
高血圧の薬に寿命を延ばす効果が / Pixabay
利尿作用のある「メトラゾン」は、高血圧や心不全の治療薬としておよそ50年前にわたり使われてきた実績がある。そんな一般的な高血圧の薬に、少なくとも線虫には寿命を延ばす効果があるようだ。
大阪市立大学の研究グループによると、その長寿効果は人間にも作用すると考えられ、新しい抗老化薬の第一歩になると期待できるそうだ。
【ミトコンドリアの修復をうながす反応】
ミトコンドリアは、細胞のエネルギーを作り出すいわば発電所だ。歳をとるにつれて、このミトコンドリアも徐々に老化してきちんと機能しなくなってくる。もしミトコンドリアを修復できるのなら、生物を長生きさせることにつながるだろう。
そこで長寿薬の研究が注目するのは、ミトコンドリアが損傷を受けたときに生じる「ミトコンドリア・ストレス応答(UPRmt)」という反応だ。その際にミトコンドリアが修復されるので、この反応を薬で人工的に起こしてやれば寿命を延ばせるかもしれないという。
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ミトコンドリア3D /iStock
【メトラゾンに寿命を延ばす効果を確認】
『Biogerontology』(11月20日付)に掲載された研究では、中台枝里子教授らが線虫を使って既存の薬のスクリーニングを行い、ミトコンドリア・ストレス応答を引き起こすものがないかどうか調査している。
実験台となったのは、C・エレガンスというモデル動物としてよく使われる線虫だ。この線虫には、「hsp-6」と呼ばれるミトコンドリア・ストレス応答が起きると発現することで知られている遺伝子がある。
そこでhsp-6遺伝子が発現すると発光する緑色蛍光タンパク質を線虫に組み込み、薬を投与したときに問題のストレス応答が起きているかどうか確認できるようにした。
およそ3000種の薬を線虫に試してみた結果、有力候補として浮かび上がったのが冒頭にも述べたメトラゾンだ。ただストレス応答が起きるだけでなく、実際に線虫の寿命を延ばす効果があることも確認されたそうだ。
そうした効果は、hsp-6遺伝子の活動を邪魔してしまうと発揮されなくなる。このことからメトラゾンの長寿効果は、ミトコンドリアの修復プロセスに関連しているだろうと推測されている。
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image by:大阪市立大学
【人間への効果にも期待】
なお線虫が持つhsp-6遺伝子は、人間では「Hspa9」という遺伝子にあたる。嬉しいことに、メトラゾンはHspa9遺伝子の発現をもうながすことが確認されたそうだ。つまりメトラゾンは私たち哺乳類にも寿命を延ばす効果を発揮してくれそうだということだ。
こうした長寿薬開発の分野では、メトラゾン以外にも、牛乳などに含まれる「ニコチンアミドモノヌクレオチド」という補酵素や糖尿病治療薬の「メトホルミン」なども候補として挙げられており、線虫や酵母、さらにはマウスなどの哺乳類でも効果が確かめられているとのこと。
こうした知見をもとに、今後もっと高度な動物でさらなる研究を続け、長寿薬開発の足掛かりにしたいと研究グループは述べている。
References:大阪市立大学 / Biogerontology / newatlas/ written by hiroching / edited by parumo
追記:(2020/12/27)本文を一部訂正して再送します。
記事全文はこちら:高血圧治療薬に寿命を延ばす効果があるかもしれない。線虫の実験で確認(日本研究 http://karapaia.com/archives/52297746.html
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