うつ病治療の為、科学者が幻覚作用のない幻覚薬を開発している
 幻覚剤の効果は盛んに研究されている。マジックマッシュルームに含まれ化合物「シロシビン」やLSDなどは、うつ病の治療に有効であるとしてアメリカでは治験も承認されている。


 だが、懸念がないわけではない。いくら治療のためとはいえ、患者に幻覚薬を投与してサイケデリックな夢に溺れさせるのは何かと都合が悪かろう。

 そこで科学者らは、幻覚作用をもたらさない幻覚薬の開発を進めている。

 『Science』(2022年1月27日付)に掲載された研究によると、LSDやシロシビンと同様の作用をもたらしつつ、幻覚作用を伴わないうつ病の治療薬を開発した。マウス実験では、幻覚作用をもたらさないことが確認されたそうだ。

うつ病に効果があることが判明している幻覚剤 今回の研究における要と言えるのが、「5HT2A受容体」だ。

 日の光を浴びると分泌される「セロトニン」という神経伝達物質は、気分を安定させ、平常心や安心感をもたらすなど、脳内で重要な役割を果たしている。

 5HT2A受容体はこのセロトニンが働くための経路で、過去の研究では、うつ病・心的外傷後ストレス障害・不安症などの治療薬の標的として利用できるだろうことが示されてきた。

 しかしLSDやシロシビンなど、5HT2A受容体に結合する薬物の多くは、幻覚を引き起こすことでも知られている。いくら抗うつ効果があっても、副作用として患者に幻覚を見せてしまうのでは治療薬として使えない。

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幻覚を見せない幻覚薬の開発 今回、中国科学院をはじめとする研究グループが発見したのは、5HT2A受容体にははっきりと目立つ結合ポケットがあるということだ。

 ある薬はそこに結合して幻覚を作り出す。
しかし中にはわずかなポケットにしか結合せず、幻覚を作り出さない薬もあるようなのだ。

 この発見やシロシビンに関する過去研究に基づいて開発されたのが、「IHCH-7113」という新薬である。患者に幻覚を見せることなくうつ病を治療できる、かねてから望まれていた治療薬の候補だ。

 実験としてIHCH-7113をマウスに投与したところ、幻覚を見ている兆候である「頭をひねような仕草」をしないことが確認された。

 またストレスや副腎皮質ホルモン(コルチコステロン)でうつ状態にしたマウスにIHCH-7113を投与すると、運動テストの成績が上がることも確認された。これはこの新薬に抗うつ効果があることを裏付けているという。

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うつ病治療に一歩前進 研究グループのワン・シェン氏は、この成果がうつ病治療薬としての幻覚薬の問題を解決してくれるかもしれないと語る。
これまでの研究で、幻覚薬には治療効果があるらしいことが示されてきました。ところが幻覚作用がその利用可能性を阻んできたのです。今回の幻覚作用のない幻覚薬が、この問題を解決してくれるかもしれません
 幻覚を見せない幻覚薬の有効性は、今のところマウスで確認されただけだ。そもそもシロシビンで人間のうつ病が治ると完全に証明されているわけでもない。

 だが、もし本当に幻覚薬にうつ病で苦しむ人を元気にする力があるのだとすれば、IHCH-7113はそれに向けての大きな前進と言えるだろう。


References:Chinese Scientists Invented Non-Hallucinogenic Drug Like LSD and Psilocybin With Antidepressive Effects / written by hiroching / edited by parumo

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