
「すべての物質は毒にも薬にもなる」16世紀のスイスの医師・化学者・錬金術師、パラケルススの言葉だ。
実際、人は毒を薬として利用してきた。
人類はそうした危険な毒を薬として活用する方法を考案してきた。ここでは4つの植物と1つ細菌の毒から作られる5つの薬を紹介しよう。
1. ボトックス:ボツリヌス菌
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植物・土・水・動物の腸内などに存在するボツリヌス菌は、重篤な食中毒を引き起こす強力な神経毒を作り出す。
「ボトックス」とは、「ボツリヌストキシン(ボツリヌス毒素)」の略称で、商標名でもある。
慢性偏頭痛・眼瞼けいれん・多汗症・過活動性膀胱など、さまざまな症状に少量で効果を発揮するほか、顔のシワ取りとしても有名だ。
その効果は、神経と筋肉間のシグナルを遮断し、筋肉が収縮できないようにすることで発揮される。また約4~6か月でその効果は消える。
一般に副作用は認容できるほどに軽いものだが、注射部位に痛みや腫れが生じたり、風邪のような症状が出ることはある。美容目的で使用する場合、4か月以上間を間を置くことが推奨されている。
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日本では「キツネノテブクロ」とも知られる植物「ジギタリス」からは、心臓病の薬「ジゴキシン」が作られる。
イギリスの医師ウィリアム・ウィザリングが1785年に初めて薬として使用し、一般に広まった。「強心配糖体(う鬱血性心不全あるいは不整脈に用いられるステロイド配糖体)」に分類される薬で、カルシウム活性に作用して心臓の負担を軽減する。
一方、ジギタリスの花を吸ったり、葉・茎・根を食べたりすれば不整脈・嘔吐・頭痛・めまいといった毒性が発揮される。
またジゴキシンの過剰摂取も危険だ。2003年、チャールズ・カレンという看護師が逮捕された。この男は16年の間に患者29人を殺害した最悪のシリアルキラー(実際には400人に及ぶという推測もある)で、その犠牲者の多くがジゴキシンで殺されていた。3. スコポラミン:ヒヨス
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ヒヨスは、悪臭を放ち、淡黄色の鈴型の花をつけるナス科の植物だ。90センチほどに成長し、葉はべたつき、毛が生えている。
この植物はアルカロイドの宝庫で、スコポラミン、ヒヨスチアミン、アトロピンなど、34種も発見されている。
これらは神経細胞が筋肉などに命令を出すために使う「アセチルコリン」の作用を妨げ、中枢神経や副交感神経に機能不全を引き起こす。
この作用があるために、膀胱・腸・胃のけいれんを抑える薬として使われるほか、吐き気の治療、手術中のリラックス・心拍の維持・唾液の抑制などに使われる。
ただし、けいれん・幻覚・錯乱・顔面紅潮・発汗減少・視力障害といった副作用もある。4. モルヒネ:ケシ
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見た目だけなら可愛らしいケシ科ケシ属の植物で、学名を「パパヴェル・ソムニフェルム」という。毎年花を咲かせ、90~490センチにも成長する。
種子には天然アルカロイドを含んでおり鎮痛剤として使われる。「モルヒネ」や「コデイン」といった医療用麻薬は知っているだろう。
同じく麻薬性鎮痛薬の「オキシコドン」や「ヒドロコドン」は半合成オピオイドだ。
麻薬というだけあって依存性が高く、アメリカでは乱用されて社会問題にもなっている。ゆえに使用に際しては必ず医師の指示を守らねばならない。さもなければ、ひどい中毒になったり、ヘタをすれば過剰摂取で命を落とすこともある。
なお食品にケシの実が使われていることがあるが、これを食べた後だと薬物検査で陽性反応が出ることもあるようだ。ただし熱処理されているので、健康上には特に問題ない。5. ワルファリン:シナガワハギなど
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1920年代、スイートクローバー(シナガワハギ属)を食べたウシが大量に死亡するという病気が発生した。
ワルファリンには、血液を固まりにくくして、血栓ができるのを防ぐ作用があるが、大量に摂取すると内出血が起きる。
それゆえに殺鼠剤として使われてきたが、1954年には人間用の抗凝血剤(血液をサラサラにする薬)として認可された。
薬として利用できる用量の範囲が狭いため服用には注意が必要となる。
ワルファリンを処方された場合、定期的に血液検査を受け、血液の固まりやすさを調べねばならない。過度に固まりにくければ出血のリスクが高まるし、固まりやすければ血管が詰まるリスクが高まるからだ。
尚、納豆、青汁、ほうれん草・芽キャベツ・ブロッコリーなど、ビタミンKを多く含む食材には、ワルファリンの血液を固まりにくくする作用を弱めてしまう為、服用中は食べないようにした方がよいとされている。
References:5 Medicines Derived From Poisons | Discover Magazine / written by hiroching / edited by parumo
追記(2022/04/27)誤字を訂正して再送します。
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
実際、人は毒を薬として利用してきた。
植物や細菌は毒性の化学物質の宝庫だ。特に動くことができない植物は、外敵から身を守る手段として有毒な化学物質を作り出す。植物性なら体にやさしいという誤解が広まっているが、植物の毒性の強さは人間が命を落とすほどなのだ。
人類はそうした危険な毒を薬として活用する方法を考案してきた。ここでは4つの植物と1つ細菌の毒から作られる5つの薬を紹介しよう。
1. ボトックス:ボツリヌス菌
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植物・土・水・動物の腸内などに存在するボツリヌス菌は、重篤な食中毒を引き起こす強力な神経毒を作り出す。
「ボトックス」とは、「ボツリヌストキシン(ボツリヌス毒素)」の略称で、商標名でもある。
慢性偏頭痛・眼瞼けいれん・多汗症・過活動性膀胱など、さまざまな症状に少量で効果を発揮するほか、顔のシワ取りとしても有名だ。
その効果は、神経と筋肉間のシグナルを遮断し、筋肉が収縮できないようにすることで発揮される。また約4~6か月でその効果は消える。
一般に副作用は認容できるほどに軽いものだが、注射部位に痛みや腫れが生じたり、風邪のような症状が出ることはある。美容目的で使用する場合、4か月以上間を間を置くことが推奨されている。
2. ジゴキシン:ジギタリス
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日本では「キツネノテブクロ」とも知られる植物「ジギタリス」からは、心臓病の薬「ジゴキシン」が作られる。
イギリスの医師ウィリアム・ウィザリングが1785年に初めて薬として使用し、一般に広まった。「強心配糖体(う鬱血性心不全あるいは不整脈に用いられるステロイド配糖体)」に分類される薬で、カルシウム活性に作用して心臓の負担を軽減する。
一方、ジギタリスの花を吸ったり、葉・茎・根を食べたりすれば不整脈・嘔吐・頭痛・めまいといった毒性が発揮される。
またジゴキシンの過剰摂取も危険だ。2003年、チャールズ・カレンという看護師が逮捕された。この男は16年の間に患者29人を殺害した最悪のシリアルキラー(実際には400人に及ぶという推測もある)で、その犠牲者の多くがジゴキシンで殺されていた。3. スコポラミン:ヒヨス
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ヒヨスは、悪臭を放ち、淡黄色の鈴型の花をつけるナス科の植物だ。90センチほどに成長し、葉はべたつき、毛が生えている。
この植物はアルカロイドの宝庫で、スコポラミン、ヒヨスチアミン、アトロピンなど、34種も発見されている。
これらは神経細胞が筋肉などに命令を出すために使う「アセチルコリン」の作用を妨げ、中枢神経や副交感神経に機能不全を引き起こす。
この作用があるために、膀胱・腸・胃のけいれんを抑える薬として使われるほか、吐き気の治療、手術中のリラックス・心拍の維持・唾液の抑制などに使われる。
ただし、けいれん・幻覚・錯乱・顔面紅潮・発汗減少・視力障害といった副作用もある。4. モルヒネ:ケシ
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見た目だけなら可愛らしいケシ科ケシ属の植物で、学名を「パパヴェル・ソムニフェルム」という。毎年花を咲かせ、90~490センチにも成長する。
種子には天然アルカロイドを含んでおり鎮痛剤として使われる。「モルヒネ」や「コデイン」といった医療用麻薬は知っているだろう。
同じく麻薬性鎮痛薬の「オキシコドン」や「ヒドロコドン」は半合成オピオイドだ。
麻薬というだけあって依存性が高く、アメリカでは乱用されて社会問題にもなっている。ゆえに使用に際しては必ず医師の指示を守らねばならない。さもなければ、ひどい中毒になったり、ヘタをすれば過剰摂取で命を落とすこともある。
なお食品にケシの実が使われていることがあるが、これを食べた後だと薬物検査で陽性反応が出ることもあるようだ。ただし熱処理されているので、健康上には特に問題ない。5. ワルファリン:シナガワハギなど
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1920年代、スイートクローバー(シナガワハギ属)を食べたウシが大量に死亡するという病気が発生した。
これがきっかけとなって開発されたのが「ワルファリン」だ。
ワルファリンには、血液を固まりにくくして、血栓ができるのを防ぐ作用があるが、大量に摂取すると内出血が起きる。
それゆえに殺鼠剤として使われてきたが、1954年には人間用の抗凝血剤(血液をサラサラにする薬)として認可された。
薬として利用できる用量の範囲が狭いため服用には注意が必要となる。
ワルファリンを処方された場合、定期的に血液検査を受け、血液の固まりやすさを調べねばならない。過度に固まりにくければ出血のリスクが高まるし、固まりやすければ血管が詰まるリスクが高まるからだ。
尚、納豆、青汁、ほうれん草・芽キャベツ・ブロッコリーなど、ビタミンKを多く含む食材には、ワルファリンの血液を固まりにくくする作用を弱めてしまう為、服用中は食べないようにした方がよいとされている。
References:5 Medicines Derived From Poisons | Discover Magazine / written by hiroching / edited by parumo
追記(2022/04/27)誤字を訂正して再送します。
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