性犯罪者が化学的去勢に応じれば刑期が短縮される法案が承認される
 タイでは、刑務所から釈放された性犯罪者のうち、3割以上が再び罪を犯すことが問題となっている。そこでタイの議会は「性犯罪者が化学的去勢に応じれば引き換えに刑期を短縮する」という法案を承認したそうだ。


 科学的去勢は、性ホルモンの働きを阻害する薬を錠剤か注射で投与し、男性ホルモンの生成を抑え、性欲を減退させる処置のことだ。

 これにより、加害者の更なる性犯罪の可能性を低下させることを目的としているこの法案だが、必ずしも性犯罪者への根本からの再犯防止の対処にはならないといった反論の声もあがっているようだ。
性犯罪者、化学的去勢の見返りに刑期を短縮
 今年3月、タイの議会では、国内の性犯罪者に化学的去勢を施すことを認め、薬の投与に同意した犯罪者に見返りとして刑期を短縮するという法案が提出され、衆議院は、7月に145人の上院議員がこれを承認した。

 法律として施行されるためには、もう1度この案が多数の承認投票を得て、更に王室の承認を受けなければならない。

 だが、ソムサック・テプシン法務大臣は「女性が被害を受けるニュースは2度と見たくない。この法律を迅速に適用させたい」と、この法の施行に積極的姿勢を見せている。

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国民は科学的去勢を支持する人が多い
 タイでは、2013年~2020年の間、刑務所から釈放された16,413人の有罪判決を受けた性犯罪者のうち、4,800人以上が再犯したという。

 同国の保健省によると、2013年には31,000人以上の女性が性的暴行を受けたという被害報告が出されたが、その大部分は大学生と学校生だったそうだ。

 以降も、特に性犯罪は未成年者の関与率が高いことから、化学的去勢はタイ国民の間で支持を集めているようだ。

 この法が最終的に施行されれば、再犯のリスクがあるとみなされる性犯罪者は化学的去勢を受けるかどうかの選択肢が与えられる。

 化学的去勢を希望すれば、注射で薬が投与され、男性ホルモン「テストステロン」の生成を抑え、性欲を減退させ、性的興奮の能力を低下させる。

 一方でこの対処法は根本的な解決にはなっていないと一部から非難の声が寄せられている。


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化学的去勢に反論の声
 化学的去勢を行っている国としては、イギリス、ポーランド、エストニア、ロシア、韓国、カザフスタンなどがある。

 また、カリフォルニア、フロリダ、アラバマ、ルイジアナ、ウィスコンシンを含む複数のアメリカの州では、法律に同様の科学的去勢規定がある。

 しかし、この慣行は依然として非常に多くの物議を各国で醸しているようだ。

 投与をやめれば、一部例外を除いて、テストステロンは再び生成されるようになることから、性犯罪者に対する残虐な刑罰には当たらないという考えがある一方で、犯罪者に対する人権侵害とする考えもある。

 また性的暴力の根本的な解決につながっていないとする主張も多い。

 事実、タイでも性的暴力に取り組む非政府組織『Women and Men Progressive Movement Foundation』の財団理事長ジェイデッド氏は、このように述べている。

性犯罪者は、刑務所にいる間に考え方を改め、リハビリを受けて更生すべきなのです。化学的去勢を行ったところで、罪を悔い改めなければ性犯罪の防止にはなりません。

去勢注射に頼るようなやり方は、性犯罪者は一生更生できないと決めつけているようなものです。

また、この措置により性犯罪者の考え方が変わることにはなりません。薬の効果が切れれば、彼らは再び同じ犯罪を犯します。化学的去勢では、性犯罪者の再犯を防止できるとは思えません。


当局は、より深いレベルで性的暴力に取り組む必要があります。

 なお、化学的去勢の法が実施されることになれば、性犯罪者は医師2名の承認を得てから注射による施術を受けることとなる。

 その後も彼らは電子モニターの着用を義務付けられ、10年間は監視下に置かれることになるということだ。

References:Thailand Set to Allow Sex Offenders to Be Chemically Castrated/ written by Scarlet / edited by / parumo

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