
これまでの酵素よりも6倍速くプラスチックを分解できる「スーパー酵素」が開発されたそうだ。
これは日本の研究者が発見し、分離に成功した真正細菌の一種「イデオネラ・サカイエンシス」が持つ2つ酵素を、イギリスの研究者が1本の長いチェーン状につなぎ合わせて作り上げたもの。
このスーパー酵素は、ペットボトルやフリース繊維の原料であるポリエチレンテレフタラート(PET)を従来よりも速く分解することができるという。
【プラスチックを食べてエネルギーに変える細菌】
環境を汚染するプラスチックは、現在もっとも差し迫った環境問題である。レジ袋が有料化されたことで、プラスチック汚染に対する関心も高まっている。
特にこの問題の影響を受けやすいのが海だ。ピュー・チャリタブル・トラストのレポートによれば、海洋に流れ込むプラスチックは2040年まで年2900万メートルトンと、現在の3倍にも増加するという。これは地球の全海岸線に1メートル間隔で50キロのゴミを捨てたのに相当する量だ。
プラスチック汚染をめぐっては、意外なものが救世主になるかもしれないと期待されている。それは京都工芸繊維大学の小田耕平氏が発見し、分離に成功した「イデオネラ・サカイエンシス」という細菌である。この名前は発見された堺市にちなんでいる。
この細菌は「PETase」と「MHETase」という2つの酵素を利用することで「ポリエチレンテレフタラート(PET)」を分解し、エネルギーに変えることができる。
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【2つの酵素をつなぎ合わせて誕生したスーパー酵素】
今回、英ポーツマス大学の研究グループは、これらの酵素をつなぎ合わせて1本のチェーンにすることで、プラスチックが分解される速度を一気にスピードアップさせることに成功した。
ポリエステルの一種であるPETは、ペットボトルやフリースの繊維などの原料であり、私たちにとっても身近な素材だ。
自然環境中では分解されるまでには数百年もの時間がかかるのだが、このスーパー酵素を使えば、ものの数年で分解することができる。
研究グループは、太陽の100億倍も明るいX線で個々の原子を観察することができる「ダイヤモンド・ライト・ソース」という装置を使って、MHETaseの分子構造をマッピング。このマップに基づき、PETaseとMHETaseを縫い合わせて、1本の長いチェーンを作り出した。
PETaseとMHETaseを単純に組み合わせただけでも、PETase単体のときと比べて分解速度を2倍にすることができるが、さらに両者を結合させたことで3倍、全体では6倍ものスピードアップが実現した。
なお、こうした酵素をつなぎ合わせる手法は、バイオ燃料業界では一般的であるそうだが、プラスチックを分解する酵素に応用されたのは初めてであるとのことだ。
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【もっと早く分解できる酵素を求めて】
このスーパー酵素を使えば、PETを基本成分にまで分解することができるので、あとはそこから再び製品を作り直せばいい。PETを効率的にリサイクルすることができる。
ただし、研究グループのジョン・マクギーハン氏によれば、市販化するには「まだまだ遅すぎる」とのこと。酵素を使った速やかなプラスチックのリサイクルはもう少し先の話になりそうだ。
この研究は『PNAS』(9月28日)に掲載された。
Characterization and engineering of a two-enzyme system for plastics depolymerization | PNASReferences:newatlas/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.pnas.org/content/early/2020/09/23/2006753117
記事全文はこちら:プラスチックごみを6倍速く分解するスーパー酵素が開発される(英研究) http://karapaia.com/archives/52295246.html
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