人を傷つける言葉は実際にビンタされた時と同じダメージを脳に与え、長くとどまる
 「言葉の暴力」とは、言葉を使って他者に精神的苦痛を与える心理的に制圧を加える心理的暴力のことだ。例え肉体にダメージをくらわなくても、言葉だけで深く傷つくことがあるのは、私たちはみんな知っている。


 新たな研究によると、侮辱的な言葉の暴力を受けると、それが自分に向けられたものであろうと、他人に向けられたものであろうと、脳は、物理的に頬に平手をくらったのと同じようなダメージとして処理していることがわかったという。

否定的な言葉はストレスや不安を誘発させる 同じ言葉でも、愛について語るとき、または愛情をこめて語るとき、それは嬉しさや喜びをもたらす。逆に、憎しみのこもった言葉は、私たちを不安にさせ、苦しみや恨みを抱かせる場合もある。

 言葉というものが、正確にどれくらい感情を制御しているかはまだ正確にはわかっていない。

 だが、新たな研究からわかったことは、言葉は心理学的にも、生理学的にも影響を及ぼすということだ。

 ドイツで行われたかつての研究では、否定的な言葉を聞いたり読んだりした人の神経反応をモニターしてみた。

 その結果、否定的な言葉にさらされると、前帯状皮質内(sACC)の「暗黙の処理(IMP)」が増加することがわかった。

 暗黙の処理とは、否定的な言葉がストレスや不安を誘発するホルモンを分泌するという専門的な言い方だ。

 別の研究では、自分から否定的な話をすることが多い子どもは、不安のレベルが高いことがわかっている。

 否定的な言葉が、短期的にも長期的にも私たちの認知や感情の健全に影響を与えることは、わかっている。

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なぜ侮辱的な言葉はいつまでも心に巣くうのか? では、侮辱のような深く傷つくような言葉についてはどうだろう?

 高度な社会的動物である人間は、つつましい部族集団から、力のある帝国まで、複雑にはりめぐらされた社会網や階層を紡ぎ出すことを学んできた。

 その中では、互いに協力しあうことが、うまくやっていく秘訣のひとつだが、これはあなたがその社会で認められなかったり、評価されないと、成功できない可能性があるということでもある。


 歴史のある時点では、生き残ることさえできなかったかもしれない。

 自分の評判や社会的地位を損なう侮辱という言葉が、矢のように耳にひどく突き刺さることがあっても不思議ではない。

 オランダ、ユトレヒト大学のマライン・ストロイクスマ博士率いる研究チームは、侮辱の言葉と褒め言葉を、私たちの脳がどのように処理しているのかについて研究した。

 また、言語と感情の関係を探る広範な研究プロジェクトの一環として、こうした侮辱や賛辞の言葉に繰り返しさらされると、人の感覚はどう変化するのか?

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脳波データで明らかとなった侮辱的な言葉が与えるダメージ 脳波計(EEG)と電極を女性ボランティア79名の頭皮に装着し、被験者たちは、3つの異なる意味をもつ文章を声を出して繰り返し読む。

 それらは、「リンダは最悪」という侮辱、「リンダはすばらしい」という賛辞、そして「リンダはオランダ人」というどちらでもない文章だ。

 被験者の半分は、"リンダ"の部分を自分の名前で読んだが、半分は他人の名前を使った。

 被験者たちとほかの人間の交流は一切ないが、被験者たちは、3人の異なる男性たちによってこうした言葉が発言されたと知らされる。

 意図的に人を傷つけるような言葉を浴びせることは、決して倫理的なことではないため、罵倒言葉に対する人の反応を調査するのは簡単なことではない。

 しかし、実際の人間関係はなく、架空の人物から侮辱を受けるという、実験室での明らかに限定的な研究にもかかわらず、その侮辱は被験者たちに伝わった。

 脳波データからは、侮辱の言葉を聞くと、事象関連電位(ERP)の波形成分であるP2の振幅に変化が生じることがわかった。

 この影響は、侮辱が誰に向けられているかは関係なく心に留まり、繰り返されることによって、それがより強固に植えつけられることが証明された。
私たちの脳は、侮辱や褒め言葉に非常に素早く反応し、とくに侮辱の場合はそれがより顕著であることがわかりました。


脳波のこの初期P2シグナルは、長期記憶からの侮辱や賛辞の意味を取り出すことで引き金になると思われる、非常に速く安定した感情的な注目をとらえることを示しています。

侮辱と賛辞の反応の差は、時間の経過とともに大きくなります。

何度も繰り返し侮辱されると、頬に平手打ちをくらっているような状態になるのです。これは、強い否定的な評価言葉のほうが、語彙を引き出すときに自動的に感情の注意を引くことに関連しています。

今回、注目すべきは、被験者たちの間に実際の相互関係はなにもない、実験室での実験でもこうした結果が得られたことです。

これは、望ましくない社会行動に対する私たちの感性を示しただけでなく、こうした行動の評価は、ある程度自動的に行われているという考えとも一致します


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人間はネガティブな言葉により注意を向ける 賛辞の言葉もP2効果を引き出すが、侮辱ほどは強くない。

 賛辞と侮辱の言葉のどちらかに被験者の実際の名前が使われた場合、使われなかった場合に比べて、P2信号は強くなり、皮膚の伝導性が高くなる。

 どうして人間が、自分自身に向けられた賛辞や侮辱に、特に敏感に反応するように進化してきたのか、その理由を説明できる進化的な圧力があるのかもしれない。
自分に直接向けられた侮辱は、自分自身だけでなく自分の評判への深刻な脅威になります。

家族間を超えて協力を行うようになった超社会的な種族のメンバーにとって、自分の評判をおとしめる脅威は軽視できません。

侮辱は他人を傷つけ、誰がそうしたがっているかがわかるもので、周辺あるいはグループ内で社会的な対立があることを示すものです。

超社会的な種族のメンバーは、こうした言葉による平手打ちに注意を払いたいと思うでしょう。


協力を重んじる種族にとって、言葉の暴力や実際の平手打ちなどの攻撃的なスタンスは、その攻撃対象者だけでなく、それを見た人にも、自動的にネガティブな感情を引き起こす可能性があります
 今回の発見は、人間がポジティブな言葉や状況よりも、ネガティブなほうにわざわざ選択的により注意を向ける、「ネガティブバイアス」をもっていることを示す証拠も示している。
ネガティブバイアスの研究によって、人はだいたい否定的な出来事のほうに特に敏感であることが明らかになりました。

そのような出来事は、なんでもない中立的な事象よりも目につき、それに対するより強い反応を引き出すだけでなく、肯定的な出来事と比較しても、その頻度も高いのです。

感情的な言葉を読んだり聞いたりしたときも、同じような注目の仕方、それに続く処理の強化メカニズムが働いているのです。

こうした偏りの原因については、議論が続いていて、環境の統計的特性を示しているだけという説や、ネガティブな刺激とポジティブな刺激がどの程度、健康状態に影響するかなどの、進化的な分析を提案する説があります。

ネガティブバイアスが、あらゆるネガティブ刺激のほうがポジティブ刺激よりも注意をひくものであることを保証するものではありません。

ネガティブバイアスは確かにあるけれど、まだ十分に説明されているわけではない理由で現れる平均的な現象として存在しているのです
References:Insults are processed by the brain like 'a mini slap to the face' / written by hiroching / edited by / parumo

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