2000年以上前のヴェスヴィオ火山噴火の犠牲者の頭蓋骨から完璧な保存状態の脳細胞が発見される(イタリア)

ヴェスヴィオ火山噴火の犠牲者の脳から神経細胞を発見 / Pixabay
 西暦79年8月24日に始まった、イタリア、ヴェスヴィオ(ベスビオ)火山の大噴火により、ヘルクラネウム、ポンペイなどの古代都市に高温の火砕流や火山灰が大量に降り注ぎ、多くの人々が犠牲となった。

 急速に高温にさらされたせいで、犠牲者の頭蓋骨にガラス化した脳組織が見つかっているが、今年の始め、この驚くべき脳組織のサンプルについて、イタリアの研究者から詳しい説明があった。


 この希少な脳組織の中に脳細胞や神経細胞が痕跡が"完璧に"残っていることを突きとめたという。
【犠牲者男性の頭蓋骨のガラス化した脳から神経細胞を発見】

PLOS One』誌に発表された研究によると、フェデリコ2世・ナポリ大学のピエル・パオロ・ペトローネが主導する研究グループは、犠牲者男性の頭蓋骨のガラス化した脳から脳組織と神経細胞を発見した。

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ヘルクラネウムのローマ人の頭蓋骨に見られるガラス化した脳片 image by:Pier Paolo Petrone
 2000年以上前に亡くなった人間の遺体から中枢神経系組織が完全な状態で発見された最高の例ではないかという。

 走査電子顕微鏡(SEM)や先進画像処理ツールを使って、このガラス化した脳組織を詳しく調べたところ、人の脳や脊髄の痕跡から、神経や軸索だとはっきりわかる奇跡的に保存状態のいい部分を発見したという。

 ガラス化した脳の発見自体も稀有なことだが、中枢神経系全体の中からそれを構成する神経や軸索が発見されるとは、驚きとしか言いようがない、とペトローネは語る。

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ヴェスヴィオ火山/iStock
【脳組織に存在するタンパク質も発見】

 さらに、人間の脳組織に存在するタンパク質もいくつか発見されており、これによりこの黒い塊が単なる光沢のある黒い石ではないことを確認したという。

 特定のタンパク質が確認できたことによって、このサンプルが脳のどこの部位なのかも判明した。

ガラス化したこの黒い物質を分析した結果、大脳皮質、脳幹神経節、中脳、下垂体、扁桃、小脳、海馬、視床下部、脊髄といった人間の脳のさまざまな部位にそれぞれ存在する特定のタンパク質が保存されていることがわかりました(ペトローネ)

脳疾患のある患者に、これらタンパク質の遺伝子変異が見つかっているため、神経機能にとって非常に重要なものです。例えば、ガラス化したこの脳組織から見つかったMED13Lというタンパク質は、成人の小脳にとくにたくさんあり、その変異は知的障害を引き起こすのです(ペトローネ)

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ガラス化した脳の中枢神経系の神経と軸索構造 image by:Pier Paolo Petrone
【史上最悪の自然災害の1つ、ヴェスヴィオ火山の噴火】

 紀元79年のヴェスヴィオ火山の噴火は、史上最悪の自然災害のひとつで、近隣のポンペイやヘルクラネウムの町が壊滅し、何千という人が死んだ。

 犠牲者のほとんどは降り注ぐ火山灰に埋もれて亡くなったため、のちに考古学者たちが、遺体のあった窪みに漆喰を注いで型をとり、犠牲者たちがどのような状態で亡くなったのか、最期の瞬間の様子を明らかにすることができた。噴火の熱で焼かれ、急激に冷やされた犠牲者もいた。

 今回分析したガラス化した脳もそうしたプロセスをたどったようだ。
おそらく、この犠牲者の脳は、摂氏520℃もの高温でいきなり焼かれ、その後急速に冷やされたに違いない。

 第二次世界大戦のドレスデン爆撃のときの犠牲者に似たような現象が起こっていたことがこれまで確認されているが、このような例は極めて稀だ。

Preservation of neurons in an AD 79 vitrified human brain
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0240017
References:iflscience/ written by konohazuku / edited by parumo

記事全文はこちら:2000年以上前のヴェスヴィオ火山噴火の犠牲者の頭蓋骨から完璧な保存状態の脳細胞が発見される(イタリア) http://karapaia.com/archives/52295415.html
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