
オレンジ色のボディに身を包み、茫洋たる表情で海中をただよう神秘の深海魚は「クジラウオ」のメスだ。
アメリカ、カリフォルニア州モントレー湾の水深2,013メートルの深海を潜航していた無人潜水機(ROV)がその姿を撮影することに成功した。
とても珍しい深海魚で、3形態にメタモルフォーゼ(変態)する。
モントレー湾水族館研究所の専門家たちすら、34年間の海洋調査で、これを含めて18度しか目撃したことがないほどのレアキャラで、多くの謎を秘めている。
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A rare whalefish sighting with ROV Doc Ricketts年齢や性別によって形態が大きく変わるクジラウオ 珍しいのは奇妙な姿や目撃事例の少なさだけではない。クジラウオの仲間は同じ種であっても形態を大きく変化させる。
そのため、2009年にミトコンドリアゲノム解析によって姿の異なる魚たちがじつは同じ仲間であることが判明するまで、「クジラウオ科」「ソコクジラウオ科」「トクビレイワシ科(リボンイワシ科)」の3科に分けられていた。
まずトクビレイワシ科とされてきた仲間は、じつはクジラウオの稚魚だった。
細長い体にはウロコがなく、リボンで飾ったような尾びれを持つ。深海魚ではあるが、稚魚は海面近くでエサを食べているようだ。
これが成長すると、性別に応じて、形態が大きく変化する。
もしオスであれば、体にウロコが生え、顎骨が退縮し口が小さくなってしまう一方、鼻の部分は大きく膨らむ。この姿はかつてソコクジラウオ科に分類されていた。
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Whalefish, Cetomimus sp.オスは動く精子の供給装置 オスの稚魚はカイアシ(エビに似た生物)を必死になって食べる。ところが大人になると一切何も食べなくなる。腸や胃といった消化器官が消えてしまっているほどだ。
そのかわりにお腹の中を占めているのは生殖器と、エネルギーを蓄えておくための大きな肝臓だ。基本的にオスは動く精子の供給装置でしかないのだ。巨大なメスがクジラウオの象徴的存在 もともとクジラウオ科とされてきたのは成魚のメスだ。最大40センチほどで、その体はオスよりもはるかに大きい。
脇腹には水圧を感知するための側線がよく発達している。これは深海の暗闇を泳ぐためのものだ。
また一部の種は、明るいオレンジ色をしている。派手で目立ちやすいように思えるが、深海に赤やオレンジ色の光は届かないので、この色のほうが闇に溶け込みやすいのだ。
オスもメスも水深1500~2000メートルの深海で目撃されることが多いが、3500メートルでも確認された事例があるという。
ほかにも奇妙な仲間が? なおここで述べたのはクジラウオの1種のみについてのことだ。闇に包まれた海の底には、この種を上回る奇妙なクジラウオが潜んでいるかもしれない。We've only encountered this obscure group of fishes 18 times in 34 years of deep-sea exploration with our ROVs. pic.twitter.com/jutO7jxXyU
— MBARI (@MBARI_News) August 6, 2021
そもそも、その習性に関してもまだよくわかっていない。科学者たちは、クジラウオが海面下約2,000フィート(600 m)まで移動して星明かりで餌を食べ、日が暮れると安全な深さまで沈んでいくと考えている。
前人未踏の場所が多い深海には、まだまだ発見されていない生物が数多く潜んでいると予測されている。今後の調査が進むにつれて、神秘のクリーチャーが続々発見されることだろう。超楽しみだ。
References:Shape-shifting fish that confounded scientists for 100 years spotted off California coast / written by hiroching / edited by parumo
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