
生きていた時の姿はさぞや恐ろしかっただろうが、そのメガロドンを絶滅に追いやった要因の1つとしてある生物の存在が浮上した。
歯の同位体を分析した最新の研究によれば、メガロドンとホホジロザメは同時代に生き、同じ獲物を求めて競合していた可能性があるという。
残された歯の化石から食生活を探る メガロドンは約2300万年前から360万年前の前期中新世から鮮新世にかけて生息していた絶滅種のサメで、史上最大級の捕食者魚類とされている。
だが、残されているのは歯と脊椎の化石だけで、実際にメガロドンがどんな姿をしているのかは完全には解明されていない。
だが、歯が残されていれば、古代の人々や生物の食生活を知ることができる。ことサメに関する限り、全身の骨格が軟骨でできており、化石として残るのは歯だけなので、これは重要なことだ。
独マックス・プランク進化人類学研究所のジェレミー・マコーマック氏を中心とするグループは、研究論文で次のように述べている。
サメの歯の化石のエナメルには、食事によって取り込まれた亜鉛の痕跡が長い時間を経てもなお保存されている。ある環境にある同位体(同じ原子だが中性子の数が違うもの)の組み合わせは、そこで暮らす生物によって取り込まれる。
我々は、これらに種の栄養段階がしっかりと記録されていることを実証。メガロドンとホホジロザメの亜鉛の違いから、新第三紀における両属の食性の移り変わりを観察した
さらにそれを食べた生物もその同位体を取り込む。もしその生物に歯があったのなら、同位体が歯や骨を構成するリン酸カルシウムに起きかわる。
だから骨はなくとも、歯さえあれば、その同位体の構成から生物の食生活をある程度まで推測できる。
大昔のメガロドンとホホジロザメが何を食べていたのか正確にはわからない。
しかし古代の海洋ほ乳類の骨に含まれる「亜鉛同位体」の割合からは、「栄養段階」が高い(つまり食物連鎖の頂点に近い)動物ほど、亜鉛同位体が少なくなることが示されている。
しかしほ乳類以外の海洋脊椎動物についてはあまり研究が進んでいない。そこでマコーマック氏らは、実際に分析してみることにした。
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メガロドン(左)の歯の化石と現代のホホジロザメ(右)の歯 / image credit:MPI for Evolutionary Anthropologyメガロドンとホホジロザメはお互いに獲物を奪い合っていた まず現生のサメ20種の歯の分析から亜鉛同位体のデータベースを作成。さらにメガロドンなど、すでに絶滅した13種についても調べ、それぞれの栄養段階を割り出す。
そのうえでメガロドンとホホジロザメの歯の比較が行われたのだが、その結果がなんとも面白い。
鮮新世(533万~258万年前)の初期、両者は共存していたのだが、必ずしもいい関係ではなかったようだ。
亜鉛同位体の割合からは、メガロドンとホホジロザメが同じ栄養段階を占めており、獲物を奪い合っていたらしいことが窺えるのだ。
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ホホジロザメがメガロドン絶滅の要因の1つである可能性 メガロドンが絶滅したのは360万年前、鮮新世中期のこと。その後釜として、メガロドンの地位を引き継いだのがホホジロザメだ。
メガロドン絶滅の原因がホホジロザメだけ、ということはないだろうが、大きな要因の1つであった可能性は高い。
マコーマック氏によれば、メガロドンが絶滅した原因は、気候変動、彼らが生きられる体温の上限、エサとなる生物の急減など複合的なものであるという。
だがホホジロザメなどとの競合も要因の1つとして指摘している。体の小さいホホジロザメは、メガロドンほど大量の食物を必要としないため、同じ獲物を餌にしていた場合、競争上の優位性があるからだ。
亜鉛同位体の比率分析は、化石になった海洋脊椎動物の栄養生態学・食性・進化・絶滅理由を解明する有望なツールであることを実証したと、マコーマック氏らは述べている。
今後研究が進めば、古代の海を支配した王者の悲哀がさらに浮き彫りになるかもしれない。
この研究は『Nature Communications』(2022年5月31日付)に掲載された。
References:This Animal May Have Helped Drive The Fearsome Megalodon to Extinction / written by hiroching / edited by / parumo
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