
NASAをはじめとする宇宙機関は、2030年代初頭に人類を火星に送り込む計画を進めている。しかし火星への旅路は現在の技術のままなら片道で250日はかかる。
そう簡単に地球に戻ってくることはできないのだから、食糧・水・空気といった生きるために欠かせない物資の確保は大問題だ。
長期的なミッションを行うつもりなら、地球からそれらすべてを持ち込むのは非現実的だ。どうにかして現地調達することが望ましい。
『Frontiers in Microbiology』(2月16日付)に掲載された研究では、そのアイデアとして「アナベナ」という藍藻を使うことを提唱している。
ドイツ・ブレーメン大学をはじめとするグループは今回、火星に似せた低い気圧と、そこで現地調達できる素材を使って、藍藻を成長させることに成功したそうだ。
【有人火星探査のサポート役が期待される藍藻】
かねてから藍藻(シアノバクテリア)は、持続可能な宇宙ミッションをサポートしてくれるのではと期待されてきた。藍藻ならばどの種も光合成によって酸素を作り出してくれるし、空気に含まれる窒素を栄養に変えることもできるからだ。
ただし地球の1%未満しかない火星の大気では、気圧が低すぎて水が液体のまま存在できない。また窒素を代謝するにも気圧が低すぎる。そのために、火星に藍藻をそのまま放置しただけでは、きちんと成長することはない。
だからと言って、地球の大気を火星で再現するとなれば相当なコストがかかる。そのための気体を地球から持ち込まねばならないし、気圧差に耐えられるよう培養システムも頑丈に作らねばならないからだ。
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火星 / Pixabay
【火星の環境を再現し藻類を育てることに成功】
そこで研究グループが採用したのは折衷案だ。火星に似た低さでありながらも、藍藻が成長できるだけの気圧をバランス良く作り出すというアプローチだ。
開発された藍藻培養システムは「ATMOS(Atmosphere Tester for Mars-bound Organic Systems)」と呼ばれている。この中なら、火星に近い低い気圧ながら藍藻はすくすくと成長することができる。
優れているのは、必要なあらゆるリソースを火星で現地調達できる点だ。窒素と二酸化炭素は、火星の大気中に豊富にある。水は氷から集めることができる。リン・硫黄・カルシウムといった栄養素は「レゴリス」(地球型惑星や月をおおう塵)から手に入る。
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credit:C. Verseux / ZARM
ATMOSの中に窒素と二酸化炭素を充満させ、地球の10分の1の気圧しかない大気を作り、火星のレゴリスを再現した模擬砂でアナベナ(Anabaena sp. PCC 7938)を育ててみたところ、一般的な培地には劣るものの見事成長してくれたそうだ。
また成長したアナベナで培地を作って大腸菌を培養してみたところ、こちらも無事成長したとのこと。
これはアナベナから糖やアミノ酸といった栄養を取り出せるという証であるそうだ。ちなみにこちらの大腸菌もまた、火星での食料や薬の生産に利用できる可能性がある。
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アナベナ/iStock
主執筆者である独ブレーメン大学のシプリアン・ヴェルソー博士は、「火星への長期ミッションを持続可能なものにする手助けをしてくれるでしょう」と語っている。
ところで、小さな藍藻たちは、まさか自分たちが火星に連れて行かれるとは想像もしていないだろうが、案外それは里帰りという可能性だってある。
References:Biotech fit for the Red Planet | EurekAlert! Science News/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:火星環境を再現し藻類を育てることに成功。火星での自給自足が実現できる可能性 https://karapaia.com/archives/52299433.html
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