
従来の理論によれば、時空の近道と期待される「ワームホール」は、とても不安定ですぐに崩壊してしまうとされていた。
ところが最新の論文よれば、少なくともそうした想定よりは安定している可能性があるようだ。
ワームホールを記述するには「一般相対性理論」が用いられるが、その基準がわずかに変わるだけで、全体像ががらりと変わってしまうのだそうだ。
一般相対性理論の座標は自由度が高い アインシュタインが導き出した、時間・空間に関する「一般相対性理論」は、自動的な計算機のようなものだ。
粒子の質量やら配列やらを入力してやれば、重力の下である座標から別の座標へとどう移動するのか、勝手に弾き出してくれる。
この計算機の計算ルールは決まっている。ところが、座標に関してはかなり自由度が高く、数学的に色々な記述をすることができる。これを「計量(メトリック)」という。
たとえば、あなたはどこかの目的地を目指しているとしよう。そこへの道順を表す方法は1つではない。
通りの名前や交差点の数を利用してもいいだろう。緯度と経度で記すことだってできるし、何か目印になるような建物だって便利だ。
最終的に目指す目的地にたどり着くなら何でもいい。
それと同じように、物理学では同じ状況を記すために、さまざまな計量を使うことができる。
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ワームホールにもいくつかの計量が考えられる ブラックホールやワームホールを記述するにも、いくつか計量が考えられる。
もっとも一般的なのは、「シュワルツシルト計量」だ。最初にブラックホールが発見されたときも、これが利用された。
だが、シュワルツシルト計量には少々厄介な点がある。光がブラックホールから脱出できなくなる距離(事象の地平面)で誤動作を起こすのだ。
計量が完全に壊れてしまい、時空における異なる地点を区別できなくなってしまう。
だが「エディントン・フィンケルシュタイン座標」を使用すれば、事象の地平面に到達した粒子の振る舞いを記述できる。それによれば、粒子はそのまま通過してブラックホールに落ち、二度と現れない。
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ワームホールを作る一番シンプルな方法 ところで、時空のトンネルであるワームホールを作る一番シンプルな方法は、ブラックホールを利用することだ。
ブラックホールは、一度入ればどんなものでも絶対に外に出られない。その一方、この宇宙には、どんなものでも絶対に中に入れない「ホワイトホール」が存在する可能性がある。
この両極端な天体の「特異点」(密度が無限になる点)をつなぐ。すると、ブラックホールとホワイトホールの間に時空のトンネルが形成されると考えられるのだ。
このアイデアは、アルベルト・アインシュタインとネイサン・ローゼンが最初に提唱した。ゆえにワームホールは、「アインシュタイン・ローゼン橋」とも呼ばれる。
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新たな計量によると、ワームホールの通過は可能 今のところワームホールは理論上の存在だが、もし本当にあったら、その中はどうなっているのだろうか?
一般相対性理論によるならば、強力すぎる重力によって、ワームホールは輪ゴムのように引き伸ばされ、千切れてしまう。そもそもホワイトホール自体が非常に不安定で、存在しない可能性すらある。
だから、そこを通ろうものなら、ただでは済まない。だが、この分析はシュワルツシルト計量による計算結果だ。
そこでフランス、リヨン高等師範学校のパスカル・コイラン氏は、エディントン・フィンケルシュタイン計量でワームホールの分析を試み、その結果を『International Journal of Modern Physics D』(21年10月22日付)で発表した。
それによると、こちらの計量では誤動作などなく、粒子の動きを楽に把握できるという。
粒子は事象の地平面を通過し、ワームホールに進入すると、そのまま反対側から脱出する。すべて有限の時間内に起きることだ。
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ただし安定はしていない だからと言って、我々人間がワームホールの中を通過できるということではない。
一般相対性理論が扱うのは、重力の振る舞いで、自然界にあるほかの力は対象外だ。熱やエネルギーを扱う熱力学によるなら、ワームホールは依然として不安定ということになる。
また現実にブラックホールとホワイトホールを結べたとしても、そのエネルギー密度のために、何もかもバラバラになってしまう。
宇宙のトンネルを通って、遠くの銀河までひとっ飛び。ロマンのある夢だが、そう簡単には叶わないようだ。
References:Infall time in the Eddington–Finkelstein metric, with application to Einstein–Rosen bridges | International Journal of Modern Physics D / Wormholes may be stable after all, new theory suggests | Live Science / written by hiroching / edited by parumo
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ところが最新の論文よれば、少なくともそうした想定よりは安定している可能性があるようだ。
ワームホールを記述するには「一般相対性理論」が用いられるが、その基準がわずかに変わるだけで、全体像ががらりと変わってしまうのだそうだ。
一般相対性理論の座標は自由度が高い アインシュタインが導き出した、時間・空間に関する「一般相対性理論」は、自動的な計算機のようなものだ。
粒子の質量やら配列やらを入力してやれば、重力の下である座標から別の座標へとどう移動するのか、勝手に弾き出してくれる。
この計算機の計算ルールは決まっている。ところが、座標に関してはかなり自由度が高く、数学的に色々な記述をすることができる。これを「計量(メトリック)」という。
たとえば、あなたはどこかの目的地を目指しているとしよう。そこへの道順を表す方法は1つではない。
通りの名前や交差点の数を利用してもいいだろう。緯度と経度で記すことだってできるし、何か目印になるような建物だって便利だ。
最終的に目指す目的地にたどり着くなら何でもいい。
それと同じように、物理学では同じ状況を記すために、さまざまな計量を使うことができる。
その時々に応じて、便利なものを使い分ければいい。
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ワームホールにもいくつかの計量が考えられる ブラックホールやワームホールを記述するにも、いくつか計量が考えられる。
もっとも一般的なのは、「シュワルツシルト計量」だ。最初にブラックホールが発見されたときも、これが利用された。
だが、シュワルツシルト計量には少々厄介な点がある。光がブラックホールから脱出できなくなる距離(事象の地平面)で誤動作を起こすのだ。
計量が完全に壊れてしまい、時空における異なる地点を区別できなくなってしまう。
だが「エディントン・フィンケルシュタイン座標」を使用すれば、事象の地平面に到達した粒子の振る舞いを記述できる。それによれば、粒子はそのまま通過してブラックホールに落ち、二度と現れない。
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ワームホールを作る一番シンプルな方法 ところで、時空のトンネルであるワームホールを作る一番シンプルな方法は、ブラックホールを利用することだ。
ブラックホールは、一度入ればどんなものでも絶対に外に出られない。その一方、この宇宙には、どんなものでも絶対に中に入れない「ホワイトホール」が存在する可能性がある。
この両極端な天体の「特異点」(密度が無限になる点)をつなぐ。すると、ブラックホールとホワイトホールの間に時空のトンネルが形成されると考えられるのだ。
このアイデアは、アルベルト・アインシュタインとネイサン・ローゼンが最初に提唱した。ゆえにワームホールは、「アインシュタイン・ローゼン橋」とも呼ばれる。
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新たな計量によると、ワームホールの通過は可能 今のところワームホールは理論上の存在だが、もし本当にあったら、その中はどうなっているのだろうか?
一般相対性理論によるならば、強力すぎる重力によって、ワームホールは輪ゴムのように引き伸ばされ、千切れてしまう。そもそもホワイトホール自体が非常に不安定で、存在しない可能性すらある。
だから、そこを通ろうものなら、ただでは済まない。だが、この分析はシュワルツシルト計量による計算結果だ。
そこでフランス、リヨン高等師範学校のパスカル・コイラン氏は、エディントン・フィンケルシュタイン計量でワームホールの分析を試み、その結果を『International Journal of Modern Physics D』(21年10月22日付)で発表した。
それによると、こちらの計量では誤動作などなく、粒子の動きを楽に把握できるという。
粒子は事象の地平面を通過し、ワームホールに進入すると、そのまま反対側から脱出する。すべて有限の時間内に起きることだ。
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ただし安定はしていない だからと言って、我々人間がワームホールの中を通過できるということではない。
一般相対性理論が扱うのは、重力の振る舞いで、自然界にあるほかの力は対象外だ。熱やエネルギーを扱う熱力学によるなら、ワームホールは依然として不安定ということになる。
また現実にブラックホールとホワイトホールを結べたとしても、そのエネルギー密度のために、何もかもバラバラになってしまう。
宇宙のトンネルを通って、遠くの銀河までひとっ飛び。ロマンのある夢だが、そう簡単には叶わないようだ。
References:Infall time in the Eddington–Finkelstein metric, with application to Einstein–Rosen bridges | International Journal of Modern Physics D / Wormholes may be stable after all, new theory suggests | Live Science / written by hiroching / edited by parumo
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