
生き残るため、ノンストップで5日間も何千キロも飛ばなくてはならない事態を想像してみて欲しい。目的地に着く頃には極度の栄養失調状態となっている。
日本に飛来する全長30センチほどのオオジシギという鳥は、そんな過酷なことを毎年2回もやらなくてはならないのだ。
この小型の渡り鳥は、温暖な土地を目指して大変な渡りを行い、帰りの旅と次の繁殖シーズンに向けての準備をする。
残念なことに、このオオジシギたちの生息地である湿地帯は、現在、開発などの影響で失われつつあり、彼らは危機にさらされている。
オオジシギの驚異的な持久力 シギ科タシギ属に分類されるオオジシギは、5月から7月にかけて北日本やロシア東部で繁殖し、9月から3月にかけては、南半球のオーストラリア東海岸で過ごす。
渡りをする多くのシギ科のように、繁殖地と非繁殖地の間の広大な海洋をノンストップで飛行するというとてつもない持久力を備えている。
極度の栄養失調状態でオーストラリアに到着し、そこで夏を過ごして、次の長い帰還の飛行に耐えうる体力と体脂肪を蓄える。
オーストラリアに生息するほかの多くの渡り鳥と違って、オオジシギが河口や湾で群れをなしている姿を見ることはない。捕食者を避けるため、日中は深く草が生い茂る湿地帯に隠れているのだ。
彼らの特徴的なまだら模様の茶色い羽毛は、湿地に隠れるのに役立っている。
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photo by iStock
頭部の高い位置についている大きな目は、遠くまで見渡すことができ、視野も広い。類まれな視力は、夜間、開けた湿地帯でエサを探すときでも、常に危険を察知することができる。
オオジシギは、究極の渡り鳥といえる。
オーストラリアで、十分なエサと休息をとって、新たな主翼羽を成長させ、秋に日本への長旅に戻るための準備をする。
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オオジシギ ディスプレイフライト 甲信の山 5月中旬 野鳥FHD 空屋根FILMS飲まず食わず、休息なしでたどり着くも生息地が奪われている かつて日本シギとして知られていたオオジシギは、猟鳥として人気があった。20世紀に入ってから、狩猟や湿地の消失によって、オーストラリア東南部で数が減ってしまった。
1981年に日豪渡り鳥協定が締結されたことで、両国でのシギの狩猟は禁止となったが、彼らの生息地である湿地帯の減少は、土地開発や乾燥化のせいで歯止めがかかっていない。
5日間休みなく飛んで、やせ衰え疲労困憊状態でやっと目的地に到着したら、生息地がなくなっていたとしたら? 食べ物も休むところもない。これは、オオジシギなど多くの渡り鳥が、今まさに直面している危機なのだ。
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野鳥撮影・ 野鳥動画・オオジシギの鳴き声 Latham's snipeシギのいる湿地帯の多くは正式に保護されていない オーストラリア政府の環境保護・生物多様性保全法では、18羽以上シギのいる湿地帯は、国として重要であるとされている。しかし、残念ながら、シギの生息地の開発は、相変わらず行われているのが現状だ。
2014年、シギの大切な湿地帯に住宅を建設する計画が引き金になって、熱心な研究者や市民科学者が手を組み、ヴィクトリア州南西部でのオオジシギの監視プログラムが始まった。
モニタリングが始まって以降、多くの献身的なボランティアや専門家たちの助けをかりて、このオオジシギ・プロジェクトは、国内のほかの地域にも広まった。
このモニタリングの全容はまだすべてがはっきりしたわけではないが、ふたつの明確なパターンが見えてきた。
すると、オーストラリア、ヴィクトリア州ポート・フェアリーで捕獲した一羽のメスのシギのデータから、驚くべき渡りの実態がわかった。
この鳥は、北日本の繁殖地を飛び立ってから、およそ7000キロをノンストップで飛び、3日間でオーストラリア東南部のクイーンズランドまで直接やってきたのだ。
通常、この旅は5日間ほどかかるはずだが、この個体はそれを3日でやってのけた。
これは渡り鳥の記録としては最速の一例で、太平洋を飛び越えていく渡りが、いかに過酷な行為であるかを物語っている。さらに、シギがオーストラリアに戻ってきたときに、良質な湿地帯があることが、いかに重要であるかも明らかになった。
都市開発は、相変わらずオオジシギの生息地を脅かし続けている。オーストラリア東部のいくつかの生息地は、住宅開発や大規模なインフラプロジェクトのせいで危機にさらされている。
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Photo by:Jason Girvan / WIKI commons
オオジシギたちが棲める湿地帯の確保を だが、べつのやり方も可能だ。
例えば、ヴィクトリア州が行っているケープ・ピーターソン・エコビレッジのような環境に優しい開発計画もあり、希望を与えてくれる。
ここでは、研究者や市民科学者たちが、開発者と協力して、シギのための湿地帯を保護・回復するために、開発地内に保全区域を作るよう手助けしている。
このような展開は希望が見えるが、次のステップとして極めて重要なことは、オオジシギには湿地帯が不可欠であることをはっきりと認識するよう、地域開発の計画を変更することだ。
命がけで長距離をノンストップで移動してくるオオジシギたちの生息地が人間によって破壊されているとしたら、それは悲劇以外の何物でもない。
ちなみに日本でも土地開発の影響で、北海道では繁殖地に適した環境が増加しているが、本州では減少している傾向にあるという。
References:This bird's stamina is remarkable: it flies non-stop for 5 days from Japan to Australia, but now its habitat is under threat / written by konohazuku / edited by parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
日本に飛来する全長30センチほどのオオジシギという鳥は、そんな過酷なことを毎年2回もやらなくてはならないのだ。
この小型の渡り鳥は、温暖な土地を目指して大変な渡りを行い、帰りの旅と次の繁殖シーズンに向けての準備をする。
残念なことに、このオオジシギたちの生息地である湿地帯は、現在、開発などの影響で失われつつあり、彼らは危機にさらされている。
オオジシギの驚異的な持久力 シギ科タシギ属に分類されるオオジシギは、5月から7月にかけて北日本やロシア東部で繁殖し、9月から3月にかけては、南半球のオーストラリア東海岸で過ごす。
渡りをする多くのシギ科のように、繁殖地と非繁殖地の間の広大な海洋をノンストップで飛行するというとてつもない持久力を備えている。
極度の栄養失調状態でオーストラリアに到着し、そこで夏を過ごして、次の長い帰還の飛行に耐えうる体力と体脂肪を蓄える。
オーストラリアに生息するほかの多くの渡り鳥と違って、オオジシギが河口や湾で群れをなしている姿を見ることはない。捕食者を避けるため、日中は深く草が生い茂る湿地帯に隠れているのだ。
彼らの特徴的なまだら模様の茶色い羽毛は、湿地に隠れるのに役立っている。
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photo by iStock
頭部の高い位置についている大きな目は、遠くまで見渡すことができ、視野も広い。類まれな視力は、夜間、開けた湿地帯でエサを探すときでも、常に危険を察知することができる。
オオジシギは、究極の渡り鳥といえる。
雪が溶けて温かくなる頃に北半球で繁殖し、その後、春の雨と温暖な気候、エサが豊富な湿地帯の恵みを受けるために南半球に渡っていく。
オーストラリアで、十分なエサと休息をとって、新たな主翼羽を成長させ、秋に日本への長旅に戻るための準備をする。
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オオジシギ ディスプレイフライト 甲信の山 5月中旬 野鳥FHD 空屋根FILMS飲まず食わず、休息なしでたどり着くも生息地が奪われている かつて日本シギとして知られていたオオジシギは、猟鳥として人気があった。20世紀に入ってから、狩猟や湿地の消失によって、オーストラリア東南部で数が減ってしまった。
1981年に日豪渡り鳥協定が締結されたことで、両国でのシギの狩猟は禁止となったが、彼らの生息地である湿地帯の減少は、土地開発や乾燥化のせいで歯止めがかかっていない。
5日間休みなく飛んで、やせ衰え疲労困憊状態でやっと目的地に到着したら、生息地がなくなっていたとしたら? 食べ物も休むところもない。これは、オオジシギなど多くの渡り鳥が、今まさに直面している危機なのだ。
[動画を見る]
野鳥撮影・ 野鳥動画・オオジシギの鳴き声 Latham's snipeシギのいる湿地帯の多くは正式に保護されていない オーストラリア政府の環境保護・生物多様性保全法では、18羽以上シギのいる湿地帯は、国として重要であるとされている。しかし、残念ながら、シギの生息地の開発は、相変わらず行われているのが現状だ。
2014年、シギの大切な湿地帯に住宅を建設する計画が引き金になって、熱心な研究者や市民科学者が手を組み、ヴィクトリア州南西部でのオオジシギの監視プログラムが始まった。
モニタリングが始まって以降、多くの献身的なボランティアや専門家たちの助けをかりて、このオオジシギ・プロジェクトは、国内のほかの地域にも広まった。
このモニタリングの全容はまだすべてがはっきりしたわけではないが、ふたつの明確なパターンが見えてきた。
1. オオジシギは、都市部の湿地帯に群れていることが多い7000キロを3日間ノンストップで飛ぶ超絶個体も 2016年から2020年にかけて、オオジシギ・プロジェクトは、鳥に小さな電子機器を装着して、彼らの渡りのルートを調べ始めた。
2. こうした重要な湿地帯の大部分は、開発などからの正式な保護対策がない
すると、オーストラリア、ヴィクトリア州ポート・フェアリーで捕獲した一羽のメスのシギのデータから、驚くべき渡りの実態がわかった。
この鳥は、北日本の繁殖地を飛び立ってから、およそ7000キロをノンストップで飛び、3日間でオーストラリア東南部のクイーンズランドまで直接やってきたのだ。
通常、この旅は5日間ほどかかるはずだが、この個体はそれを3日でやってのけた。
これは渡り鳥の記録としては最速の一例で、太平洋を飛び越えていく渡りが、いかに過酷な行為であるかを物語っている。さらに、シギがオーストラリアに戻ってきたときに、良質な湿地帯があることが、いかに重要であるかも明らかになった。
都市開発は、相変わらずオオジシギの生息地を脅かし続けている。オーストラリア東部のいくつかの生息地は、住宅開発や大規模なインフラプロジェクトのせいで危機にさらされている。
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Photo by:Jason Girvan / WIKI commons
オオジシギたちが棲める湿地帯の確保を だが、べつのやり方も可能だ。
例えば、ヴィクトリア州が行っているケープ・ピーターソン・エコビレッジのような環境に優しい開発計画もあり、希望を与えてくれる。
ここでは、研究者や市民科学者たちが、開発者と協力して、シギのための湿地帯を保護・回復するために、開発地内に保全区域を作るよう手助けしている。
このような展開は希望が見えるが、次のステップとして極めて重要なことは、オオジシギには湿地帯が不可欠であることをはっきりと認識するよう、地域開発の計画を変更することだ。
命がけで長距離をノンストップで移動してくるオオジシギたちの生息地が人間によって破壊されているとしたら、それは悲劇以外の何物でもない。
ちなみに日本でも土地開発の影響で、北海道では繁殖地に適した環境が増加しているが、本州では減少している傾向にあるという。
References:This bird's stamina is remarkable: it flies non-stop for 5 days from Japan to Australia, but now its habitat is under threat / written by konohazuku / edited by parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
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