最強伝説を持つカナダ人スナイパー「ワリ」がウクライナに入国。死亡説も流れたがいまだ健在(3月22日時点)
 ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、ウクライナ政府はロシアと戦う外国人義勇兵を募集した。この呼びかけに応じ、世界各国から2万人を超える希望者が集まり、第一線で活躍した経験豊富な精鋭たちも大勢いた。

 中でも注目されているのが、最長狙撃距離記録を持つ伝説的スナイパー、カナダ人の「ワリ(Wali)」だ。ワリは先週カナダを出発し、ポーランドで他の義勇兵たちと合流を果たした。

 その後死亡説が流れたが3月22日時点健在であることがメディアの取材で分かった。記事の最後に追記した。

最強伝説を持つスナイパー「ワリ」 「ワリ」という名前は、アフガニスタンで戦っていた時のニックネームだ。ワリはカナダ第22王立連隊(カナダ軍歩兵連隊)出身で、アフガニスタン紛争では2009~2011年にかけてカンダハルで戦った。

 さらにその後、2015年にイラクに渡りイスラム国と戦った経験もある。

 彼を伝説のスナイパー(狙撃兵)たらしめたのは、2017年のキルショットだ。その年、長距離狙撃銃「マクミラン TAC-5」によって、イスラム国のテロリストを3.54kmの距離から撃ち抜いた。これは現在に至るまで「世界最長の狙撃記録」である。(ワリではなく、別のカナダ人狙撃兵であるという話もある)

 また、NEXTAによると、平均的なスナイパーの狙撃成功率が最大1日7人、前線で最大10人なのに対し、ワリは1日あたり最大で40人に死をもたらすことができるとも伝えられている。

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Leaving Canada, entering a war in Ukraineワリ「サイレンを聞いた消防隊員のような気分さ」 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻に対する国土の防衛を支援するため、世界中の人々に、ロシアとの戦いに参加するよう呼び掛けていた。

 現在40歳のワリは、すでに占領されたウクライナ南東部のドンバスで人道支援を行う友人から連絡を受けたという。

 参加を決意した瞬間のことを、ワリは「サイレンを聞いた消防隊員のような気分さ」と、メディアの取材に対して答えている。

 つい先週まで、ワリはカナダでプログラマーとして働いていた。

 だが今、そこから7700キロ離れたウクライナの僻地で、ロシア軍と戦う準備を進めている。

 「1週間前までは、まだプログラムを組んでいたよ。今は対戦車ミサイルを手に、人を殺そうとしている。これが今の現実さ」と、ワリはCBCニュースで語る。

 ロシア軍と戦うため、52ヶ国から2万人以上の義勇兵が集まった。ウクライナのクレバ外相によると、義勇兵は新たに創設された特殊部隊「国際部隊」に配属されることになるという。 家族を残してウクライナへ  「荒廃したウクライナの映像を見ると、危険な目に遭って苦しんでいるのは、自分の息子のことのように感じるんだ」

 ワリは妻と幼い息子を残してやってきた。戦争に行くため、息子の1歳の誕生日には出られない。それがこの決断のもっとも「難しい部分」だったという。

 妻は、彼が行くことに反対だった。だが彼を止めるのは「刑務所に閉じ込めておくようなもの」と語っている。

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ウクライナの人々を助けたい。ただそれだけのこと 3月4日、ポーランドから3人の元カナダ兵と共にウクライナに到着したワリは、地元の人たちから抱擁と握手で迎えられた。

 ウクライナ中心部へと進み、砲弾による破壊の痕跡を目にするにつれて、ワリは行動せずにはいられなくなったという。
ウクライナの人たちを助けたい。それだけのことさ

破壊された建物を目にしたとき、自分に見えているのは、その所有者や、煙に消えたなけなしの財産を見つめている人たちなんだ

ロシア人ではなく、ウクライナ人でありたいと願っただけで爆撃されている人たちがいる。だから助けなくちゃいけない

自分が行くのは、人道的な理由のためさ
 現在、退役軍人の義勇兵は廃屋に避難しているが、近々ウクライナ軍と連携して活動を開始する予定だ。

 ウクライナは、ロシアの侵略を撃退するため、訓練を受けた約1万人の将校と2万人以上のボランティアからなる義勇兵を派遣する計画が進められている。

死亡説が流れたが健在(2022/3/22日時点) ネット上で、ワリがキーウ(キエフ)の最前線で殺害されたという噂が流れたが、『グローバルニュース』の取材によると、3月22日の時点でワリは健在であることが明らかとなった。数日前に最前線で戦っていたワリは、休息も十分とっており、体調も良好であることを明かした。

 ワリは、「私は私が死んだというニュースを知った最後の人間かもしれない」と語った。

 ワリは、カナダ人のグループと共にウクライナ軍と共に最前線で戦っており、グループの他のメンバーは敵を倒したが、自分はまだ撃ってないと述べた。

 ただし先週、危ない目にあっていたことも認めている。
この戦争は、他の駒が何であるかを知らずにチェスをするようなものだ。少しはわかるが、十分ではない。ロシア軍とは50メートルほどの至近距離で交戦し、その時点で私たちの存在を知られた。

私はある家にいて、すぐ横の部屋を戦車の砲弾で撃たれたが、3メートルほど離れていたために助かった。ラッキーだった。戦車と交戦する気持ちがわかったよ
 彼の同僚の一人は、彼が参加した最初のウクライナのパトロールで撃たれ、避難する必要があったが生き延びたという。

 彼は、これまで経験した他の紛争地域と比較して、ウクライナ戦争がいかに異なっているかに驚いていると語った。

すべてが崩壊したわけではなく、まだインターネットがある。ほとんどの戦闘地域は、電気も水もなくカオス状態だ。

キーウの中心部は大丈夫。あるパトロールでは、トロントにあるような素晴らしいマンションに滞在した。エスプレッソマシーンがあったんだ。トロントのダウンタウンで戦っているようなものだ
 キーウの街には多くの動物が放置されたままの状態だという。ロシア軍は吠えられると位置がばれるので、日常的に犬を撃っていたそうだ。

 ある建物で、ウクライナの老婦人が自分と猫のための食料を何日も待ち続けていたところに遭遇したという。

 ワリは、自分が死んだという噂を流したのはロシアによる情報操作だと信じている。また、ロシア軍の攻撃は洗練されていないとも語った。

 ロシアの貧しさが武器に反映されているという。「彼らはすべてを破壊し、家々を何度も何度も撃ち続けるだけだ」と語る。

 「もし各国がウクライナを助けたいのであれば、軍隊の戦いを助けるために近代的な武器を送るべきだ」とワリは言う。それがなければ、ウクライナの犠牲者が増え続けるだけだとも。

 戦争の性質上、具体的なことは話せないが、ワリはまだしばらくウクライナに留まるつもりだという。自分の役割を果たすまで。

次にロシア人が私が死んだと言ったら、それは事実かもしれないが、もう誰も信じないだろう
References:Under a foreign flag: Canadian veterans explain why they're fighting for Ukraine | CBC News / Elite Canadian sniper joins Ukraine in fight against Russia / Wali repond a l’appel deZelensky | La Presse / One of the 'world's deadliest snipers' who fought in Afghanistan and Iraq arrives in Ukraine from Canada after answering Zelensky's plea for foreign fighters / written by hiroching / edited by parumo

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