
腐った魚のにおいを悪臭と感じない人がいる /iStock
腐った魚の臭いには、口臭、大便、血液などと同じ化学成分が含まれている。誰にとってもこれは不快な悪臭なはずなのだが、それを何とも思わないどころか、むしろ良いにおいと感じる人も一定数いるそうだ。
『Current Biology』誌に発表された新たな研究によると、こうした人たちは、遺伝子の突然変異のせいで、この強烈な悪臭を感じないのだという。
世界一臭い食べ物とされる塩漬けのニシンの缶詰「シュールストレミング」が存在している理由が分かった気がする。
【腐った魚の臭いを不快に感じなかった人に共通した遺伝子変異】
アイスランド・レイキャビクにあるバイオ研究企業「deCODE Genetics」は、アイスランド人1万1000人に協力してもらい、シナモン、ペパーミント、バナナ、カンゾウ、レモン、腐った魚という6種類のにおいを嗅がせ、それがなんのにおいなのかを識別してもらった上で本人のDNAサンプルを提供してもらった。
当然のことながら、ほとんどの人たちは、腐った魚の臭いは不快なものと感じたが、とくに不快感を感じなかった人たちもいた。
不快に感じなかった人たちのDNAには共通点があった。TAAR5という遺伝子が変異していて、無効になっているのだという。
同企業の神経科学者、カリ・ステファンソン氏は、「私にはこの変異遺伝子はないことは確かです。古くなった魚に近づくと、すぐに吐き気をもよおしますからね」と語る。
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私たちが感じているにおいは実際のにおいというよりも、対応する受容体が与えたにおいである。この受容体は遺伝子でつくられている。
TAAR5遺伝子は、鼻の細胞が排泄物や血液、口臭などに含まれるトリメチルアミン(TMA)という化学物質を識別する働きを助け、危険なにおいであることを脳に伝える。
TAAR5遺伝子は、体に害を及ぼす可能性のある腐った食べ物などを見つけ出すために必要なもので、人間は嫌なにおいを発するものに不快感をおぼえることで、危険を避けることができる。
本来ならTAAR5遺伝子は、進化によってあまり変異しない保存配列遺伝子で、人種間でもほぼ共通のものなのですが、おそらく、私たちを有害な微生物から守ることが重要だったためと思われます (カリ・ステファンソン氏)
においを識別する能力は、年齢とともに衰えていく傾向にあるが、若い人でもバナナやレモンの香りをほかの甘いにおいと間違えることがある。
ところが、TAAR5遺伝子が変異している人は、腐った魚のにおいがわからない、あるいは特に不快だと思わず、それどころか、ジャガイモ、カラメル、ケチャップ、バラの香りがして、比較的いいにおいだとする人さえいた。
【地域差と食生活の関係性】
地域別にみたTAAR5遺伝子に変異がみられる人の割合は、ヨーロッパ全体では0.8%、アフリカでは0.2%とわずかだったのに対して、アイスランドでは2%とかなり高かった。
地域による食生活の違いがこうした遺伝子変異率に影響を与えた可能性がある。
アイスランドでは魚をベースにした料理が多く、例えば、ニシオンデンザメを乾燥・発酵させたハカールという伝統的な魚料理がある。
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アイスランドで乾燥のため吊るされるハカール image by: Chris 73 / Wikimedia Commons
これは、尿のにおいがして、刺激性のあるチーズのような味がするという。アイスランドでは、何千年もの間、魚を食べて生活してきたため、魚のにおいが気にならないような遺伝子変異が起こった可能性はある。
References:smithsonianmag/ written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:腐った魚の臭いを「良いニオイ」と感じる人が一定数存在する。それは遺伝子が原因かもしれない http://karapaia.com/archives/52297395.html
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