「アンティキティラ島の機械」はいつ起動したのか?紀元前178年12月23日という説
image credit:WIKI commons

 「アンティキティラ島の機械」は、アンティキティラ島近海の沈没船から発見された古代ギリシア時代の精巧な歯車式機械で、天体の運行を計測するための装置と言われている。その精密さから、古代のコンピューターとも、オーパーツとも言われるほどだ。


 謎深き「アンティキティラ島の機械」は、ギリシャで作られ、紀元前200年~紀元前60年頃に製作されたと考えられているが、では実際に使われ始めたのはいつなのか?

 今回『arXiv』(2022年3月28日投稿)で閲覧できる査読前論文によれば、紀元前178年12月22日だという。翌日の長い金環日食を測定するために、その前日に起動した可能性が高いというのだ。

アンティキティラ島の機械の謎を解き明かせ! 1900年、ギリシャ、アンティキティラ島沖で古代の貨物船の残骸が発見された。翌年の1901年、回収された岩石らしきものを調べていた考古学者ヴァレリオス・スタイラスは、そこに歯車が組み込まれていることに気が付く。

 こうして発見されたのが、「アンティキティラ島の機械」だ。現在、アテネ国立考古学博物館が所蔵している。

[画像を見る]

image credit:WIKI commons

アンティキティラ島の機械は天文学用コンピューター 1951年、英国の科学史家デレク・J・デソラ・プライスは、X線などを用いて機械の仕組みの解明に着手。機械は星と惑星の運行を計算するためのもので、世界初のアナログ式コンピューターであるとの研究を1959年に発表した。

 2002年、ロンドンの科学博物館のキュレーター、マイケル・ライトは、アンティキティラ島の機械をリニア断層撮影法で撮影。

 そのときの画像からは、メインホイールに固定された中央歯車があり、その周囲を他の歯車が回転するようになっていることが判明した。

 古代ギリシャでは、天体は「周転円」という円形パターンで移動すると考えられていた。

 ライト氏は、この機械もまたこの考えを前提としており、「周転円運動」をモデル化するためのものだと結論づけている。
ただしコペルニクス以前のことなので、地球が中心にあると想定されている。

 昨年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのトニー・フリース率いる学際的グループは、数理モデルを使い、古代ギリシャの宇宙を再現することに成功した。同グループは現在、実際に歯車が動くレプリカの作成を行なっている。

アンティキティラ島の機械、歯車の配置を突き止めることに成功

[画像を見る]

image credit:Tony Freeth / UCL

 機械の裏蓋には、その宇宙を表す碑文が刻まれており、同心円上を動く惑星を特徴としている。また表蓋のX線画像からは、462年と442年周期で公転する金星と火星が正確に表されていることが明らかになっている。

 さらに「アンティキティラ島の機械研究プロジェクト」の一環として、高性能三次元X線撮像技術による調査も行われている。

 この研究からは、詳細なギリシャ語の原文が明らかにされ、機械が天体の位置を予測するための天文学用コンピューターあることが確認された。

 アンティキティラ島の機械はもともと37個の歯車があり(30個が現存)、前面には太陽の周期・黄道帯を示す目盛り、太陽・月の位置を示す指針があったようだ。

[動画を見る]

The ancient 'computer' that simply shouldn't exist - BBC REEL紀元前200年~紀元前60年頃にギリシャで製作されたと推測 発見されたのがギリシャの島であること、すべての使用説明がコイネー(古代ギリシャ語)で書かれていることから、この機械は古代ギリシャで作られたと考えられている。また、製作時期は、紀元前200年~紀元前60年頃と考えられている。

 これについてフリース氏は、有名なギリシャの数学者で発明家でもあったアルキメデスが設計した可能性があると指摘する。

 ローマの政治家キケロの著作に、アルキメデスが作った太陽と月と5つの惑星の動きを追跡する装置について言及があるのだ。


 その装置は、ローマの将軍マルクス・クラウディウス・マルケッルスが大切にしていたという。フリース氏によると、キケロの説明はアンティキティラ島の機械によく似ていて、それがたった1つだけではなかった可能性をうかがわせるという。最長の金環日食が起きた紀元前178年12月23日に起動開始か? 今回の研究を行った、テッサロニキ文化観光局のアリステイディス・ブルガリス氏らの分析は、機械の裏面の螺旋で表された「サロス周期」に基づくものだ。

 この6585.3212日の周期は、太陽・月・地球が同じ位置に戻ってくるまでの周期で、それにともなう日食や月食を予測することができる。

 ブルガリス氏は、これまでに判明した機械の仕組みや刻まれた文字を手がかりに、設定日は「金環日食」の日だったろうと推測。

 金環日食では、地球と月と太陽が一列に並ぶ。このとき、月が太陽の中心だけをおおうため、太陽の周縁だけがまるで「金色の環」のように見える。

[画像を見る]

photo by iStock
 中でも長い時間をかけて起きるのが、月と地球との距離がもっとも離れた(遠地点)タイミングで起きる金環日食だ。

 そこでブルガリス氏らは、NASAのデータベースに当たり、アンティキティラ島の機械が製造された期間において、それに一致する金環日食がないかどうか調べた。

 その結果判明したのが、そのような長い金環日食が起きたのは、サロス周期系列58番だけだったという。

 対象期間における最長の金環日食は、紀元前178年12月23日に起きた。ということは、アンティキティラ島の機械はこの前日に起動した可能性が高いというのだ。
通常、時間計算を行うに当たっては、未来ではなく最近の過去の1時点を選ぶのが一般的だ。長期間にわたる時間計算と予測が今日よりも不確実で疑わしかった古代ギリシャでは、とりわけそうである
と論文では述べらている。

 この事実は、当時、アンティキティラ島の機械が開発されたもっともあり得そうな理由でもあるという。

 さらなる証拠として、ブルガリス氏らは、金環日食と同時に起きた文化的に重要な天文現象についても指摘する。

 その1つは「冬至」で、これは機械前面の左上に刻まれている。ブルガリス氏らによれば、この事実は冬至が較正(測定器の調整)に使われたことを示す強力な手がかりだという。

 もう1つの手がかりが、オシリスの暗殺を記念する宗教的祭典「イシア(Isia)」で、こちらは月食と日食に関連する。

[画像を見る]

 紀元前178年12月22日の日の出では日食が見られた。これは非常に珍しいことで、当時の聖職者によって重要視されたとしても不思議ではない。

 「特別でユニークな日付です」とブルガリス氏。その日、偶然にしてはあまりにも多くの天文現象が起きた。新月で、遠地点にあり、日食が起きた。
太陽がやぎ座に入り、しかも冬至だったのだ。

[動画を見る]

The Antikythera Mechanism - 2D別の説を唱える研究者も ブルガリス氏とはまた違う説を唱える研究者もいる。それによれば、設定の日付は紀元前204年夏である可能性が高いという。

 これに対してブルガリス氏は、機械に冬至が刻まれている理由が説明できないと反論する。

 「機械裏面の日食の予測は、紀元前204年から18年続く月食と日食の予測を示すのに十分な天文学的情報です」と語るニューヨーク大学のアレクサンダー・ジョーンズ氏は、これについて4つの独立した計算がなされてきたと付け加える。

 「この日付でもいいのは、サロス周期が月と太陽の周期を正確に表していないからです。223月分進められるたびに予測の精度が落ちます」

 いずれにせよ、アンティキティラ島の機械が時代にそぐわないほど精密な測定機器であることは間違いない。今後少しずつ、その謎が解明されていくだろう。

References:The Initial Calibration Date of the Antikythera Mechanism after the Saros spiral mechanical Apokatastasis / Researchers home in on possible “day zero” for Antikythera mechanism | Ars Technica / written by hiroching / edited by / parumo

画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。
編集部おすすめ