
だが、毎年大量に捕獲されることから絶滅が危惧され、2018年、アメリカの一部の医療会社は代わりに合成化合物の検査薬に段階的に切り替えると発表したのだが、ここ最近、カブトガニの血液の需要が高まり、高値で売買されているという。
カブトガニを守りたい環境団体とビジネスを続けたい企業や政府との溝はなかなか埋まらないようだ。『The Verge』が伝えている。
製薬の検査に使用されてきたカブトガニの青い血液 グラム陰性菌が持つ「エンドトキシン(内毒素)」という成分は、人体に入ると致死性のショックや発熱などを引き起こす危険な毒素だ。
そび健康被害を防ぐために使われているのが、「カブトガニ血球抽出物(LAL)」である。
その名の通り、カブトガニの血液から抽出されたこの検査薬は、エンドトキシンに触れると固まる。この性質を利用して、ワクチン・医薬品・医療機器などのエンドトキシン汚染を検査することができる。
その需要は高く、1リットルが170万円以上で取引されることもある。そのおかげで、カブトガニの血抜きビジネスが大流行りだ。
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Why Horseshoe Crab Blood Is So Expensive | So Expensive血抜きビジネスの影響でカブトガニは準絶滅危惧種に アメリカでは毎年50万匹のカブトガニが捕獲され、血液を抜かれる。血を抜かれたカブトガニは海に返されるが、体への負担は大きく、最大で3割は死んでしまうと推定されている。
このような捕獲に対する法規制はほとんどなく、アメリカではカブトガニの生息数が急激に減少を続けている。
たとえば、アメリカ最大のカブトガニ生息地であるデラウェア湾では、1990年に124万匹いたが、2002年には33万4000匹未満にまで減少した。
その生息数は一見安定しているように見えるが、カブトガニ(Limulus polyphemus/アメリカカブトガニ)はすでに、IUCNの「準絶滅危惧種」に指定されている。
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カブトガニの減少は生態系にも影響をもたらす カブトガニの減少は、他の生物にも影響があると考えられている。
カブトガニ血球抽出物の主要な生産企業である「チャールズ・リバー・ラボラトリーズ社」は、5月から6月の産卵期にかけて、海岸のカブトガニを囲い込んで血液を抜く。
通常ならメスはこの期間に8万個の卵を産む。これはコオバシギなどの渡鳥にとっては大切なエサだ。
ところがコオバシギはここ数十年で8割も生息数が減っている。その原因は、カブトガニの卵の減少と関係があると推測されている。
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コオバシギ photo by Pixabay
カブトガニの血液の代わりとなる代替試験薬は存在する このような状況の中、チャールズ・リバー・ラボラトリーズ社とサウスカロライナ州天然資源省は、絶滅危惧種保護法違反の疑いで環境NPOから提訴されている。
じつはカブトガニ血球抽出物の代わりはある。人工的に生産できる「遺伝子組換え血液凝固C因子(rFC)」は、カブトガニ血球抽出物と同じ性能があるとされ、EU諸国や中国などではすでに承認されている。
しかしチャールズ・リバー・ラボラトリーズ社は、その安全性を証明するには、まだまだ研究が必要だと主張。
くわえて、釣り餌としてのカブトガニの使用を禁止する取り組みを支援するなど、「健全なカブトガニの生息地を守る」ための活動も行なっていると述べている。
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BLUE BLOOD | Horseshoe Crab Harvesting and Extracting Blue Blood For Biomedical Research
デラウェア湾の生態系について詳しい生物学者のラリー・ナイルズ氏は、こうした企業や政府の態度には本質的な矛盾があると話す。
彼らは保護種ではないカブトガニなど、まるで価値がないものとみなしている。その一方で、57兆円の産業にもなったその血液に大きな価値を見出しているのだ。
じつのところカブトガニは、「東海岸でもっとも価値のある海洋生物の1つです」とナイルズ氏は述べる。
こうしたカブトガニ保護の機運の高まりを受けて、アメリカがカブトガニの保護へ向けて舵を切るのかどうか、今のところわからない。
血液に代わる代替試験薬には、性能とコストの両面でメリットがあることを企業が気づいてくれればと。保護派の人たちは期待している。
References:Horseshoe crabs are in danger because everyone wants their blood - The Verge / written by hiroching / edited by parumo
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