
老化プロセスを逆転させる技術 /iStock
不老長寿。それは人間が追い求めている永遠の課題だ。
老化を止めることができれば健康的に活動できる期間も長くなる。
だが、人間の体の中にある細胞が分裂をするたびに、命のタイムリミッターは少しずつカウントされていく。染色体の先端にあるキャップ「テロメア」が短くなっていくのだ。
これまで誰も止めることができたかったこの老化プロセスだが、最新の研究によると、それを逆転させることができるかもしれないという。高圧酸素療法を使用することで、テロメアを伸ばし老化細胞の減少に成功したのだ。
【テロメアは命のタイムリミッター】
テロメアとは、繰り返されるDNA配列とタンパク質でなる「染色体」末端の構造で、靴ヒモの先端に付けられているほつれ防止のキャップと似たような役割をはたしている。
細胞が分裂するとき、染色体のほかの部分と同じく、テロメアもまた複製される。だがほかの部分と違うのは、テロメアの一番先端の部分が複製されず、複製される前よりもほんの少しだけ短くなることだ。
そのために繰り返し細胞分裂が起きるうちにテロメアは徐々に短くなり、やがてはなくなってしまう。するとキャップが外れた靴ヒモのように、染色体は不安定になり、それ以上細胞は分裂できなくなってしまう。
つまり、それは私たちの寿命が尽きたということだ。
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【高圧酸素療法でテロメアを伸ばすことに成功】
イスラエル、テルアビブ大学のグループが『Aging』(11月18日付)で発表した研究によると、短くなったテロメアを延ばすことに成功したという。
やり方は簡単、加圧された部屋の中に座って、90分間たっぷりと酸素を吸うだけだ。
この「高圧酸素療法(HBOT)」を週5回、3か月ほど続ける。たったそれだけのことで、被験者26名の短くなったテロメアが、5分の1近くも再生していたことが確認されたのだ。
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これまでも、短くなる一方のテロメアを再生させることはできないものかと、研究者は努力し続けてきた。
テロメアは細胞分裂以外によっても短くなる。ストレスや運動不足、太り過ぎ、喫煙、食事の偏りといった不健康なライフスタイルの影響を受けるので、生活習慣を変えることでテロメアを守れる可能性がある。
さらにNASAが行った双子の実験によれば、宇宙に滞在するだけでテロメアが長くなってしまうらしい。
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それ以外にも、腸の内側にある組織が「テロメラーゼ」という酵素を使うことでテロメアを修復していることが判明しているし、マウスを使った遺伝子療法、110歳以上の超長寿女性から採取した幹細胞を利用した実験など、有望な成果がいくつも得られている。
しかし科学的な裏付けがあって、しかも私たちが実際に試すことができる若返り法となると、ほとんどないのが現状だ。だからこそ、今回の研究は注目する価値がある。
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【免疫系のアンチエイジングにも効く可能性】
高圧酸素療法は本来、早く浮上しすぎてしまったダイバーの治療や、傷口に感染した酸素感受性細菌を殺すために行われるものだ。
奇妙なことに、高圧酸素療法は低酸素症と同じような影響を人体に与えることが知られており(「高酸素・低酸素パラドックス」と呼ばれる)、脳の血流が促進されて認知機能が向上したり、遺伝的・分子的変化をうながしたりする。
今回の研究では、高酸素治療によってテロメアが長くなるだけでなく、細胞組織そのものを健康にする可能性があることが明らかになっている。
免疫機能に大切な役割を果たす「ヘルパーT細胞」もまた老化するのだが、高酸素治療によって老化したこの細胞が減少するらしいことが観察されているのだ。
この研究は少人数を対象に行われたものなので、まだ確かなことは言えない。だが、テロメアに効くアンチエイジング法として、高酸素カプセルが売り出される日は近いもしれない。
References:sciencedaily/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:「若返り」技術最前線。老化したヒト細胞を部分的に逆転させることに成功 http://karapaia.com/archives/52296760.html
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