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西オーストラリア州のキンバリーに広がる砂漠の上空をヘリコプターで飛行すると、乾燥した大地にあいた奇妙な穴が見えることがある。
1970年代末には、ほとんど見られなくなってしまったが、現在その穴は、キンバリー地区のカチャナ・ステーションだけで見ることができる。
ここでは、かつて害獣とみなされ駆除の対象だった野生化したロバが保護されている。そう、この穴はロバによって掘られていたのだ。
『Science』(4月30日付)に掲載されたオーストラリア・シドニー工科大学のエリック・ラングレン氏らの研究によると、この穴は砂漠の井戸であり、ロバが穴から水を出すことで、さまざまな野生動物の喉を潤しているのだそうだ。
【野生のロバや馬が掘った井戸が野生生物に恵みをもたらしていた】
調査では鳥、ミュールジカ、ピューマをはじめ、57種もの野生動物がその水を利用していることが判明した。
それだけでなく、井戸が干上がった後は、そこから湿地に生息する植物が発芽することまで観察されている。
こうした井戸を掘るのはロバだけではない。たとえばクイーンズランド州では、野生化した馬が自分の背丈もある穴を掘ることが確認されている。
同じくウマ属の仲間では、ヤマシマウマ、グレビーシマウマ、クーランなども掘るし、アフリカゾウやアジアゾウも掘る。そしてオーストラリアと同様に、ほかの地域でも彼らの掘る井戸が周辺で暮らす動物たちに貴重な水をもたらしている。
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Footage shows holes dug by wild donkeys being used by other species
【絶滅した大型動物も井戸を掘っていた可能性】
およそ10万年前に人間がアフリカ大陸を出発してからというもの、大型動物が絶滅するというパターンが繰り返されてきた。
人間が新しい土地に到着すると、それまでそこで生息していたもっとも大きな動物が消えてしまうのだ。最大の原因と考えられるのは人間による狩猟で、そこに気候変動の影響もくわわった。
ラングレン氏によれば、現生のロバや馬の近縁種が井戸を掘るのならば、人間のせいで絶滅した大型動物もまた掘っていた可能性があるという。
たとえばオーストラリアでは最近、ウォンバットが4メートルの深さの穴を掘ることが確認されている。そしてやはりワラビー、エミュー、ゴアナ(スナオオトカゲ)、各種鳥類など、さまざまな動物が干ばつの間にそれを利用していることが観察されている。
このことは絶滅した巨大ウォンバット(ファスコロナス:Phascolonus)もまた井戸を掘っていた可能性を示唆している。
それと同様に、世界各地に生息していた長鼻類もまた井戸を掘り、周辺の動物たちの喉を潤していたのかもしれない。
実際、北アメリカでは1万3500年前の謎めいた痕跡が発見されているが、これは当時起きた干ばつの時期にマンモスが掘ったものだと推測されている。
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【絶滅した大型動物とロバや馬の共通点】
人間が各地に持ち込んだロバや馬には、大昔の大型動物との共通点があるのは明らかだとラングレン氏は説明する。
昨年『PNAS』に掲載された同氏の研究では、人間が動物を絶滅させたことで失われた土地の機能が、同じく人間がオーストラリアに導入した動物のおかげで戻ってきたことを明らかにしている。
たとえば野生化したロバと馬のエサ・体重・消化器系は、巨大ウォンバットとそっくりだ。このことは、ロバと馬も同じような影響を土地に与えている可能性を示唆している。
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credit:E.J. Lundgren el al., Science
【野生化した動物にも保全する価値がある】
水は限りある資源だが、農業・鉱業といった人間の活動や、気候変動(温暖化)の影響でさらに少なくなっている。
そのために世界の砂漠は拡大するだろうと予測されているが、もしかしたら一部の野生動物は、乾燥した土地で暮らす生命に恵みの水をもたらしてくれるかもしれない。
にもかかわらず、人間の手を逃れ野生化した動物たちはよそ者、厄介者として駆除されるばかりで、保護されることはなかったとラングレン氏は語る。
だが今、「人道的自然保全」 や「マルチスピーシーズ・ジャスティス(複数種の正義)」といった研究分野の登場により、それが変わる兆しが見えはじめたところであるそうだ。
References:Feral desert donkeys are digging wells, giving water to parched wildlife / Wild donkeys and horses dig wells in the desert, help life thrive/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:野生のロバが砂漠に穴を掘り、野生生物たちに水を与えていたことが判明(オーストラリア) https://karapaia.com/archives/52301711.html