
これまで、有人飛行で人類が一番遠くまでいったのは月だ。今後は火星への有人飛行も計画されているが、太陽系外への「恒星間航行」はとなると当分先のことになりそうだ。
現在の技術水準では木星に探査機を送り込むのでさえ5年かかかる。たとえ光速で移動できる宇宙船ができたとしても、一番近い恒星ケンタウルス座アルファ星まで4年だ。
だが、米ヒューストン・コミュニティ・カレッジの天体学者によれば、そんな宇宙船など開発しなくても惑星間旅行は可能なのだという。
恒星の重力に縛られていない「自由浮遊惑星」に乗って移動すればよいのだ。すでに地球外文明は、この方法で惑星間を移動している可能性があるかもしれない。
重力に縛られない自由浮遊惑星で恒星間航行 自由浮遊惑星(浮遊惑星)とは、それが形成された惑星系から弾き出され、星の重力に縛られることなく銀河を直接公転する惑星のことだ。
放射性崩壊で温められた液体の海があるものの存在も示唆されており、そこには生命が宿っている可能性すらある。
そうした浮遊惑星がどこかの恒星の重力に再びキャッチされ、生命はより暮らしやすい新天地に移住する。すでに地球外文明はこの方法を利用している可能性があるという。
そう語るのは、米ヒューストン・コミュニティ・カレッジの天文学者イリーナ・ロマノフスカヤ教授だ。
そのメリットは惑星のリソースを利用して長期的な旅が可能になることだ。
浮遊惑星には一定の重力があり、土地も資源もある。
高度な科学技術があれば、浮遊惑星をより暮らしやすい環境に改変し、宇宙船のように操縦することもできる。核融合技術があれば、極寒の浮遊惑星であっても生命すら宿せるようになるという。
もし、太陽系を脱出しなければならない状況に陥った地球人は、この惑星型宇宙船に乗って、何世代もかけてじっくりと新天地を探し求めればいいのだ。
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浮遊惑星に乗り込む方法 ロマノフスカヤ教授によれば、浮遊惑星に乗る方法は4つある。
1. 地球のそばを通過した浮遊惑星を捕捉
第一に、地球のそばを通過した自由浮遊惑星を捕捉するというものだ。これを実現できるかどうかは、この宇宙に存在する浮遊惑星の数が問題になる。
浮遊惑星の数は正確にはわかっていない。だが2021年、天の川銀河のとある領域で木星大の浮遊惑星が70~170個ほど発見された。また2020年の研究によれば、天の川には500億の浮遊惑星が存在する可能性があるという。
それらのほとんどは、それぞれの惑星系が起源だが、恒星と同じく降着(降着円盤内の重量で粒子が集まって重い天体になること)によって形成されたものもあるだろう。
太陽系の最も外側を囲むる膨大な数の氷でできた天体群「オールトの雲」でも浮遊惑星が形成されている。
もしも太陽系以外の惑星系にもオールトの雲のようなものがあれば、豊富な浮遊惑星があり、恒星活動によって外へと吐き出されていることだろう。
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オールトの雲 photo by iStock
ロマノフスカヤ氏によれば、進化の主要段階を終えた恒星で太陽の1~7倍の質量をもつもの、あるいは太陽の7~20倍の質量を持つ天体の超新星爆発ならば、オールトの雲の惑星は恒星の重力を振り切って脱出できるだろうという。
そのような浮遊惑星はどのくらいの頻度で地球のそばを通過するのだろうか? 実は7万年前に「ショルツ星」が太陽系のオールトの雲を通過したことが明らかになっている。
ショルツ星は恒星であって惑星ではないが、少なくとも実際に天体が比較的地球の近くを通過することがあるということだ。
もし天の川に500億の浮遊惑星が存在するという推定が正しいのであれば、そのいくつかが地球のそばを通過していた可能性は高い。
現在の人類の技術水準では、オールトの雲はかなり遠方だ。それでも科学技術が十分に発達しさせすれば、浮遊惑星を捕捉できることだろう。
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2.浮遊惑星を地球の軌道に移動させる
第二の方法は、オールトの雲にある適当な浮遊惑星を見繕って、何らかの方法で地球付近の安全な軌道にまで移動させる。
じっくり時間をかければ、インフラを構築し、大気を改変するなど、浮遊惑星をニーズに合うようリフォームできることだろう。
3.太陽系外縁天体、小惑星「セドナ」を利用
第三の方法は、二番目に似ている。だが太陽系の外ではなく、太陽系外縁天体を利用する。
例えば、その候補として小惑星「セドナ」がある。
やはり十分な時間と技術力があれば、これを宇宙船として利用できることだろう。
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いくつか問題も考えられる。例えば、遠方にある準惑星を地球に近づければ、太陽系惑星の軌道を乱して大惨事になるかもしれない。
しかしその時までにハビタブルゾーンの外で暮らせる科学技術力が身についていれば、そのリスクは軽減されることだろう。4.太陽がはじき出す惑星に乗り込む 第四の方法は、少々リスキーだ。年老いた太陽が膨張を始めると、そのまま飲み込まれる惑星だけでなく、太陽系から弾き出されるものもある。そこで弾き出される惑星を予測し、タイミングよく乗り込むのだ。
ただし太陽から激しく質量が失われる時期は、さまざまな混乱が起きるはずなので、これはかなり危険な賭けになる。
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浮遊惑星はあくまで救命ボート的役割 たとえ無事、浮遊惑星に移住できたとしても、そこは安住の地ではなく、むしろ救命ボートのようなものだ。徐々に内部の熱が失われ、液体の海を維持できなくなるだろうからだ。
浮遊惑星は孤立しており、太陽系惑星に比べれば資源に乏しい。
昼も夜もなく、動物はおろか細菌すらいない。だから浮遊惑星はあくまで他の惑星系に入植するための移動手段でしかない。
またロマノスカヤ教授が想定するのは、たった一度きりの脱出ではない。むしろ浮遊惑星への移住を繰り返して、銀河に植民地を増やすようなプランを彼女は思い描いている。
地球に宿った親文明から子文明がいくつも生まれ、宇宙各地の惑星系に根付いていく。非常に壮大なヴィジョンで、生物学的な人類だけでなく、純粋な生物の体ではなくなったポスト生物学的な人類にすら当てはまる。
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地球外文明捜索の鍵 現時点の人類は、ようやく危険な小惑星の襲来に備え始めたばかりで、温暖化を安定させることすらできない。その程度の科学技術力では、このような大脱出はただのSF的な妄想でしかない。
実はロマノスカヤ教授がこのような議論をした狙いは別のところにある。それは地球外文明を見つけることだ。
銀河のどこかに地球が文明が存在したとしたら、それらのいくつかは恒星の死に直面し、母なる惑星系から脱出せざるを得なかったかもしれない。
もしも彼らがロマノスカヤ教授と同じアイデアをひらめき、浮遊惑星を宇宙船に変えていたとしたら、きっと「テクノシグネチャー」(技術文明が存在する証拠となるサイン)が発生するはずだ。
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例えば、浮遊惑星を操作するためにソーラーセイルの利用が考えられる。この場合、ソーラーセイルが星間物質と作用することで「サイクロトロン放射」(電磁波の一種)が出る。
あるいは熱源があれば赤外線が出る。その量が異常なほど多い、あるいは異常なほど変動するなら、何らかの装置が存在するサインかもしれない。
同様に浮遊惑星表面にある不均一な赤外線源や、電磁波波長の不自然な分布も文明の存在を示している可能性がある。
大気を持つ浮遊惑星もそうだ。場合によっては、それ自体がテラフォーミングの可能性を示唆する。
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まずは浮遊惑星探し 今のところ、自由浮遊惑星がこの銀河にどれほど存在するのか、正確なことはわからない。だが近い将来、その解明も進むかもしれない。
2023年から本格的に稼働するベラ・ルービン天文台は、いわば史上最大のデジタルカメラで、数日ごとに空全体を細部まで撮影することができる。
それゆえに、ほんの数日で位置や明るさを変化させるトランジェント天体(突発天体)の検出が得意だ。
もしもテクノシグネチャーを放つ浮遊惑星が発見されたとしたら、それは決死の覚悟で故郷を捨てた異星人文明かもしれない。我々はそれを暖かく迎えるべきだろうか? それとも?
この研究論文は『International Journal of Astrobiology』(2022年4月28日付)に公開されている。
References:Civilizations Don't Even Need Space Ships to Migrate From Star System to Star System - Universe Today / written by hiroching / edited by / parumo
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現在の技術水準では木星に探査機を送り込むのでさえ5年かかかる。たとえ光速で移動できる宇宙船ができたとしても、一番近い恒星ケンタウルス座アルファ星まで4年だ。
だが、米ヒューストン・コミュニティ・カレッジの天体学者によれば、そんな宇宙船など開発しなくても惑星間旅行は可能なのだという。
恒星の重力に縛られていない「自由浮遊惑星」に乗って移動すればよいのだ。すでに地球外文明は、この方法で惑星間を移動している可能性があるかもしれない。
重力に縛られない自由浮遊惑星で恒星間航行 自由浮遊惑星(浮遊惑星)とは、それが形成された惑星系から弾き出され、星の重力に縛られることなく銀河を直接公転する惑星のことだ。
放射性崩壊で温められた液体の海があるものの存在も示唆されており、そこには生命が宿っている可能性すらある。
そうした浮遊惑星がどこかの恒星の重力に再びキャッチされ、生命はより暮らしやすい新天地に移住する。すでに地球外文明はこの方法を利用している可能性があるという。
そう語るのは、米ヒューストン・コミュニティ・カレッジの天文学者イリーナ・ロマノフスカヤ教授だ。
そのメリットは惑星のリソースを利用して長期的な旅が可能になることだ。
浮遊惑星には一定の重力があり、土地も資源もある。
地表や地下の海を利用すれば水を確保でき、宇宙線から身を守るバリアにもなるだろう。
高度な科学技術があれば、浮遊惑星をより暮らしやすい環境に改変し、宇宙船のように操縦することもできる。核融合技術があれば、極寒の浮遊惑星であっても生命すら宿せるようになるという。
もし、太陽系を脱出しなければならない状況に陥った地球人は、この惑星型宇宙船に乗って、何世代もかけてじっくりと新天地を探し求めればいいのだ。
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浮遊惑星に乗り込む方法 ロマノフスカヤ教授によれば、浮遊惑星に乗る方法は4つある。
1. 地球のそばを通過した浮遊惑星を捕捉
第一に、地球のそばを通過した自由浮遊惑星を捕捉するというものだ。これを実現できるかどうかは、この宇宙に存在する浮遊惑星の数が問題になる。
浮遊惑星の数は正確にはわかっていない。だが2021年、天の川銀河のとある領域で木星大の浮遊惑星が70~170個ほど発見された。また2020年の研究によれば、天の川には500億の浮遊惑星が存在する可能性があるという。
それらのほとんどは、それぞれの惑星系が起源だが、恒星と同じく降着(降着円盤内の重量で粒子が集まって重い天体になること)によって形成されたものもあるだろう。
太陽系の最も外側を囲むる膨大な数の氷でできた天体群「オールトの雲」でも浮遊惑星が形成されている。
もしも太陽系以外の惑星系にもオールトの雲のようなものがあれば、豊富な浮遊惑星があり、恒星活動によって外へと吐き出されていることだろう。
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オールトの雲 photo by iStock
ロマノフスカヤ氏によれば、進化の主要段階を終えた恒星で太陽の1~7倍の質量をもつもの、あるいは太陽の7~20倍の質量を持つ天体の超新星爆発ならば、オールトの雲の惑星は恒星の重力を振り切って脱出できるだろうという。
そのような浮遊惑星はどのくらいの頻度で地球のそばを通過するのだろうか? 実は7万年前に「ショルツ星」が太陽系のオールトの雲を通過したことが明らかになっている。
ショルツ星は恒星であって惑星ではないが、少なくとも実際に天体が比較的地球の近くを通過することがあるということだ。
もし天の川に500億の浮遊惑星が存在するという推定が正しいのであれば、そのいくつかが地球のそばを通過していた可能性は高い。
現在の人類の技術水準では、オールトの雲はかなり遠方だ。それでも科学技術が十分に発達しさせすれば、浮遊惑星を捕捉できることだろう。
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2.浮遊惑星を地球の軌道に移動させる
第二の方法は、オールトの雲にある適当な浮遊惑星を見繕って、何らかの方法で地球付近の安全な軌道にまで移動させる。
じっくり時間をかければ、インフラを構築し、大気を改変するなど、浮遊惑星をニーズに合うようリフォームできることだろう。
3.太陽系外縁天体、小惑星「セドナ」を利用
第三の方法は、二番目に似ている。だが太陽系の外ではなく、太陽系外縁天体を利用する。
例えば、その候補として小惑星「セドナ」がある。
セドナは76~937AU(1AUは地球と太陽の平均距離)と極端に偏心した軌道を1万1000年かけて周回しており、将来的に準惑星に分類される可能性すらある天体だ。
やはり十分な時間と技術力があれば、これを宇宙船として利用できることだろう。
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いくつか問題も考えられる。例えば、遠方にある準惑星を地球に近づければ、太陽系惑星の軌道を乱して大惨事になるかもしれない。
しかしその時までにハビタブルゾーンの外で暮らせる科学技術力が身についていれば、そのリスクは軽減されることだろう。4.太陽がはじき出す惑星に乗り込む 第四の方法は、少々リスキーだ。年老いた太陽が膨張を始めると、そのまま飲み込まれる惑星だけでなく、太陽系から弾き出されるものもある。そこで弾き出される惑星を予測し、タイミングよく乗り込むのだ。
ただし太陽から激しく質量が失われる時期は、さまざまな混乱が起きるはずなので、これはかなり危険な賭けになる。
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浮遊惑星はあくまで救命ボート的役割 たとえ無事、浮遊惑星に移住できたとしても、そこは安住の地ではなく、むしろ救命ボートのようなものだ。徐々に内部の熱が失われ、液体の海を維持できなくなるだろうからだ。
浮遊惑星は孤立しており、太陽系惑星に比べれば資源に乏しい。
鉱物源となる小惑星もないし、無限に降り注いでいたはずの太陽エネルギーもない。
昼も夜もなく、動物はおろか細菌すらいない。だから浮遊惑星はあくまで他の惑星系に入植するための移動手段でしかない。
またロマノスカヤ教授が想定するのは、たった一度きりの脱出ではない。むしろ浮遊惑星への移住を繰り返して、銀河に植民地を増やすようなプランを彼女は思い描いている。
地球に宿った親文明から子文明がいくつも生まれ、宇宙各地の惑星系に根付いていく。非常に壮大なヴィジョンで、生物学的な人類だけでなく、純粋な生物の体ではなくなったポスト生物学的な人類にすら当てはまる。
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地球外文明捜索の鍵 現時点の人類は、ようやく危険な小惑星の襲来に備え始めたばかりで、温暖化を安定させることすらできない。その程度の科学技術力では、このような大脱出はただのSF的な妄想でしかない。
実はロマノスカヤ教授がこのような議論をした狙いは別のところにある。それは地球外文明を見つけることだ。
銀河のどこかに地球が文明が存在したとしたら、それらのいくつかは恒星の死に直面し、母なる惑星系から脱出せざるを得なかったかもしれない。
もしも彼らがロマノスカヤ教授と同じアイデアをひらめき、浮遊惑星を宇宙船に変えていたとしたら、きっと「テクノシグネチャー」(技術文明が存在する証拠となるサイン)が発生するはずだ。
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例えば、浮遊惑星を操作するためにソーラーセイルの利用が考えられる。この場合、ソーラーセイルが星間物質と作用することで「サイクロトロン放射」(電磁波の一種)が出る。
あるいは熱源があれば赤外線が出る。その量が異常なほど多い、あるいは異常なほど変動するなら、何らかの装置が存在するサインかもしれない。
同様に浮遊惑星表面にある不均一な赤外線源や、電磁波波長の不自然な分布も文明の存在を示している可能性がある。
大気を持つ浮遊惑星もそうだ。場合によっては、それ自体がテラフォーミングの可能性を示唆する。
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まずは浮遊惑星探し 今のところ、自由浮遊惑星がこの銀河にどれほど存在するのか、正確なことはわからない。だが近い将来、その解明も進むかもしれない。
2023年から本格的に稼働するベラ・ルービン天文台は、いわば史上最大のデジタルカメラで、数日ごとに空全体を細部まで撮影することができる。
それゆえに、ほんの数日で位置や明るさを変化させるトランジェント天体(突発天体)の検出が得意だ。
太陽系に接近する浮遊惑星だって発見できるかもしれない。
もしもテクノシグネチャーを放つ浮遊惑星が発見されたとしたら、それは決死の覚悟で故郷を捨てた異星人文明かもしれない。我々はそれを暖かく迎えるべきだろうか? それとも?
この研究論文は『International Journal of Astrobiology』(2022年4月28日付)に公開されている。
References:Civilizations Don't Even Need Space Ships to Migrate From Star System to Star System - Universe Today / written by hiroching / edited by / parumo
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