ゾンビ人工衛星を燃料にするプラズマ推進器が開発される。宇宙ゴミ対策にも最適
credit:Hypernova
 地球の軌道上には無数のスペースデブリ(宇宙ゴミ)が漂っている。その数は年々増え続け、スペースデブリ同士の衝突や、地球上に墜落する事故も起きており、いち早い対策が迫られている。


 この問題を解決するため、南アフリカの企業は、「プラズマ推進器」という新しいテクノロジーに注目している。

 この技術は、ゾンビ化して使用不能となった金属でできた人工衛星などのスペースデブリの金属を燃料として、小型の人工衛星を操縦し、位置を変えたり、危険なスペースデブリを避けたりできるようになる。宇宙ゴミの掃除までしてくれるのだからありがたい。

 これが実用化されれば、太陽系内にすでに豊富に存在する宇宙ゴミという資源を活用して、ミッションを遂行できるようになる。

制御不能の人工衛星の軌道修正を行うプラズマ推進器 「イオンエンジン」や「ソーラーセイル」など、いくつかの実証実験を除けば、今のところ宇宙空間の移動には化学燃料が使われている。

 そのためほとんどの人工衛星は、宇宙空間にただ放り投げられるだけで、操縦はおろか、わずかに軌道修正することすらできない。

 南アフリカに拠点を置く「Hypernova Space Technologies(ハイパーノヴァ社)」と、創業者のジョナサン・ルン氏は、金属を燃料にする電気推進方式で、この状況に変革を起こそうとしている。

 同社が開発する「プラズマ推進器」は、電気反応で固体金属からプラズマジェットを発生させ、推進力にする。かつてNASAが開発を試み、結局完成させられなかった技術だ。

 これが実現できれば、10キロ以下の小型衛星を操縦して、位置を変えたり、危険なスペースデブリを避けたりできるようになる。

 約10年前に着想してから現在まで、ハイパーノヴァ社はさまざまな実験を繰り返し、2017年にはルクセンブルク政府が主催する「LuxIMPULSE賞」で見事に最優秀賞を受賞した。

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ゾンビ化した人工衛星やスペースデブリを燃料にできる 固体金属を燃料として利用することには、いくつかの利点がある

 まず「安全性が高い」ことだ。
無害で、加圧されることもなく、漏れる心配もないため、打ち上げ前に爆発する危険性がほとんどない。

 さらに人工衛星の「製造中に燃料を積める」。現在の可燃性液体燃料とは違い、完成ギリギリまで待つ必要がないのだ。

 だが最大の利点は、「スペースデブリや金属を含んだ小惑星を利用できる」ことだ。つまり宇宙で燃料を補給できる。これは高価な人工衛星の寿命を延ばすことにもつながる。

 これについて、ハイパーノヴァ社のサイトでは次のように説明されている。
今日の地球、明日の月、そして私たちが生きている時代の小惑星。ハイパーノヴァの推進器が使うのは、そこにある燃料です


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Hypernova | Cutting-edge plasma propulsion for EnduroSat satellite platform小型人工衛星に最適 宇宙はますます混雑するだろうことが予測されている。今後10年で、「キューブサット」と呼ばれる10センチ程度の小型人工衛星が、何万機と打ち上げられるだろうからだ。

 プラズマ推進器は、こうした小型人工衛星に最適であるそうだ。位置の維持や衝突の回避など、軌道上での操作をサポートしてくれるという。


キューブサット

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2022年に初号機打ち上げ予定 現在スーパーノヴァ社は、ブルガリアの「EnduroSat(エンデューロサット社)」と手を組み、22年初めにプラズマ推進器を搭載した人工衛星の打ち上げを計画している。

 見事成功すれば、機能停止したゾンビ人工衛星を燃料にするというコンセプトは、もっと大きな宇宙船の開発者たちをも震撼させるだろうと、ルン氏は自信を覗かせる。
希少で高価な液体燃料や気体燃料から、宇宙に捨てられた安価な鉄などへの切り替えに成功すれば、ゲームは完全に変わることでしょう
References:Hypernova / thedebrief / written by hiroching / edited by parumo

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