私たちの周りにある、あらゆる物質は「原子」でできている。原子は光の粒子(光子)が散乱することで見ることができる。
ところが、原子を超冷却し、さらに超圧縮すると、光を反射しなくなるため透明になってしまう。
この現象は、すでに30年前に予言されていたが、技術的に実現が難しく実際に確認されたことはなかった。
だが、このほど米マサチューセッツ工科大学のグループが、ついにそれを実証することに成功し、『Science』(21年11月18日付)で報告されている。
原子が透明になる現象とは 光の粒子(光子)が原子の雲を通過するとき、光子はまるでビリヤードの球のように跳ね返って、散乱する。こうして光が放たれるので、原子の雲は目に見える。
だが30年前、物理学者デビッド・プリチャードは次のように予測した。
原子をもはや動けなくなるまで冷却し、ダメ押しとして動くスペースがない空間に押し込める。
身動きを取れなくなった原子の雲は、進入してきた光子を跳ね返せなくなる。そうなれば、光が散乱されず、原子は見えなくる。透明になるはずだ、と。
しかし、これを実際に行うのは技術的に難しく、これまで予言の正しさは未確認だった。
[画像を見る]
photo by iStock
レーザーで超冷却・超圧縮 今回についにその実証に成功したのは、ノーベル物理学賞受賞者でもあるウォルフガング・ケターレ教授が率いる、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループだ。
同グループは、「リチウム原子」の特殊な同位体を、20マイクロケルビン(星間宇宙の10万分の1の温度)にまで冷却。さらにレーザーによって、1立方センチあたり原子4兆個の密度にまで超圧縮した。
こうして身動きが取れなくなった原子に対し、熱したり、密度が崩れてしまわないよう別のレーザーを慎重に照射。
このとき跳ね返ってくる光子をレンズとカメラで数えたところ、かつての予言の通り、原子が最大38%暗くなることが確認されたという。つまり散乱する光子が、38%少なくなったということだ。
この実験では、20マイクロケルビンまで冷却されたが、もし絶対零度まで冷却すれば、原子の雲は完全に透明になってしまうと考えられるそうだ。
[画像を見る]
原子を超冷却・超圧縮することで、光を散乱する能力が抑制されることを確認 / image credit:Christine Daniloff、MIT物質宇宙を安定させるパウリの排他原理と関連性 この現象は、「パウリの排他原理」や「パウリ・ブロッキング」と呼ばれる法則とも関係がある。
原子を構成する粒子の1つである「電子」は、エネルギーの殻の中に配置されている。それはコンサート会場の座席のようなもので、別の列に移動するには、座席に空きがなければならない。
逆に言えば、座席が埋まっていると、電子は移動できない。これが「パウリの排他原理」で、この世の物質が安定して存在するうえで不可欠な法則だ。
[画像を見る]
の排他原理をコンサート会場の座席で例えた図 / Credit:MIT News,How ultracold, superdense atoms become invisible(2021)
原子が飛んできた光子を跳ね返すには、移動してその衝撃を吸収するための空いた座席が必要になる。
今回の実験は、こうしたパウリの排他原理を観察するまったく新しい方法でもあるそうだ。量子コンピューターへの応用 こうした光子の散乱を抑える技術は、量子コンピューターのデータ保存技術としても応用できる。
量子コンピューターの動作は、量子レベルで制御されている。そのような世界では、光の散乱すら情報が漏れ出る問題につながる恐れがある。
光子の散乱を上手に抑えることで、こうした問題を改善できる可能性があるとのことだ。
References:How ultracold, superdense atoms become invisi | EurekAlert! / written by hiroching / edited by parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』











