目先の欲をぐっと我慢。コウイカには自制心があることが判明

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 イカやタコなどの頭足類は複雑な中枢神経系を持っており、は我々が思っている以上に知的であるということがこれまでの研究から明らかとなっている。

 『Proceedings of the Royal Society』(3月3日付)に掲載された研究によれば、コウイカ(学名 Sepia officinalis)は、もっといい獲物をゲットするために、目の前の獲物をグッと我慢することができるのだという。


 これはコウイカに「自制心」という高度な機能が備わっている証明で、生物の知性の起源を解明するための大切な一歩であるそうだ。

 
【マシュマロ実験でイカの自制心を調査】

 研究の中心人物、英ケンブリッジ大学のアレクサンドラ・シュネル氏は、「5億5000万年前に脊椎動物から分岐した無脊椎動物のコウイカにも、自制心があったとは驚きです」と、その意外な発見について語っている。

 1960年代末から70年代初頭にかけて、スタンフォード大学の研究者によって「マシュマロ実験」という有名な実験が行われた。これは未就学児の自制心について調べたもので、次のような内容だ。

 まず、子供をお皿の置かれた机に座らせて、お皿にマシュマロを1個置く。そして「ちょっと席を外すけど、15分マシュマロを我慢できたらもう1つあげるよ」と告げて、実験者は部屋を出る。さらにたくさんのおやつをもらうためには、子供は目の前のマシュマロをグッと我慢しなければならない。

 この実験では、幼少期からマシュマロを我慢できるだけの自制心のある子供は、将来的に成功しやすいと主張された(我慢できたかどうかは、むしろ家庭の経済状況と強く関係しているという反論もある)。

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【おいしい生きた海老を手に入れるため、死んだ海老をスルー】

 シュネル氏らは、このマシュマロ実験をコウイカで行ってみた。2つの”透明”なドアがついた水槽にコウイカを入れて、そのときの行動を観察するという実験だ。

 それぞれのドアには○と△のサインが記されており、コウイカは前者ならすぐに開く、後者なら10~150秒後に開くと事前に教えられている。

 ○のドアの後ろにあまり美味しくない死んだエビ、△のドアの後ろに生きている美味しいエビを置いたとき、コウイカは目の前の死んだエビを我慢して、もっと美味しい生きたエビを手に入れられるだろうか?

 この結果、コウイカは食べたいという衝動を自制して、見事もっといいエサを手に入れられることが確かめられたという。


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【無脊椎動物にも自制心と学習能力があることが判明】

 この実験は、無脊椎動物にも自制心と、それに関連する学習能力があることを示した世界初のものだ(なお、似たような実験が昨年発表されているが、それが自制心を示すものなのか判断しづらいとシュネル氏は批判している)。

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 こうした意思力(および関連する学習や知能)についてのこれまでの研究は、主に人間とチンパンジーなどの霊長類が対象だった。

 人間や霊長類で自制心が進化した理由はいくぶん分かりやすい。たとえば、罠のようにしばらく後で獲物を仕留める道具を発達させたこと、あるいは社会的結束の強化、より長い寿命といったことが自制心の発達につながった。

 「自制が発達した理由はこれまで、寿命が長い社会性動物が受ける進化的圧力に基づいて理解されてきました」と、シュネル氏は言う。

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【コウイカのチンパンジーやカラスに匹敵する自制心】

 今回の実験では、コウイカが50秒から130秒とかなり長い時間我慢できることも分かっている。シュネル氏によれば、これは「類人猿、カラス、オウムに匹敵」するほどだという。

 コウイカのような無脊椎動物は、大抵は3年も経たないうちに死んでしまう。それなのに、なぜ彼らは強力な自制心を進化させることができたのだろうか?

 もしかしたらコウイカの自制心は、私たち人間とは違う理由で進化したのかもしれない。

 その理由とは狩りの戦略だ。

 コウイカにはカモフラージュで身を隠して、じっと獲物がやってくるのを待つ習性がある。エサを食べるチャンスは、そう簡単には巡ってこない。
だが、そのおかげで自制心が発達したと考えられるのだそうだ。

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Can Cuttlefish camouflage in a living room? | Richard Hammond's Miracles of Nature - BBC

【知性の起源に迫る一歩】

 コウイカの自制心の発見は、知性の起源を解明するための大切な一歩であるそうだ。「まったく異なる系統で同じような認知能力を見つけられれば、知性の起源をより包括的に理解することができるでしょう」と、シュネル氏はその重要性を語る。

 無脊椎動物の自制心についてはまだまだ謎が多い。それというのも、自制心の研究において、これまで彼らはほとんど無視されてきたからだ。

 今後の研究で白羽の矢が立てられるのは、もしかしたら「タコ」かもしれない。8本足の彼らもまた、驚愕すべき知性の高さで知られている動物だ。

References:Cuttlefish show their intelligence by snubbing sub-standard snacks | University of Cambridge/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:目先の欲をぐっと我慢。コウイカには自制心があることが判明 https://karapaia.com/archives/52299982.html
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