
このツヤツヤと滑らかな球はただのオブジェなどではない。科学者とコンピューターによって徹底的に検査された末に、世界でもっとも丸いほぼ完璧な球と広く認められたすごいものなのだ。
ただの球体というなかれ、かかった費用は莫大だ。その原料であるケイ素同位体「28Si」の単結晶だけでもざっと1億円以上、球の制作には3億5000万円もの資金が投入されている。
そこまでして完璧な球体を作り出した理由はギネスに挑戦したかったからではない。1キログラムを定義するという崇高な目的のためだ。
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World's Roundest Object!
【1キログラムを定義するのになぜ完璧な球体が必要なのか?】
キログラム以外の計測単位は、自然の性質を利用して定義されている。たとえば秒ならセシウム原子が2つのエネルギー準位を遷移する時間が基準だし、メートルなら光がほんの一瞬の間に移動する距離が基準だ。
しかし最近までキログラムだけは物理的な物体の重さが基準だった。1799年に定められた定義では、摂氏4度の下での水1リットルの重さとされた。さらに1889年、パリにある国際度量衡局で保管されているプラチナとイリジウムの合金で作られた分銅の重さに変更された。
ところが、なぜだかその分銅の重さは安定しなかった。さらに悪いことに、このキログラム原器をもとに作られた40個の複製もまた、どれも同じ重量ではなかった。
つまりキログラムには、永遠普遍の基準がなかったのだ。
ごくわずかな変動かもしれないが、高度に技術が発展した現代社会では大問題となる。
そこでこの大問題を解決するべく、アボガドロ国際プロジェクトが発足した。そのためのアイデアが、28Siの完璧な単結晶を使うというものだ。結晶球の直径をレーザーで計測し、そこに含まれる原子の数を算出。ここから「プランク定数」を求め、キログラムの基準にするのだ。
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球が作られると、コンピューター制御のレーザースキャンでそのわずかなバラツキを割り出し、レンズメーカーが数百時間かけて修正。
そうして出来上がった直径93.6ミリの球は、真円度の差分がわずか50ナノメートルしかない。地球上でもっとも丸い物体の誕生だ。
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【結局、究極の球体は不採用】
だがせっかく作り出された究極の球体は、結局キログラムの基準として採用されなかった。米国標準技術研究所が別の方法で計測したプランク定数と一致しなかったからだ。
2019年、キログラムの定義は130年ぶりに改訂。2015年から17年にかけて報告された8つの実験値から得られたプランク定数に基づき、光子が持つエネルギーと同等の質量が1キログラムと定義された。
科学者が情熱を注ぎ、高額な資金をつぎ込んで作られた究極の球体は無駄になってしまったのか?
大丈夫だ。英国に本拠地を置く精密サーボアクチュエータ、位置決めシステム、モーションコントロールソリューションのメーカーであるHeason Technology社に新たな家を見つけたようだ。この球体は現在、同社の新しい機械の設計、構築、テストに使用されているという。
written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:科学者の情熱が作り上げた世界一丸い究極の球体 https://karapaia.com/archives/52299665.html
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