
脳に視覚情報を直接伝えるバイオニック・アイ image by:Monash University
つい先日、実業家のイーロン・マスク氏によって、脳に電極を移植することでさまざまな障害を治療するニューラリンク技術の進捗が発表された(関連記事)。
似たような電脳化技術を研究するグループは他にもある。
オーストラリア・モナシュ大学の研究グループは、脳の電極を通じて視力を回復するバイオニック・アイを世界で初めて開発することに成功している。
【脳に電極を埋め込み視覚情報を脳に直接伝える】
視力が失われる原因として多いのが視神経の損傷だ。このために網膜の信号を脳の視覚中枢に送信できなくなり、視力が失われる。
そこで「Gennaris」と呼ばれるバイオニック・ビジョンシステムは、傷ついた視神経をバイパスして、視覚情報を脳に直接伝えることを可能にした。
Gennarisは、メガネ付きのヘッドギアのようなデザインをしている。メガネの部分にはカメラが内蔵されており、これがとらえた画像データをスマートフォンくらいの大きさの情報処理ユニットで処理。これを脳内に移植された9×9ミリの電極アレイにワイヤレスで送信する。
[画像を見る]
image by:Monash University
電極アレイでは、髪の毛より細い電極がまるで剣山のように生えており、ここで信号を電気刺激に変換した上で神経細胞に伝える。これが視力を失った人に再び光を取り戻させるメカニズムだ。
[画像を見る]
image by:Monash University
【羊を使った2700時間の実験に成功】
人体での治験はまだだが、羊を使った初期の実験ならすでに成功しており、その成果が『Journal of Neural Engineering』(7月8日付)で発表されている。
その実験では、羊の脳に電極アレイを10個移植して、9か月(計2700時間)にわたり刺激を送り続けたが、特に健康を害すような副作用は観察されなかったとのこと。
もちろん動物実験で問題がなかったからといって、人体でも上手くいくとは限らないのだが、研究グループはただ視力を回復できるだけでなく、たとえば四肢麻痺など、やはり神経に起因する症状の治療にも役立つだろうと考えている。
なお、モナシュ大学のグループは10年前からこの研究に着手しており、ニューラリンク社よりもずっと研究開発の歴史があるのだそうだ。
Tissue response to a chronically implantable wireless intracortical visual prosthesis (Gennaris array)References:Opening eyes to a frontier in vision restoration - Monash University/ written by hiroching / edited by parumo
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1741-2552/ab9e1c
記事全文はこちら:また別の電脳化技術が! 脳にチップを入れ視力を回復させるバイオニック・アイ(オーストラリア研究) http://karapaia.com/archives/52294735.html
編集部おすすめ