
商品やサービスの宣伝ではなく、公共の福祉や社会問題を解決する為に人々を啓蒙するCMを「公共広告(PSA)」という。
交通事故防止、銃規制、薬物、人種差別に関してなど、主に教育を目的とするものなのだが、よくある手法の1つが、視聴者の恐怖心に訴えかけるやり方だ。
日本でも「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」は昭和の子供たちにとっては忘れられない映像だろう。
特に欧米では血生臭い直接的な描写をするものも多い。雰囲気だけでぞっとさせるもの、あるいは意外なトリックで視聴者を唸らせるものもある。
ここでは、下手なホラー映画よりも怖い、トラウマになってしまう可能性すらある、世界の不穏な公共広告を見ていこう。
交通安全(ニュージーランド)
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Mistake(2014年)
ニュージーランドで2014年に放送された『Mistake』は、安全運転を呼びかけるためのもので、視聴者に強い印象を残した。
作品では、とある交差点で車同士が衝突すると思った瞬間、ピタリと時間が止まってしまう。ドライバーどちらにも過失がある。
一方はスピード違反、もう一方は不用意に道路に出てしまった。道路に出た側は自分の非を詫び、車に子供が乗っていると訴える。
が、スピード違反側は事故を防ぐ気がないか、諦めているようだ。再び時間が動き出し、父親の最後を見つめる少年が映し出される。「他人は間違いを犯す。
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Clean Up(1991年)
『ツイン・ピークス』『イレイザーヘッド』『デューン』などが代表作であるデビッド・リンチ監督は、謎めいた作風を得意とする「カルトの帝王」と呼ばれる鬼才だ。そんな彼は、意外にもポイ捨て禁止を訴える教育的作品も手がけている。
それが『Clean Up』で、公共広告史上もっとも奇怪な作品に仕上がっている。
リンチ作品らしく、実際に描写されているわけでもないのに、何か悪いことが起きると視聴者に予感させる演出がなされている。
全編モノクロの作品にはポイ捨てをする人々と、ネズミのアップが交互に映し出される。その間、不穏なノイズと音楽が神経を逆撫でし、視聴者は嫌でも不吉なことが起きていると感じるだろう。薬物防止(アメリカ)
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Montana Meth Project Evan(2011年)
「覚醒剤(METH)はよせ、一度でもダメだ」……こう訴えるモンタナ・メス・プロジェクト(MMP)だが、一度の公共広告では十分ではないらしい。
同プロジェクトは、若者が覚醒剤に手を出さないよう、その恐怖を伝える映像を繰り返し制作している。もちろん言い分はわかるが、一連の作品を全部観たいと思う人は、ちょっと考え直そう。
MMPの作品はどれも大体同じで、麻薬だけでなく、依存症患者の行動も取り上げるのが定番のパターンだ。
そんな中でも一番不穏な作品を挙げるなら、暴力に溺れ、体を虫がはい回る感覚に苛まれた『Kevin』の物語だろう。
この作品に登場する少年は、ある友人が暴力と狂気に飲まれ、やがて精神病院行きになった経緯について語り出す。
アップで映し出されるハサミは、体の中を虫が這いまわる感覚に耐えられなくなった友人が、皮膚を切り裂くために使ったものだという。
不穏な場面は一転して、少年のアップに。ふと我にかえった視聴者は、頭を冷やして彼の言葉に耳を傾けようと思うはずだ。水辺の危険(イギリス)
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Lonely Water(1973年)
20世紀のイギリスは『ドクター・フー』で子供にトラウマを与えるのに余念がなかったが、その傍ら公共広告でも同じことをやっていた。それが悪名高い『Lonely Water』だ。
これは(どうやら悪夢によって)水辺の危険を子供に伝えるための作品で、川や湖で遊ぶ子供たちを見つめる「暗く孤独な水の幽霊」なる黒いローブをまとった人物が登場する。
続いて起きる事故のせいで、不運な子供たちは水底に自らの墓標を建てることになる。とある子供の機転で幽霊は退治されたようだが、薄気味悪い印象はいつまでも心に残り続ける。学生向けの銃規制(アメリカ)
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Evan(2018年)
学校の銃乱射事件に関する公共広告は、正視に耐えない悲惨な内容と想像するかもしれない。
だがサンディ・フック・プロミスが手がけた『Evan』は、とある仕掛けによって、「ほう」とあなたを唸らせるに違いない。
作品は、高校生らしき男の子の恋を描いたもの。
トリックが明かされるのは、体育館に銃を持つ少年が現れた後からだ。恋に落ちた男の子のすぐそばに、じつは銃の少年がいたのだ。
少年はいじめられており、銃を構える写真を投稿したり、発砲する仕草を見せたりするなど、徐々に赤信号を発するようになる。痛烈かつ説得があり、最後にぞっとする作品だ。アルコール、薬物依存防止(ニュージーランド)
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No Brainer(2003年)
またもニュージーランドの作品だ。タイトルでもある『No Brainer』とは、愚か者や能なしのこと。
ニュージーランド・アルコール&麻薬依存症協会によるこの映像では、とある男が能なしさながらの行為をやっている。
男はナイトクラブのトイレに入ると、頭皮を剥がし自分の脳を取り出しては、それを吸い込む。ほとんどゴアホラーな醜悪さで、気の弱い人なら絶対に麻薬には手を出さないと誓うことだろう。アルコールを控える呼びかけ(フィンランド)
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Monsters(2012年)
ピエロや血走り目のバニーが苦手な人は、覚悟しよう。フラジャイル・チャイルドフッドの公共広告に登場するユニークでパワフルな、それでいて不気味なポップカルチャーのキャラたちは、酒に酔った親を象徴している。
『Monsters』には他にも、邪悪なサンタ、死神、ゾンビと化した母親、地獄の奥底からやってきたようなイースターバニーなど、多種多様な怪物が登場する。
これはフィンランドの公共広告で、酒に溺れる親たちは、子供に恐ろしく孤独な世界で生きることを強いているのだと訴えている。交通事故防止(イギリス)
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The Finishing Line(1977年)
1970年代イギリスの子供向け作品、ったのだが、あまりにも不適切でイカれた内容のためにすぐ放送禁止となった。
その理由は観ればすぐにわかるだろう。『The Finishing Line』は、子供向けどころか、どぎつめのホラー映画さながらの内容なのだから。
この作品では、線路のすぐ横でディストピア感満載な運動会が開催されており、予想通りの事故が起きる。
フルバージョンでは20分もある本作品のラストは、バトルロイヤル系映画のよう。視聴者の脳裏には、線路に血まみれで横たわる何人もの子供たちの姿が焼き付いていることだろう。
繰り返すが、これは子供向けの作品で、ブリティッシュ・トランスポート・フィルムズは授業中に上映する目的で制作を依頼した。そして禁止される前、実際に上映され、大勢の子供たちにトラウマを植え付けた。作業安全(カナダ)
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Top Chef(2007年)
「私はここの副料理長」と、若い女性が誇らしげに語りかけてくる。「運が良ければ、来年には料理長になれるかも」と話す彼女は、来週結婚も控えているのだという。
まさに人生の絶頂にある彼女だが、その数秒後にとんでもない落とし穴が待ち受けていた。
大きな寸胴を持ち上げた瞬間、足を滑らせ転倒。中の熱湯を全身に浴びてしまう。皮膚は焼けただれ、耳をつんざくような悲鳴が上がる。
作業の安全性を確保するのは大切なことだが、これを観た後では2度とキッチンに立ちたくなくなるだろう。核戦争に関する手引き(イギリス)
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Protect and Survive(1975年)
『Protect and Survive』は、核戦争が起きた時の行動の手引きとして、1970年代から80年代にかけてイギリスで制作された小冊子のタイトルだ。この冊子には短編映画も同梱されていた。
お化けも出ないし、血の演出もない。人間すら出てこないし、動物も怪物もなしだ。70年代に描かれた初歩的なアニメーションと効果音だけなのだ。
それなのに、最大のトラウマを植え付けることだろう。
映像も効果音もシンプルな作りで、人の気配すらしないことが、本作をかえって不気味なものにする。
核攻撃や冷戦のパラノイアに直面した時代の、痛ましく、妄想的な絶望感が作品中に漂っていることも、恐ろしさをいっそう色濃くする原因かもしれない。
本当のところ、一体何が本作をここまで不穏にしているのかはっきり言えないのだが、この作品が生み出す印象がいつまでも心に残るだろうことは間違いない。
References:10 Most Unsettling PSAs Ever Made - Listverse / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
交通事故防止、銃規制、薬物、人種差別に関してなど、主に教育を目的とするものなのだが、よくある手法の1つが、視聴者の恐怖心に訴えかけるやり方だ。
日本でも「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」は昭和の子供たちにとっては忘れられない映像だろう。
特に欧米では血生臭い直接的な描写をするものも多い。雰囲気だけでぞっとさせるもの、あるいは意外なトリックで視聴者を唸らせるものもある。
ここでは、下手なホラー映画よりも怖い、トラウマになってしまう可能性すらある、世界の不穏な公共広告を見ていこう。
交通安全(ニュージーランド)
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Mistake(2014年)
ニュージーランドで2014年に放送された『Mistake』は、安全運転を呼びかけるためのもので、視聴者に強い印象を残した。
作品では、とある交差点で車同士が衝突すると思った瞬間、ピタリと時間が止まってしまう。ドライバーどちらにも過失がある。
一方はスピード違反、もう一方は不用意に道路に出てしまった。道路に出た側は自分の非を詫び、車に子供が乗っていると訴える。
が、スピード違反側は事故を防ぐ気がないか、諦めているようだ。再び時間が動き出し、父親の最後を見つめる少年が映し出される。「他人は間違いを犯す。
スピードを落とせ」……これが広告からのメッセージだ。ポイ捨て禁止 (アメリカ・ニューヨーク)
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Clean Up(1991年)
『ツイン・ピークス』『イレイザーヘッド』『デューン』などが代表作であるデビッド・リンチ監督は、謎めいた作風を得意とする「カルトの帝王」と呼ばれる鬼才だ。そんな彼は、意外にもポイ捨て禁止を訴える教育的作品も手がけている。
それが『Clean Up』で、公共広告史上もっとも奇怪な作品に仕上がっている。
リンチ作品らしく、実際に描写されているわけでもないのに、何か悪いことが起きると視聴者に予感させる演出がなされている。
全編モノクロの作品にはポイ捨てをする人々と、ネズミのアップが交互に映し出される。その間、不穏なノイズと音楽が神経を逆撫でし、視聴者は嫌でも不吉なことが起きていると感じるだろう。薬物防止(アメリカ)
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Montana Meth Project Evan(2011年)
「覚醒剤(METH)はよせ、一度でもダメだ」……こう訴えるモンタナ・メス・プロジェクト(MMP)だが、一度の公共広告では十分ではないらしい。
同プロジェクトは、若者が覚醒剤に手を出さないよう、その恐怖を伝える映像を繰り返し制作している。もちろん言い分はわかるが、一連の作品を全部観たいと思う人は、ちょっと考え直そう。
MMPの作品はどれも大体同じで、麻薬だけでなく、依存症患者の行動も取り上げるのが定番のパターンだ。
そんな中でも一番不穏な作品を挙げるなら、暴力に溺れ、体を虫がはい回る感覚に苛まれた『Kevin』の物語だろう。
この作品に登場する少年は、ある友人が暴力と狂気に飲まれ、やがて精神病院行きになった経緯について語り出す。
アップで映し出されるハサミは、体の中を虫が這いまわる感覚に耐えられなくなった友人が、皮膚を切り裂くために使ったものだという。
不穏な場面は一転して、少年のアップに。ふと我にかえった視聴者は、頭を冷やして彼の言葉に耳を傾けようと思うはずだ。水辺の危険(イギリス)
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Lonely Water(1973年)
20世紀のイギリスは『ドクター・フー』で子供にトラウマを与えるのに余念がなかったが、その傍ら公共広告でも同じことをやっていた。それが悪名高い『Lonely Water』だ。
これは(どうやら悪夢によって)水辺の危険を子供に伝えるための作品で、川や湖で遊ぶ子供たちを見つめる「暗く孤独な水の幽霊」なる黒いローブをまとった人物が登場する。
続いて起きる事故のせいで、不運な子供たちは水底に自らの墓標を建てることになる。とある子供の機転で幽霊は退治されたようだが、薄気味悪い印象はいつまでも心に残り続ける。学生向けの銃規制(アメリカ)
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Evan(2018年)
学校の銃乱射事件に関する公共広告は、正視に耐えない悲惨な内容と想像するかもしれない。
だがサンディ・フック・プロミスが手がけた『Evan』は、とある仕掛けによって、「ほう」とあなたを唸らせるに違いない。
作品は、高校生らしき男の子の恋を描いたもの。
誰もが少年の淡い恋心と、心地いいフォークソングにうっとり酔いしれ、その背後で起きていることには気づかない。
トリックが明かされるのは、体育館に銃を持つ少年が現れた後からだ。恋に落ちた男の子のすぐそばに、じつは銃の少年がいたのだ。
少年はいじめられており、銃を構える写真を投稿したり、発砲する仕草を見せたりするなど、徐々に赤信号を発するようになる。痛烈かつ説得があり、最後にぞっとする作品だ。アルコール、薬物依存防止(ニュージーランド)
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No Brainer(2003年)
またもニュージーランドの作品だ。タイトルでもある『No Brainer』とは、愚か者や能なしのこと。
ニュージーランド・アルコール&麻薬依存症協会によるこの映像では、とある男が能なしさながらの行為をやっている。
男はナイトクラブのトイレに入ると、頭皮を剥がし自分の脳を取り出しては、それを吸い込む。ほとんどゴアホラーな醜悪さで、気の弱い人なら絶対に麻薬には手を出さないと誓うことだろう。アルコールを控える呼びかけ(フィンランド)
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Monsters(2012年)
ピエロや血走り目のバニーが苦手な人は、覚悟しよう。フラジャイル・チャイルドフッドの公共広告に登場するユニークでパワフルな、それでいて不気味なポップカルチャーのキャラたちは、酒に酔った親を象徴している。
『Monsters』には他にも、邪悪なサンタ、死神、ゾンビと化した母親、地獄の奥底からやってきたようなイースターバニーなど、多種多様な怪物が登場する。
これはフィンランドの公共広告で、酒に溺れる親たちは、子供に恐ろしく孤独な世界で生きることを強いているのだと訴えている。交通事故防止(イギリス)
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The Finishing Line(1977年)
1970年代イギリスの子供向け作品、ったのだが、あまりにも不適切でイカれた内容のためにすぐ放送禁止となった。
その理由は観ればすぐにわかるだろう。『The Finishing Line』は、子供向けどころか、どぎつめのホラー映画さながらの内容なのだから。
この作品では、線路のすぐ横でディストピア感満載な運動会が開催されており、予想通りの事故が起きる。
フルバージョンでは20分もある本作品のラストは、バトルロイヤル系映画のよう。視聴者の脳裏には、線路に血まみれで横たわる何人もの子供たちの姿が焼き付いていることだろう。
繰り返すが、これは子供向けの作品で、ブリティッシュ・トランスポート・フィルムズは授業中に上映する目的で制作を依頼した。そして禁止される前、実際に上映され、大勢の子供たちにトラウマを植え付けた。作業安全(カナダ)
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Top Chef(2007年)
「私はここの副料理長」と、若い女性が誇らしげに語りかけてくる。「運が良ければ、来年には料理長になれるかも」と話す彼女は、来週結婚も控えているのだという。
まさに人生の絶頂にある彼女だが、その数秒後にとんでもない落とし穴が待ち受けていた。
大きな寸胴を持ち上げた瞬間、足を滑らせ転倒。中の熱湯を全身に浴びてしまう。皮膚は焼けただれ、耳をつんざくような悲鳴が上がる。
作業の安全性を確保するのは大切なことだが、これを観た後では2度とキッチンに立ちたくなくなるだろう。核戦争に関する手引き(イギリス)
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Protect and Survive(1975年)
『Protect and Survive』は、核戦争が起きた時の行動の手引きとして、1970年代から80年代にかけてイギリスで制作された小冊子のタイトルだ。この冊子には短編映画も同梱されていた。
お化けも出ないし、血の演出もない。人間すら出てこないし、動物も怪物もなしだ。70年代に描かれた初歩的なアニメーションと効果音だけなのだ。
それなのに、最大のトラウマを植え付けることだろう。
映像も効果音もシンプルな作りで、人の気配すらしないことが、本作をかえって不気味なものにする。
核攻撃や冷戦のパラノイアに直面した時代の、痛ましく、妄想的な絶望感が作品中に漂っていることも、恐ろしさをいっそう色濃くする原因かもしれない。
本当のところ、一体何が本作をここまで不穏にしているのかはっきり言えないのだが、この作品が生み出す印象がいつまでも心に残るだろうことは間違いない。
References:10 Most Unsettling PSAs Ever Made - Listverse / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
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