死者と話ができる霊媒師が数多く暮らすアメリカの交霊村「リリーデール」
 アメリカ、ニューヨーク州北部にある小さな田舎のコミュニティ「リリーデール」は、一見普通の住宅地となんら変わりがないように見える。

 だが、よく目をこらすと、「霊媒師 営業中」という看板が見えてきたり、「癒しの神殿」とか、ペット墓地が存在していたりと、ちょっと様子が違う。


 そう、ここはアメリカ最古の交霊村と言われており、多くの霊媒師たちが住んでいる村なのだ。

交霊村「リリーデール」の成り立ち 1879年、リリーデールは、降霊術師たちのサマーキャンプとして創設された。術師たちはここで、交霊会(霊媒者を介して死者とのコミュニケーションをはかるセッション)、口寄せ(霊を自分に降霊させ霊の意志などを語る術)、講義などを行った。

 19世紀後半、信者は100万人以上になり、スピリチュアリズムは大流行した。

 シャーロック・ホームズの生みの親であるアーサー・コナン・ドイルや、女優のメイ・ウェスト、噂によるとトーマス・エジソンまでもが交霊会に参加していたという。

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 ここの基本的な信条はこうだ。
生命は継続していくもので、言い換えれば、私たちは決して死ぬことはない。ただ存在の形態が変わるだけだ
 ひとつの科学として、スピリチュアリズムは、亡くなった人の霊と交信することで、生命の継続性を証明することを目的としている、とリリーデールの霊媒師、ジャニス・ドレシュマンは書いている。

 テントで始まった夏の交流が、今では定住者と半定住者で構成されるおよそ250人の小さな集落になり、その多くが霊媒師として登録されている。

 リリーデールの霊媒師は、30分間、およそ80~100ドルで、亡くなった家族や友人からのメッセージを中継してくれるという。

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Mystery in Lily Daleリリーデール村の掟 リリーデールの霊媒師は全員、世界中から集まった人たちで構成されるリリーデール集会のメンバーだ。

 全員がスピリチュアリストだが、必ずしも霊媒師というわけではない。


 リリーデールで生活し、仕事をしている者もいれば、そうでない者もいる。すべてのメンバーは、リリーデールの建造物やコミュニティ問題に関する決議、理事会の理事の選出について投票ができる。

 だが、誰もがここに移り住んできて、交霊会を行えるわけではない。すべての霊媒師は、厳しい試験にパスしなくては、自分の店をもつことができないのだ。

 現在、リリーデールには、36人の霊媒師が登録されている。多くは、ここに家を買って引っ越してきた人だが、ここでずっと育った人もいる。

 リリーデールの霊媒師たちは全員、自分のスキルを磨き、多くの試験に合格しなくてはならない。
そうして初めて、客のために交霊を行うことが許される。

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 19世紀後半から20世紀初頭のリリーデールが誕生したばかりの頃は、登録霊媒師になるには、スピリチュアルな能力がすべてだったという。

 死者と話すことができさえすれば、誰でもこのコミュニティに参加することができた。だが、今は霊媒師になるには、たくさんのボランティア的な活動が必要となる。

 リリーデールで提供されるたくさんの霊的プログラムは、コミュニティのメンバーたちが自らの時間を自発的に提供してくれているからこそ可能なのだ。
毎年夏季に行われる野外交霊会 毎年、6月から9月の夏季には、リリーデールを訪れる人は3万人にもなる。癒しや精神的な導きを求める者もいれば、ただの興味本位や懐疑的な者、週末になにもやることのない者などさまざまだ。

 毎日、午後1時と5時半の2回、コンクリで覆われたスピリチュアルな木の切り株「インスイレーション・スタンプ」で、野外交霊会が行われる。

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 午後4時からは、1894年に建てられた白と緑のあずまや「フォレスト・テンプル」で、またべつの交霊会がある。

 霊媒師たちが小さなグループに分かれて口寄せを行う「マンデー・ナイト・サークル」は、毎週午後7時から始まる。

 こうしたイベントには、霊媒師たちの自発的な協力が欠かせない。これは、リリーデールが得たものを示し、その理念を遂行することをはっきりさせるための方法だ。

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リリーデールのスピリチュアリストビレッジ

 口寄せでは、霊媒師は聴衆の前に立って、短い祈りや瞑想の後で、死者の声を聞き始める。「メアリーとつながっています。マリーかしら? たぶんメアリーおばさん? メアリーの知り合いの方はいらっしゃいますか?」一瞬、静寂。

 それから、聴衆の中から、メアリーは祖母ですと言って手を上げる者が出てくる(誰も挙手しない場合は、霊媒師は霊が近くの誰かのところに来たと判断して、すぐに次のあの世の訪問者へと切り替える)。

 霊媒師は、回線状態の悪い電話で相手の言っていいることに耳をこらそうとするかのように、考え込んでから言う。


 「メアリーは、あなたのことをいつも見守っていること、すぐ隣を歩いていることを知ってもらいたがっています。訪ねてきてくれてありがとう、メアリー」メアリーが去ると、霊媒師はあの世とこの世をつなぐ司会者としての役目を続ける。

 新入り霊媒師が舞台に上がるとき、よく経験豊富な古株の霊媒師がその手際を観察し、評価する。こうした評価は、すべて記録に残される

 新参者の霊媒師は、ひと夏かふた夏、こうしたボランティア活動をして過ごす。

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1800年代に建てられたリリーデールの家 / image credit:Plazak / WIKI commonsリリーデールの霊媒師になるための試練 労働者の日(9月の第一月曜日)が近づくと、そろそろリリーデールが静かになる時期だ。

 死者の声を聞きにくる観光客もいなくなり、日々の交霊会も行われなくなる。

 だが、登録を希望する霊媒師にとっては、最終テストの始まりだ。最後は、リリーデールの理事会メンバーの前で口寄せを披露するのだ。

 リリーデール理事会は、投票で選ばれた7人のボランティアたちで構成されている。彼らは、ここで長く貢献しているもっとも尊敬されているメンバーであることが多い。

 理事会は、建物の修繕から、構成員の管理まであらゆることを調整して、リリーデールを運営する。だが、理事会のもっとも大切な仕事は、新たに入ってくる霊媒師の試験だ。


 7人の理事が長いテーブルを囲み、希望者はその前で3分から6分ほどかかる7つの口寄せを披露する。

 その場で合否の結果はわからず、1~2週間待たされることもある。

 登録霊媒師になるための条件は、時代とともに変化している。晴れて合格しても、毎年、自宅で交霊を行うための許可を更新する必要がある。

 霊媒師登録を希望する人の数は毎年変わる。3人から5人、もっといるときもあれば、ゼロという年もある。人は死んだら終わりではなく、あの世へとつながっている 1800年代以来、リリーデールでは多くのことが変化してきた。今では、霊媒師たちはズームを通して全世界を相手に交霊を行っている。

 しかし、リリーデールの目的は変わっていない。「すべては、死者との会話、それを伝えることだ。

 降霊術がアメリカの南北戦争や第一次世界大戦を背景に、全盛期を迎えたことは偶然ではないのかもしれない。降霊術は、人々の心の痛みから生まれた。
そして、人々には苦しみの後の癒しが必要となった。

 交霊術と霊媒師の活動は、人生は死んだら終わりではなく、墓の向こうへと続いていることを証明しようとしている。

References:To Join This Community of People Who Speak to the Dead, Prepare to Be Tested - Atlas Obscura / Lily Dale, NY / written by konohazuku / edited by parumo

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