新たな習慣を作るのは大変だ。


 外出のたびにマスクを着用したり、他人と距離を取ったりするのは面倒で、ついおざなりになってしまうというあなた。もしかしたらそれは、作業記憶(ワーキングメモリ)が関係しているかもしれない。

 米カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学者が『PNAS』(7月10日付)に掲載した研究によると、作業記憶が優れた人ほど、社会的距離のメリットに意識が向きやすく、それを実行し、習慣化できる傾向にあるのだそうだ。逆に言えば、作業記憶が優れていない人ほど、習慣化が難しいということになる。
【社会的距離を守る人と守らない人がいるのはなぜか?】

 社会的距離を取るかどうかが住民の自主性に委ねられているアメリカでは、それをやらない人が、コロナ・パンデミック初期では特に目立ったという。

 疫学的には感染防止に社会的距離が有効だとされていながら、それに従おうとしない人が多いのは、これまでの習慣が邪魔をするからだろうか? それとも違う何かがあるのだろうか?

 研究チームのチャン・ウェイウェイ氏によると、それは習慣ではなく、作業記憶の容量が関係しているという。

[画像を見る]
iStock
【作業記憶の容量が小さいと、違う習慣を身に着けるのが重労働となる】

 認知心理学における「作業記憶(ワーキングメモリ)」とは、短時間(一般に数秒)だけ心に留められる情報のことだ。作業記憶として保つことができる情報量(作業記憶の容量)からは、知能・理解力・学習力といったさまざまな認知能力を予測することができる。

 今回の研究では、アメリカ人850名を対象に、社会的距離を守るかどうか・そのメリットとデメリットへの理解・知能・学歴・所得・性格など、さまざまな質問に回答してもらった(なお調査が行われたのは、米政府による国家非常事態宣言発令からの最初の2週間でのこと)。

 そうした回答を分析した結果、ある人が社会的距離を守るかどうかは、個人の性格のほか、作業記憶の容量からも予測できることが明らかになったという。

 チャン氏によると、ある人が他人との距離を取るかどうかは、そのメリットとデメリットを勘案した上で決められるという。

 社会的距離やマスクの着用といった、それまでとは違う習慣を身に付けるためには、作業記憶を動員してメリットとデメリットを天秤にかける面倒な意思決定プロセスを経なければならないのだ。


 これはかなりの精神的な重労働で、なかなか過去の習慣を変えられない、あるいは変えたくないという人がいるのも当然のことかもしれない。

[画像を見る]
iStock
【面倒なのは最初だけ、一度習慣化すれば意識しなくてもできる】

 チャン氏によると、この研究結果は、感染防止対策を周知させる際、人々の一般的な認知能力まで考慮に入れる必要があることを示唆しているという。

 たとえばメディアなどは、感染防止対策を伝えるにあたって、情報が過剰になりすぎないよう気をつける必要がある。

 「メッセージは明瞭かつ簡潔であるべきです。簡単に意思決定できるようにしなければ」とチャン氏は話す。

 だが、面倒なのも最初だけのことだ。一度習慣として身についてしまえば、やがて作業記憶の役割は低下してくる。それほど意識しなくても、普通にできるようになるだろう。

 研究チームは今後、アメリカ以外の国でも人々の感染防止対策に影響する社会的・心理的要因を分析する予定だとのこと。また作業記憶と人種差別との関連性も調べたいそうだ。

Working memory capacity predicts individual differences in social-distancing compliance during the COVID-19 pandemic in the United States | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/07/09/2008868117
References:sciencedaily/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:マスクを着用したり、社会的距離を取るのが面倒?それは作業記憶が劣っているからかもしれない(米研究) http://karapaia.com/archives/52292720.html
編集部おすすめ