
ハエをゾンビ化し意のままに操る菌類 / Pixabay
デンマークで新種に認定された2種の菌類は、自身の胞子を散布させるだけの使い捨てマシーンとしてハエをゾンビ化してしまうそうだ。
コペンハーゲン大学の研究グループが発見した新種の名は、「Strongwellsea tigrinae」と「Strongwellsea acerosa」。
特定のハエだけに寄生するStrongwellsea属の菌類である。
【寄生されたハエを待つ悲惨な運命】
その恐るべき点は、普通の菌類なら宿主が死んでから胞子を作るのに対して、Strongwellseaはまだ生きているうちから体を乗っ取ってゾンビ化してしまうところだ。
ハエの表皮に付着した菌は腹部にまで入り込み、周囲の内臓を喰らいながら増殖を開始。なんともタチが悪いことに、菌は生存に必要な臓器にはなかなか手をつけない。だからハエは死ぬことができないまま、じわじわとしゃぶり尽くされる。
まずは外生殖器を狙い、次に脂肪をむさぼり、さらに内生殖器へと手を出す。この間腹に大穴を開けたハエは、普通に活動し、仲間と交流し、知らず知らずのうちにゾンビ菌を拡散させる。
あらかた食い尽くしたところで、菌は最後に筋肉にむしゃぶりつく。哀れなハエはやがてひっくり返って、数時間ほど痙攣してもがきながら、ついに死にいたる。
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Strongwellsea acerosaの胞子(分生子)image by:University of Copenhagen
【薬漬けにして無理やりハイに】
この性悪な菌類はもう一つ狡猾な手段を用いている可能性がある。寄生したハエが元気に動き回れるよう、アンフェタミンに似た化学物質で薬漬けにしているかもしれないのだ。
アンフェタミンは覚醒剤の一種で、中枢神経を興奮させる。
つまり寄生されたハエは、内臓を食われつつも、無理やりハイにされて、活発に仲間と交流しようとする。相手にしてみれば、確かにゾンビにしか見えないだろう。
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寄生されたハエ。食われて開いた腹部の大穴から胞子がばらまかれる
【宿主を生かしてゾンビ化させる戦略】
このように宿主を生かし続けて利用する戦略を「能動宿主伝染(active host transmission)」といい非常に効率的なやり方である。
似たような事例としては、たとえばカタツムリをゾンビ化するロイコクロリディウムが挙げられる。この寄生虫はカタツムリに寄生すると、鳥に目立つようあえてその触覚を肥大化させる。
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またstrongwellsea属と同じような戦略を採用する菌類として、幻覚物質で寄生したセミを手当たり次第にナンパさせるマソスッポラが知られている。
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【まだまだ謎に満ちたゾンビ戦略】
strongwellsea属の宿主であるハエは、全体の3~5%がこの菌類に寄生されていると推測されている。ただ寄生されたハエは相変わらず元気に動き続けているので、実際に寄生の有無を判断するのは難しい。だからこそ能動宿主伝染はあまり研究が進んでいないテーマであるという。
なおデンマーク東部のノース・ジーランドでStrongwellsea tigrinaeが発見されたのは1993年、Strongwellsea acerosa(こちらはコペンハーゲン)の発見は1998年のこと。最近になって新種と認定された。
この研究は『Journal of Invertebrate Pathology』(7月22日付)に掲載された。
References:Scientists find two new species of fungi that turn flies into 'zombies' | | The Guardian/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:ハエをゾンビ化し胞子をまき散らすマシーンに変えてしまう恐ろしい菌類が発見される(ハエ出演中) http://karapaia.com/archives/52297705.html
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