痛みに敏感?注射が苦手?あなたはネアンデルタール人の遺伝子を継承しているかもしれない(ヨーロッパ共同研究)

痛みに弱いのはネアンデルタール人の遺伝子のせい?image by:
 大人なのに痛みに弱く、注射が苦手というあなた。もしかしたらネアンデルタール人の遺伝子を継承しているかもしれない。

 
 ネアンデルタール人は、ホモサピエンスである現代人よりも痛みの閾値が低かったようだ。つまり、痛みを感じやすかったということだ。

 ヨーロッパで行われた共同研究によると、すでに絶滅してしまったこの親戚の遺伝子が変異したため、痛みに対してより敏感になってしまったことがわかった。この遺伝子は、一部の現代人に引き継がれており、通常より痛みに敏感な可能性があるという。
【状態の良いネアンデルタール人の遺骨からゲノム研究】

 ネアンデルタール人は、体が頑丈でタフだと一般的には思われているようだが、どうやらちょっと違ったようだ。

 ドイツのマックスプランク研究所、スウェーデンのカロリンスカ研究所の進化遺伝学者たちが、ロシアやクロアチアの洞窟で発見されたネアンデルタール人の遺骨から、最先端技術を使ったゲノム研究を行った。

 古代人のゲノムから、変異を特定するのは大変だったが、これらのサンプルが非常に高品質なゲノムだったので、現代人にも通じる痛みに関する遺伝子の珍しい変異を見つけ出すことができたという。

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ネアンデルタール人の頭蓋骨/iStock
【ネアンデルタール人に多く見られた痛みに関係する遺伝子】

 研究者たちは、Nav1.7というタンパク質を暗号化する遺伝子SCN9Aを特定した。Nav1.7は、痛みの信号を伝えるチャンネルのようなもので、ネアンダルタール人は、このタンパク質の形状を変化させる3つの変異を持っていたことがわかった。

 これは、ネアンデルタール人の中では一般的だったようだ。タンパク質はメッセージを伝える大切なもので、痛みの信号を脳や脊髄に送る。

「Nav1.7は、神経線維の痛みの強さを伝える、いわば、ボリュームのつまみのようなものです」研究チームのひとり、カロリンスカ研究所のヒューゴ・ゼベルクは言う。
人がもつそれぞれの変異によって、常に痛みを感じる人と、まったく痛みを感じない人の違いが出てくる。

 痛みは、体のどこかに痛みや不快感を感じると刺激される特殊な神経細胞を通して、伝達される。ネアンデルタール人がもっていた3つの変異は、Nav1.7を攻撃的なチャンネルに変えてしまい、変異がない人よりもずっと早く痛みのインパルスをスタートさせることができる。

 痛みとは、一連の遺伝子と生理学的プロセスを伴うが、今回突きとめた変異が、ネアンデルタール人が現代人よりもより痛みを感じやすかったことを示しているのは確実だという。

 マックスプランク研究所のスヴァンテ・ペーボは、痛みのインパルスを最初に起こす閾値が、ネアンデルタール人は現代人よりも低いことを、この研究は示していると語る。

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2500人以上の現代人のゲノムを調べて、3つの変異を探した研究結果

【痛みに敏感になることで生存進化】

 これは、いきあたりばったりのでたらめな変異ではなく、進化による結果のようだ。がっしりした体躯をもつネアンデルタール人でも、かなり過酷な環境で怪我を負うことはしょっちゅうだった。

 痛みのボリュームつまみを上げることは、怪我に対処するのに役にたった可能性があるのは想像に難くない。痛みの感受性が低いと、生き延びるためにより強い社会的ネットワークが必要になる。

 ネアンデルタール人の歯についていた歯垢を調べたこれまでの研究によると、彼らが植物から抽出した鎮痛剤を使った痕跡が見つかっている。

 傷を負ったネアンデルタール人は、こうやって痛みに対処していたのかもしれない。これは、古代の人たちがとても賢明だったという証拠を裏づけている。


【ネアンデルタール人の痛覚は現代人の痛みとリンク】

 この発見は、現代人の痛みの体験を理解する上で重要な意味をもつ。ネアンデルタール人と現代人は、共通の祖先をもつが、30万年前から8万年前の間に枝分かれした。

 ネアンデルタール人はおもにユーラシア大陸に住み、ホモサピエンスと頻繁に交わっていた。その結果、現代でも多くの人がネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいることがわかっている。

 ネアンデルタール人が滅びたのは、ホモサピエンスとの競争に敗れたせいだとずっと思われてきたが、本当のところは誰にもわからない。

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ネアンデルタール人 / Pixabay
【痛みに弱い現代人はネアンデルタール人の遺伝子を継承している可能性】

 現代人がネアンデルタール人の変異ゲノムをもっているかどうかを確かめる研究を行い、イギリス人の膨大なデータベースを調べた。

 ネアンデルタール人の変異遺伝子を受け継いだ現代のイギリス人は、生活の中でより痛みに敏感であることが報告されている。

 彼らのイオンチャンネルは、簡単に活性化し、痛いという信号をやたら脳に送ってしまう。現代人でも、3つのアミノ酸置換をもつ完全なネアンデルタール変異体をもつ人たちは、とくに痛みに過剰に反応する傾向にあるようで、歯医者や注射を異様に嫌がったりする。

 とはいえ、負傷やわずかな体調の変化にも早めに対処できるということもあり、痛みを感じやすいことは必ずしも悪いことではない。

「分子レベルで、ネアンデルタール人のイオンチャンネルは活性化しやすかった。これは、それを受け継いだ現代人も痛覚閾値が低いことの説明になるかもしれません」ゼベルクは説明する。


 この研究は、一部の人たちにそなわっているネアンデルタール人の遺伝的継承が、ユニークな生物学的プロセス、さらには医学的な問題さえも、説明できるかもしれないことを示している。

 ネアンデルタール人のゲノムシーケンスに関する研究は、現在も続けられていて、わたしたちの絶滅してしまった親戚に関する魅力あふれる洞察をもたらしてくれることだろう。

この研究は『Current Biology』(7月23日)に発表された。
A Neanderthal Sodium Channel Increases Pain Sensitivity in Present-Day Humans: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)30861-7
References:nature / inverse/ written by konohazuku / edited by parumo

記事全文はこちら:痛みに敏感?注射が苦手?あなたはネアンデルタール人の遺伝子を継承しているかもしれない(ヨーロッパ共同研究) http://karapaia.com/archives/52293549.html
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