コロナ禍の混乱を利用し、勢力を伸ばすイタリアのマフィア

イタリアのマフィアがコロナ禍を利用/iStock
 2020年5月18日、ローマの金融警察が令状を手に、ローマ・ティブルティーナ駅側にあるシチリア系レストランのガサ入れを行った。その店はマフィアによって不正に買収されていた疑いが持たれていた。


 店内には容疑者と目される人物がおり、カウンターの裏からは、他にもマフィアが買収したチェーン店が2店あることを裏付ける書類が見つかった。

 3店の取得金額は84万ユーロ(約1億円)で、契約が結ばれたのは1月前のこと。ちょうどイタリアがコロナ禍で都市封鎖を実施しており、大勢の事業主が資金繰りに苦しんでいた時期だ。
 
 店を買収したマフィアは、ナポリに拠点を置く「カモッラ」で、イタリア4大マフィアに数えられる犯罪組織だ。

 コロナウイルスのせいで、イタリアは苦境に陥った。不況になり、失業者や貧困が激増。マフィアにとって、そうした状況を作り出した都市封鎖は大きなビジネスチャンスであった。
【勢いを取り戻すイタリアのマフィア】

 カラブリア州の「ンドランゲタ」、シチリアの「コーサ・ノストラ」、カンパニア州の「カモッラ」、プッリャ州の「サクラ・コロナ・ウニータ」――これらがイタリア4大マフィアと呼ばれている。

 中でも今、一番勢いがあるのが「ンドランゲタ」だ。組織はファミリーのみに厳格に限られており、警察の介入を許さない。世界各国にも進出しており、ヨーロッパへのコカイン密輸の8割に関与しているとされる。
 
 また一時期は弱体化していたコーサ・ノストラやカモッラにも復活の兆しがある。


 彼らは飲食店などを安く買い叩いては、それを通じてマネーロンダリングを行う。先日などは、コロナ対策として給付された補助金が、彼らが所有する企業を通じてマフィアに流れ込んでいたことまで明らかになっている。

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ITALIAN MAFIA

【ンドランゲタの国際密売ネットワーク】

 コカインはマフィアの重要な資金源となっているが、そのためにンドランゲタは南米やヨーロッパ北部の拠点(ロッテルダムやアントワープなど)にいるブローカーを利用している。

 こうすることで、麻薬ルートを安定させるだけなく、南米の麻薬カルテルをはじめとする世界各地の犯罪組織との関係まで深めている。

 たとえばンドランゲタは、コロンビアの麻薬密売組織クラン・デル・ゴルフォと手を結び、コカイン数ヶ月分のストックを確保。現在の状況でもいつでも出荷することができる。

 組織犯罪汚職摘発報告会(OCCRP/Organized Crime and Corruption Reporting Project)によると、ヨーロッパをコロナ禍が襲ったとき、こうした国際的密売ネットワークから資金が提供され、世界のコカイン産業は一般企業よりもずっとうまく対応することができたという。

 リスクの大きい密輸ルートは、別のものに変更された。アントワープ、ロッテルダム、ジョイア・タウロといった拠点の一部は、大きなイタリア人コミュニティがあるスペインに一時的に移されている。
 
 一旦ここにコカインを保管した上で、青果や大豆粉のような見た目が似ている積荷と一緒にヨーロッパ各地に輸送されるのだ。

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The Mafia's Secret Bunkers (Mafia Documentary) | Real Stories |

【自分のシマでコロナ感染を防いだンドランゲタ】

 世界中に拠点を持つンドランゲタだが、そのルーツはイタリア南部のカラブリア州サン・ルーカにある。ここは彼らの法秩序によって治められている地域だ。


 ヨーロッパ全土にコロナ感染症が広まると、各地からサン・ルーカ出身者(当然、ンドランゲタの構成員もいる)が帰郷し、自主的に隔離を行った。

 サン・ルーカには警察の捜査に備えて地下室が作られている家が多く、彼らはここに閉じこもってウイルスの拡散を防いだのだ。

 おかげでサン・ルーカをはじめとする近隣の村々では、コロナ感染者が1人も出ていない。そのメッセージは、「我々に政府はいらない。自らの力で対処する」だ。

【コロナ禍で困窮する住民をマフィアが援助】

 過去数十年にわたる取り締まりのために、勢力を縮小していたマフィアだが、コロナ禍によって彼らは再びかつての勢力圏を取り戻し始めている。

 たとえばシチリアの州都パレルモの一部では、国の支援が行き渡らず困窮する家庭をマフィアが助けている。

 食べ物がない家庭には食糧を配り、失業者には仕事が与えられる(多くは不法行為)。都市封鎖下にある地域の最貧地区ZENでは、コーサ・ノストラのボスの兄弟が食事を配っているところが発見されている。

 また金に困った者には貸し与えられた。その狙いは法外な金利で暴利を貪ることなどではなく、事業を倒産に追い込むことだ。こうすればマフィアは、叩いても埃の出ない店を引き継ぐことができる。

 
 6月初め、パレルモ警察によって、コーサ・ノストラが所有する賭博場が摘発された。当時、都市封鎖を受けてスポーツイベントやギャンブルの類は禁止されていたが、逮捕された構成員は賭博場2店を現金で買収していた。

 警察によれば、マフィアはコロナ禍を利用して勢力を伸ばしており、こうしたケースは氷山の一角であると述べている。

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【企業型マフィアへの変貌】

 コーサ・ノストラもまた企業型マフィアに変貌を遂げつつある。

 たとえば、廃棄物の処理は昔からマフィアが噛んでいた業界だ。彼らは地元の政治家に賄賂を贈ったり、選挙での応援を約束したりして、その見返りに実入りのいい仕事を回してもらっていた。

 実際、つい先日、ミラノ近郊の町で、ンドランゲタが運営する棄物ルートに関与したとして、議員が逮捕されている。最近の狙いは、コロナ禍で大量に出る医療廃棄物であるという。

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12 arrests in big hit against ‘Ndrangheta mafia in Italy

【イタリア国外でも暗躍】

 だが、マフィアがもっとも利益をあげるのは、元々勢力圏内にある南部ではなく、イタリア北部や海外の豊かな地域だ。エセックス大学の犯罪学者アンナ・セルジ氏によると、彼らはドイツ、フランス、ベルギー、オランダなどでも飲食店を買収しているという。

 またイギリスでは、マフィアの姿が目立つようなことはないが、マネーロンダリングなどに金融セクターが利用されている。たとえば、ンドランゲタは、不正に稼いだ数百万ユーロもの金を債券としてまとめて、シティ・オブ・ロンドンの投資銀行を通じて売却していたことが発覚した


 そうした行為の背後にいるのは、法の抜け穴をつき、本来の所有者や金融取引を隠すやり方を教える会計士や弁護士たちだ。

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【国際手配でマフィアを追い詰める警察】

 歴史的に、ヨーロッパ諸国は、イタリア国外で活動するマフィアをそれほど警戒してこなかった。しかし、今の状況はそうした流れを変えつつあるようだ。

 ここ数週間、欧州刑事警察機構(ユーロポール)の取り締まりによって、ンドランゲタ構成員12名、コーサ・ノストラ構成員46名が逮捕された。容疑は、麻薬取引、銃刀法違反、恐喝、収賄などだ。

 また国際刑事警察機構(インターポール)も、ンドランゲタを追い詰めるべく、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど11か国と連携した共同作戦を実施しているところだ。

追記(2020/07/20)本文を一部修正して再送します。
References:vice/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:コロナ禍の混乱を利用し、勢力を伸ばすイタリアのマフィア http://karapaia.com/archives/52292911.html
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