
image credit:B. Weissbourd
クラゲは脳をもたない生物だ。にもかかわらず、空腹を感じ、餌を察知し、危険が迫ると逃げることができる。
米カリフォルニア工科大学の研究グループは、遺伝子を操作し、クラゲの神経細胞を光らせ、その活動をリアルタイムで観察することに成功した。
その結果、クラゲは分散している神経を、ドミノのように連鎖的に活性化できることがわかったという。『Cell』(11月24日付)で報告されている。
クラゲを丸裸にし、どのように考えて行動するのかを観察 人間の脳は1000億個の神経細胞と、それらをつなぎ合わせる100兆もの結合で構成されている。まるで宇宙のような脳ネットワークが一体どのように連動して、1つにまとまった機能を作り出しているのか? それは神経科学における大きな謎だ。
だが、もしかしたら、この謎にクラゲが答えてくれるかもしれない。
カリフォルニア工科大学の研究グループが開発した遺伝子ツールは、クラゲを遺伝子操作し、アクティブな神経細胞を光らせることを可能にした。
クラゲの体は透明だ。だから、光を観察すれば、生きたままの自然な状態のクラゲの体内で、神経細胞がどのように連動しているのか手にとるようにわかる。
泳いでいるときも、エサを食べているときも、敵に遭遇したときも、クラゲが感じていることはすべてまるっとお見通しになるということだ。
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今回のモデルとなったクラゲ、Clytia hemisphaerica / image credit:B.Weissbourdなぜクラゲをモデルに選んだのか? じつはクラゲがモデル生物として利用されることは珍しい。
生物の基本的な機能を知りたいときによく調べられるのは、ミミズのような蠕虫(ぜんちゅう)、あるいはハエ・魚・マウスなどだ。
クラゲは遺伝的にこうした生物から非常に遠い。何しろ進化の視点から見てみれば、クラゲよりも蠕虫の方が人間に近いくらいだ。
しかし、今回の研究の主執筆者であるブラディ・ワイズボード博士によれば、だからこそ「比較対象として重要」なのだという。
たとえば、神経の基本的な働きはあらゆる種に共通しているのか? 初期の神経系はどのような姿だったのか?遠く離れた種を比べることで、こうした疑問を解明するヒントが得られるかもしれないという。
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image credit:B.Weissbourdクラゲの分散した神経は驚くほど組織化され連鎖している 人間の場合、頭の中に”脳”という形で中枢神経が集中している。
他方、脳をもたないクラゲの神経は分散型だ。つまり、体全体に神経(脳)が散らばっている。だから口を体から切り離したとしても、その口は食べることができる。
こうした分散型には、さまざまなメリットがあるらしく、クラゲは数億年前に誕生してから現在まで生き残ってきた。
しかし、全身に分散した神経は、一体どのようにして協調し、全体として1つの行動を生み出しているのだろうか?
ワイズボード博士らが、新たに開発した遺伝子ツールで、クラゲを神経系まで丸裸にしたのは、それを知るためだ。
今回調べられたのは、「Clytia hemisphaerica」という小さなクラゲが、エサを食べるときの神経活動だ。
クラゲが触手でエサを捕まえると、傘を内側に折りまげて、触手を口元へ運ぶ。それと同時に、口を触手へ向けて曲げてエサを食べようとする。
神経細胞を光らせてこのときの神経系の働きを追ったところ、傘の内側への折りたたみは、特定の神経ペプチドを作る神経細胞のサブネットワークが担っていることが突き止められた。
さらに、身体中に分散して一見バラバラに見える神経ネットワークが、意外なほど組織化されて連鎖的に動いていることも明らかになったという。
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開発された遺伝子ツールは、活性化したクラゲの神経細胞を光らせて、神経ネットワークが連携する様子をリアルタイムで観察することができる / image credit:B. Weissbourdクラゲは触手の1本1本で感じ取り、それぞれに考えている可能性 研究グループのデビッド・アンダーソン教授は、クラゲの神経細胞は”切り分けたピザ”のようなくさび形に分かれていると説明する。
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体の右側を折りたたんで、触手でとらえたエサを口元に運ぶ瞬間 / image credit:B. Weissbourdより複雑な神経活動システム解明の足掛かり この研究は、まだ始まったばかりだ。研究グループが知りたいのは、食事だけではない。クラゲの神経ネットワークが全体として、どのように行動を作り出しているのか解き明かすのが狙いだ。
そして最終的にはクラゲだけでなく、「もっと複雑な神経系を理解するための足掛かりにできれば」と、ワイズボード博士は語る。
References:A genetically tractable jellyfish model for systems and evolutionary neuroscience: Cell / Caltech Researchers Read a Jellyfish’s Mind / written by hiroching / edited by parumo
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クラゲは脳をもたない生物だ。にもかかわらず、空腹を感じ、餌を察知し、危険が迫ると逃げることができる。
まるで考えながら行動しているように見える。
米カリフォルニア工科大学の研究グループは、遺伝子を操作し、クラゲの神経細胞を光らせ、その活動をリアルタイムで観察することに成功した。
その結果、クラゲは分散している神経を、ドミノのように連鎖的に活性化できることがわかったという。『Cell』(11月24日付)で報告されている。
クラゲを丸裸にし、どのように考えて行動するのかを観察 人間の脳は1000億個の神経細胞と、それらをつなぎ合わせる100兆もの結合で構成されている。まるで宇宙のような脳ネットワークが一体どのように連動して、1つにまとまった機能を作り出しているのか? それは神経科学における大きな謎だ。
だが、もしかしたら、この謎にクラゲが答えてくれるかもしれない。
カリフォルニア工科大学の研究グループが開発した遺伝子ツールは、クラゲを遺伝子操作し、アクティブな神経細胞を光らせることを可能にした。
クラゲの体は透明だ。だから、光を観察すれば、生きたままの自然な状態のクラゲの体内で、神経細胞がどのように連動しているのか手にとるようにわかる。
泳いでいるときも、エサを食べているときも、敵に遭遇したときも、クラゲが感じていることはすべてまるっとお見通しになるということだ。
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今回のモデルとなったクラゲ、Clytia hemisphaerica / image credit:B.Weissbourdなぜクラゲをモデルに選んだのか? じつはクラゲがモデル生物として利用されることは珍しい。
生物の基本的な機能を知りたいときによく調べられるのは、ミミズのような蠕虫(ぜんちゅう)、あるいはハエ・魚・マウスなどだ。
クラゲは遺伝的にこうした生物から非常に遠い。何しろ進化の視点から見てみれば、クラゲよりも蠕虫の方が人間に近いくらいだ。
しかし、今回の研究の主執筆者であるブラディ・ワイズボード博士によれば、だからこそ「比較対象として重要」なのだという。
たとえば、神経の基本的な働きはあらゆる種に共通しているのか? 初期の神経系はどのような姿だったのか?遠く離れた種を比べることで、こうした疑問を解明するヒントが得られるかもしれないという。
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image credit:B.Weissbourdクラゲの分散した神経は驚くほど組織化され連鎖している 人間の場合、頭の中に”脳”という形で中枢神経が集中している。
他方、脳をもたないクラゲの神経は分散型だ。つまり、体全体に神経(脳)が散らばっている。だから口を体から切り離したとしても、その口は食べることができる。
こうした分散型には、さまざまなメリットがあるらしく、クラゲは数億年前に誕生してから現在まで生き残ってきた。
しかし、全身に分散した神経は、一体どのようにして協調し、全体として1つの行動を生み出しているのだろうか?
ワイズボード博士らが、新たに開発した遺伝子ツールで、クラゲを神経系まで丸裸にしたのは、それを知るためだ。
今回調べられたのは、「Clytia hemisphaerica」という小さなクラゲが、エサを食べるときの神経活動だ。
クラゲが触手でエサを捕まえると、傘を内側に折りまげて、触手を口元へ運ぶ。それと同時に、口を触手へ向けて曲げてエサを食べようとする。
神経細胞を光らせてこのときの神経系の働きを追ったところ、傘の内側への折りたたみは、特定の神経ペプチドを作る神経細胞のサブネットワークが担っていることが突き止められた。
さらに、身体中に分散して一見バラバラに見える神経ネットワークが、意外なほど組織化されて連鎖的に動いていることも明らかになったという。
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開発された遺伝子ツールは、活性化したクラゲの神経細胞を光らせて、神経ネットワークが連携する様子をリアルタイムで観察することができる / image credit:B. Weissbourdクラゲは触手の1本1本で感じ取り、それぞれに考えている可能性 研究グループのデビッド・アンダーソン教授は、クラゲの神経細胞は”切り分けたピザ”のようなくさび形に分かれていると説明する。
クラゲの傘の神経細胞ネットワークは、一見分散しているようですが、実際には神経細胞のパッチに細分化されています。切り分けたピザのような形に組織化されているのですこうした組織的な動きは、クラゲをいくら解剖しても絶対にわからない。神経活動を光らせて可視化できたからこそ、解明できたことだという。
触手がエサを捕らえると、それに一番近いピザの切れ端が活性化し、その部分を内側に折りたたみます。こうして、エサが口元に引き寄せられます
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体の右側を折りたたんで、触手でとらえたエサを口元に運ぶ瞬間 / image credit:B. Weissbourdより複雑な神経活動システム解明の足掛かり この研究は、まだ始まったばかりだ。研究グループが知りたいのは、食事だけではない。クラゲの神経ネットワークが全体として、どのように行動を作り出しているのか解き明かすのが狙いだ。
そして最終的にはクラゲだけでなく、「もっと複雑な神経系を理解するための足掛かりにできれば」と、ワイズボード博士は語る。
References:A genetically tractable jellyfish model for systems and evolutionary neuroscience: Cell / Caltech Researchers Read a Jellyfish’s Mind / written by hiroching / edited by parumo
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