
現存する最後の1本、世界で最も孤独なソテツ image credit:pacsoa
イギリスの王立植物園『キューガーデン』に、世界一孤独な植物がいる。それは、古代ソテツ類のエンセファラルトス・ウッディ(Encephalartos Woodii)と呼ばれるオス木の標本で、南アフリカからやってきた。
その木は、1世紀以上にわたり、交配できるメスの木を待ち続けてきたが、今もまだ子孫を作り出しその種を繁殖させることが叶わないままだという。
なぜなら現存するのはこのオスの木のみで、研究者が探し回ってもエンセファラルトス・ウッディのメスの木を見つけ出すことができないからだ。
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This is the World's Loneliest Tree
【現存するのはオスの1本のみの古代ソテツ種】
裸子植物の1群であるソテツ類は、今から2億年前の恐竜がまだ存命していた頃、世界中の至る所に生息していた。
当時、ソテツは植物の約20%を占めていたが、5つの氷河期を経て、新種の植物と共存する適応性を備えたにも関わらず、時の経過と共にその数は減少した。
他のソテツ類同様、「エンセファラルトス・ウッディ(Encephalartos Woodii)」も数百万から数千へと数が減り、今日では古代ソテツ種としては、イギリスの王立植物園『キューガーデン』にあるオスの1本のみになってしまったようだ。
キューガーデンにあるエンセファラルトス・ウッディは、1895年に植物学者のジョン・メドリー・ウッド氏が、南アフリカのズールランドの急斜面に生えていたユニークな外観のヤシの木に興味を持ち、箱に入れて船でイギリスへ送ったものだ。
この時、ウッド氏はそれが実に貴重なソテツ種だということを知る由もなかったという。
やがてロンドンに持ち込まれたエンセファラルトス・ウッディは、キューガーデンのパームハウスに植えられた。
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【交配できるメスの木もなく、世界で最も孤独な植物に】
それから1世紀以上にわたり、このオスの木は交配できるメスの到着を待ち続けていた。しかし、研究者らの精査にも関わらず、伴侶を見つけることができなかった。
植物によっては、オスとメスの両方の器官を持っているものも存在するが、エンセファラルトス・ウッディは、繁殖するには伴侶が必要だ。
エンセファラルトス・ウッディは、交配の準備ができる時になると花粉でいっぱいの大きくカラフルな円錐形を作り出す。
熱を放射したり、受粉者を惹きつけるにおいを生成したりすることで合図を送っているのだ。
しかし、肝心のメスがいないと交配は不可能だ。結局、子孫を作り出し、その種を繁殖させることが叶わないまま、キューガーデンのエンセファラルトス・ウッディは世界で最も孤独な植物と言われ、最後の種となってしまう可能性が高いという。
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MemoryCatcher/pixabay
【クローンは存在するがオリジナルとしては最後の1本】
エンセファラルトス・ウッディは、実はクローンが複数存在する。そのため、世界中の植物園で、クローンのソテツを見ることができ、近縁種との交配も可能だが、それから生まれた子孫は真のソテツ種とは言えない。
研究者たちは、これまでにもアフリカの森林でメスのエンセファラルトス・ウッディを探して精査を行ったが、不成功に終わっている。
生物学者リチャード・フォーティー氏は、「確かにこれは、世界で最も孤独な植物といっていいでしょう。この木が、あとどれぐらいの年月を生きるのかは誰にもわかりませんが、1本のみで生き続け、後継者を持たない運命にあるのは残念なことです」と語っている。
【植物界のロンサム・ジョージ】
また、イギリスの動植物学者デイヴィッド・アッテンボロー卿は、今後のソテツ類の存在を懸念し、次のようにコメントしている。
キューガーデンには、古代ソテツの種で唯一とされる標本が1本ありますが、植物種は今後絶滅する可能性があります。エンセファラルトス・ウッディは、まるでガラパゴスのピンたゾウガメ「ロンサム・ジョージ」のような孤独な植物です。
地球の大部分は、今や人間により引き継がれていて、気候変動も激しいため、かつて植物が生息していた地域でも、もはや成長できない環境になっています。人為的助けを借りて植物園に留まる以外は、古代ソテツ種が育っていける場所は他にないのです。
なお、ソテツは500年以上の寿命があると言われており、キューガーデンでは最も古く多様なソテツが見られる場所となっている。
この世界一孤独なソテツに、いつか子孫が残せるよう、現在も研究者らによりメスの木の精査が行われているという。
written by Scarlet / edited by parumo
記事全文はこちら:メスの木を待ち続けて1世紀以上。世界で最も孤独な「ソテツ」のオスの木物語(イギリス) http://karapaia.com/archives/52292776.html
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