
一度見たものを正確に憶えることができたら便利だろう。学校の勉強だって余裕だろうし、その才能を活かせばアーティストとして活躍することだってできるかもしれない。
目で見たものを映像の状態で記憶することを「映像記録」という。画家の山下清や、小説家の谷崎潤一郎 、三島由紀夫にもこの能力があったと言われている。
幼少期の子供の一部がこの能力を持っているそうだが、普通は大人になると消えてしまうのだという。それどころか、大人に映像記憶があることを裏付ける科学的証拠も乏しいのだそうだ。
映像記憶とは? 映像記憶といっても、いくつか種類がある。まず1つは、目で見たものを完全に全部記憶しておける「写真記憶(photographic memory)」だ。
がっかりするかもだが、写真記憶は存在しない。今日まで、さまざまな試験が行われてきたが、それに耐えることができた事例は皆無だったという。
一般に映像記憶と言った時、それに一番近いのは「直感像記憶(eidetic memory)」と呼ばれるものだ。以下の映像記憶についての説明は、特に断りのない限り直感像記憶のことだ。
映像記憶能力の持ち主は、一度目で見たものを細部まで記憶することができる。
とは言え、例えば「2008年4月17日に近所の公園で見つけたてんとう虫の色は?」と聞かれたとしよう。
その代わり、過去に経験した景色・音・匂いを、今そこにあるかのように目で見たり、聞いたり、嗅いだりできる(ただし、多くはごく短い間だけだ)。
“見る”と述べたが、本当に”見ている”。映像記憶の持ち主は、過去の景色を見るときに目の前に景色があるかのように目を動かすのだ。
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photo by Pixabay
映像映像は完璧なのか? 映像映像は非常に優れた能力だが完璧というわけではない。
『Frontline Social Sciences and History Journal』(2022年3月28日付)に掲載された最近の論文では、「映像記憶は、明るさや明瞭さが実際に知覚されたものに近い」と説明している。
そこで紹介されている子供は、一度目にした物をその後も見続け、完璧に再現してのけたという。
しばらく時間が経ったのちも、それを思い出せば、あたかも今見ているかのように、その細部まで説明することができた。
だが、いくつか注意すべきこともある。
一般に映像記憶の持ち主は無意識かつ自動的に憶えているというイメージがあるが、実際は思い出すために時間がかかる。
しばしば30秒かけてじっくりと思い出され、またその映像も長くは持たないし、完全に正確なわけでもない。
『Psychology: From Enquiry to Understanding』では、本当はなかったものが記憶されているなど、しばしばちょっとした記憶違いがあったり、再構成されていることすらあると指摘されている。
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Photo by TOMMY VAN KESSEL on Unsplash
10人に1人の子供が持つ能力だが大人になると失われる 映像記憶の能力は幼い子供に授けられている。つまり年齢に関係した才能で、たとえこの才能に恵まれても、学校に通う頃になると普通は失われてしまう。
その理由はわからない。だが子供の場合、8~12%が映像記憶を持つとされているのに対して、大人だとほとんどいない。
ごく稀に成人後も映像記憶能力を保ち続ける人も存在すると言われているが定かではない。
神経学者のアンディ・ハドモンはその著書『Learning and Memory』の中で、その理由について、たとえば言語の習得といった発達によって、映像記憶が破壊されるからではと推測している。
映像記憶が失われる理由に関するもう1つの仮説は、抽象的な思考が身に付くためだとしている。映像を抽象的概念として記憶することは、幼い子供にはできない高度な思考処理だ。
この仮説を唱えるブライアン・ダニング氏によると、見たものを丸ごと記憶するのは効率の悪い記憶法であるという。その意味で、映像記憶は素晴らしいことではないとも言える。
が、最近では、そうした仮説を疑わせるような研究もあるらしく、いずれにせよ映像記憶が子供にしかない理由ははっきりしていない。
だが、おそらく一番説得力がある説明は、ごく単純。
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Photo by Picsea on Unsplash
訓練すれば映像記憶が身につくのか? 小さな子供だってできるのだから、大人なら練習すればできるはずと思うかもしれないが、 残念ながら映像記憶は天賦の才能だ。どんなに練習しても、できない人間には絶対にできない。
かといってそう落胆しなくてもいい。映像記憶は無理でも、記憶力を鍛える方法はたくさんある。
たとえば、チェスの棋士は、盤面における駒の配置を正確に覚えておくことができる。彼らは修練の末に、目隠しをしたまま複数の盤でプレイできるほどの記憶力を身につける。
だが、こうした事実にも関わらず、映像記憶があるという証拠にはならないようだ。
チェスの名人がどんなに記憶力に優れ、盤面を正確に記憶できたとしても、実際の対局では絶対に登場しない局面をランダムに見せると、それを憶えられないのだ。
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photo by Pixabay
「我々に残されるのは、健全な大人に映像記憶があるという決定的証拠の欠如だ。ましてや写真記憶が存在するという証拠は皆無である」と、ダニング氏は述べる。
研究テーマとしては一般的かもしれないが、その傑出した記憶と普通の記憶の違いは、質的なものではなく程度の問題でしかないようだ。
「記憶力に優れた人はいるが、超能力のような記憶はない」とダニング氏。だから映像記憶がないからと落胆する必要はない。あなたの周りも、みんな同じなのだから。
References:What Is An Eidetic Memory? (And Can I Get One?) | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo
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目で見たものを映像の状態で記憶することを「映像記録」という。画家の山下清や、小説家の谷崎潤一郎 、三島由紀夫にもこの能力があったと言われている。
幼少期の子供の一部がこの能力を持っているそうだが、普通は大人になると消えてしまうのだという。それどころか、大人に映像記憶があることを裏付ける科学的証拠も乏しいのだそうだ。
映像記憶とは? 映像記憶といっても、いくつか種類がある。まず1つは、目で見たものを完全に全部記憶しておける「写真記憶(photographic memory)」だ。
がっかりするかもだが、写真記憶は存在しない。今日まで、さまざまな試験が行われてきたが、それに耐えることができた事例は皆無だったという。
一般に映像記憶と言った時、それに一番近いのは「直感像記憶(eidetic memory)」と呼ばれるものだ。以下の映像記憶についての説明は、特に断りのない限り直感像記憶のことだ。
映像記憶能力の持ち主は、一度目で見たものを細部まで記憶することができる。
とは言え、例えば「2008年4月17日に近所の公園で見つけたてんとう虫の色は?」と聞かれたとしよう。
それをはっきりと思い出すことができるわけではない。
その代わり、過去に経験した景色・音・匂いを、今そこにあるかのように目で見たり、聞いたり、嗅いだりできる(ただし、多くはごく短い間だけだ)。
“見る”と述べたが、本当に”見ている”。映像記憶の持ち主は、過去の景色を見るときに目の前に景色があるかのように目を動かすのだ。
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映像映像は完璧なのか? 映像映像は非常に優れた能力だが完璧というわけではない。
『Frontline Social Sciences and History Journal』(2022年3月28日付)に掲載された最近の論文では、「映像記憶は、明るさや明瞭さが実際に知覚されたものに近い」と説明している。
そこで紹介されている子供は、一度目にした物をその後も見続け、完璧に再現してのけたという。
しばらく時間が経ったのちも、それを思い出せば、あたかも今見ているかのように、その細部まで説明することができた。
だが、いくつか注意すべきこともある。
一般に映像記憶の持ち主は無意識かつ自動的に憶えているというイメージがあるが、実際は思い出すために時間がかかる。
しばしば30秒かけてじっくりと思い出され、またその映像も長くは持たないし、完全に正確なわけでもない。
『Psychology: From Enquiry to Understanding』では、本当はなかったものが記憶されているなど、しばしばちょっとした記憶違いがあったり、再構成されていることすらあると指摘されている。
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10人に1人の子供が持つ能力だが大人になると失われる 映像記憶の能力は幼い子供に授けられている。つまり年齢に関係した才能で、たとえこの才能に恵まれても、学校に通う頃になると普通は失われてしまう。
その理由はわからない。だが子供の場合、8~12%が映像記憶を持つとされているのに対して、大人だとほとんどいない。
ごく稀に成人後も映像記憶能力を保ち続ける人も存在すると言われているが定かではない。
神経学者のアンディ・ハドモンはその著書『Learning and Memory』の中で、その理由について、たとえば言語の習得といった発達によって、映像記憶が破壊されるからではと推測している。
映像記憶が失われる理由に関するもう1つの仮説は、抽象的な思考が身に付くためだとしている。映像を抽象的概念として記憶することは、幼い子供にはできない高度な思考処理だ。
この仮説を唱えるブライアン・ダニング氏によると、見たものを丸ごと記憶するのは効率の悪い記憶法であるという。その意味で、映像記憶は素晴らしいことではないとも言える。
が、最近では、そうした仮説を疑わせるような研究もあるらしく、いずれにせよ映像記憶が子供にしかない理由ははっきりしていない。
だが、おそらく一番説得力がある説明は、ごく単純。
これまでの人生で目にした何もかもを憶えていられるはずがなかろう、ということだ。
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訓練すれば映像記憶が身につくのか? 小さな子供だってできるのだから、大人なら練習すればできるはずと思うかもしれないが、 残念ながら映像記憶は天賦の才能だ。どんなに練習しても、できない人間には絶対にできない。
かといってそう落胆しなくてもいい。映像記憶は無理でも、記憶力を鍛える方法はたくさんある。
たとえば、チェスの棋士は、盤面における駒の配置を正確に覚えておくことができる。彼らは修練の末に、目隠しをしたまま複数の盤でプレイできるほどの記憶力を身につける。
だが、こうした事実にも関わらず、映像記憶があるという証拠にはならないようだ。
チェスの名人がどんなに記憶力に優れ、盤面を正確に記憶できたとしても、実際の対局では絶対に登場しない局面をランダムに見せると、それを憶えられないのだ。
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「我々に残されるのは、健全な大人に映像記憶があるという決定的証拠の欠如だ。ましてや写真記憶が存在するという証拠は皆無である」と、ダニング氏は述べる。
研究テーマとしては一般的かもしれないが、その傑出した記憶と普通の記憶の違いは、質的なものではなく程度の問題でしかないようだ。
「記憶力に優れた人はいるが、超能力のような記憶はない」とダニング氏。だから映像記憶がないからと落胆する必要はない。あなたの周りも、みんな同じなのだから。
References:What Is An Eidetic Memory? (And Can I Get One?) | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo
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