
1億年前の微生物を復活させる/iStock
昔から研究者が海底に積もった太古の堆積物を集めてきたのは、過去の気候や海洋プレート、あるいは深海の生態系といったものを知るためだった。
そのような堆積物の中に1億年も閉じ込められていた微生物が発見されたのは10年前のことだ。
恐竜のいた白亜紀の時代から囚われの身だったというのに、その微生物はエサを与えられると目を覚まし、増殖を開始したそうだ。
【1億年以上眠っていた微生物の発見】
恐竜時代から生き続けてきた微生物を発見したのは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)や高知大学をはじめとする研究グループだ。
同グループは10年前、「南太平洋環流」という海洋生物のエサとなる栄養に乏しく、世界的にも生産性が低い海域を調査し、古い堆積物を採取していた。
海底には堆積物の層が形成されている。それは風や海流によって運ばれてきたマリンスノー(プランクトンの死骸や排泄物などでできた白い有機物)、ちり、粒子といったものが降り積もったもの。
海洋掘削船で計7か所、水深3700~5700メートルの海底からさらに地下75メートルまでの堆積物コアを掘削したところ、430万年前から1億150万年前までの地層すべてに微生物がいることが判明した。
[動画を見る]
1億年前の地層から生きた微生物を発見! JAMSTEC 諸野祐樹主任研究員
【微生物は生きているのか、死んでいるのか?】
ただし当時、発見された微生物がまだ生きているのか、それともただの死骸なのかどうかまではわからなかった。
堆積物は非常に細かい粒子でできており、隙間に乏しい。そのために、微生物は動き回ることができず、閉じ込められていたと考えられる。また堆積物に含まれていた微生物の数は、海洋辺縁(ocean margin)や湧昇流海域における同じ深さのものに比べて、1~7桁少なかった。
だが、どの堆積物コアにも酸素が含まれていた。このことは、堆積物が100万年に1、2メートルというゆっくりとしたペースで積もった場合、酸素は地下まで浸透することを示しているという。
こうした環境ならば、生きるために酸素を使う好気性微生物が数百万年も生き延びることを可能にする。
[画像を見る]
1億150万年前の海底下地層から蘇ってきた微生物 image by:JAMSTEC
【培養で細胞が4桁も増殖】
彼らの生死は今回の研究で明らかになった。
回収した好気性微生物を適切な条件で培養してみたところ、それらはまだ生きており、成長・増殖する力も残っていることが確認されたのだ。エサとして与えられた炭素と窒素を食べ、培養開始から68日以内に4桁も細胞が増えたという。
なお、炭素よりは窒素を好むようで、後者の方が平均3倍ほど反応が速かったという。また好気性微生物とは違い、嫌気性微生物はごく最低限度しか蘇生しなかったそうだ。
研究グループの諸野祐樹氏(JAMSTEC)は、最初こうした結果をなかなか信じられなかったようだ。しかし結局は、1億150万年前の堆積物に潜む微生物のうち99.1%までがまだ生きており、エサを食べられる状態でじっとしていたことが明らかになったとのことだ。
[画像を見る]
【1億年前の微生物は進化をするのか?】
諸野氏によると、海底の地下に潜む微生物の一生は、その上にいる生物に比べてかなりゆっくりとしたものであるそうだ。そのために、進化の速度も遅くなる。
そうした微生物がどのように進化してきたのか、そもそも進化をすることができたのかといった疑問について、諸野氏はわからないと答えている。今後、ゲノム解析などで確認したいと考えているそうだ。
海底の地下には、地球の生命の限界を探る上でぴったりな研究所が広がっているのである。この研究は『Nature Communications』(7月28日付)に掲載された。
Aerobic microbial life persists in oxic marine sediment as old as 101.5 million years | Nature CommunicationsReferences:白亜紀の海底堆積物で微生物が生きて存在していることを発見~超貧栄養環境下で眠り続けた生命?~<プレスリリース<海洋研究開発機構 | JAMSTEC / written by hiroching / edited by parumo
https://www.nature.com/articles/s41467-020-17330-1
記事全文はこちら:深海底の堆積物に閉じ込められていた1億年前の微生物を復活させることに成功。エサをあげると増殖を開始(日本研究) http://karapaia.com/archives/52293260.html
編集部おすすめ