
そんな中、ブラジルに広がる熱帯雨林アマゾンで、部族の仲間を皆殺しにされて以来、たった一人で生きてきた未接触部族の男性が亡くなった。
男性の遺体は、23日に羽毛で飾られたハンモックの中で発見されたという。彼は26年間、9500日近くにわたり、誰と話すことも、交流することもなかった。
男性の名前は知られていない。しかし狩猟や隠れ家、あるいは儀式など、何らかの目的のためによく穴を掘っていたことから、「穴の男(Man of the Hole)」と呼ばれていた。死亡推定年齢は60歳前後だそうだ。
60歳前後で死亡した穴の男 「穴の男」の訃報は、8月27日、ブラジルの政府組織「国立先住民族保護財団(FUNAI)」によって発表された。男性は60歳前後で、一見したところ自然死だが、現在検死が行われている最中であるという。
先住民の権利保護を訴える非営利団体「サバイバル・インターナショナル」のフィオナ・ワトソン氏は、「植民地化と利益の名の下に世界中で行われた先住民への恐ろしい暴力と残酷さ、そしてそれに対する抵抗、彼はその両方を象徴していました」と語る。
「彼が目にした恐怖と、仲間を殺された後の孤独は、想像するしかありません。しかし彼はあらゆる接触の試みを断固として拒み、放っておいてほしいという意志をはっきりと示しました」
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Video footage of The Last of his Tribe森林開発のため仲間の部族が虐殺される 穴の男の部族の虐殺は、1970年代から始まった。
部族が暮らしていたのはアマゾン西部の肥沃な土地だった。
そうした事業者は武装集団をやとい、先住民を殺していった。
1990年代初頭、穴の男の部族の生き残りはわずか7人だけ。そんな彼らも1995年、不法鉱山労働者によってついに6人が殺害された。殺害した犯人は責任を問われていない。
FUNAIによって穴の男の生存が確認されたのは、それから1年後のことだ。それ以降彼は見守られてきた。
1998年、ブラジル政府は、彼を保護するためにその土地への立ち入りを禁止した。だが2009年には彼の土地で銃弾が発見され、彼を守るために設置されたFUNAIの駐在所でもポストが壊されるという事件があった。
これを受けて、いく度か穴の男とのコンタクトが試みられたが、彼が助けを求めることはなく、そのまま放っておかれることになった。
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穴の男 / image credit:c FUNAI危機に直面するブラジルの未接触部族 「穴の男」が死んだ今、サバイバル・インターナショナルやOPI(Observatory for the Human Rights of Uncontacted and Recently-Contacted Peoples)といった団体は、タナル先住民族自治区を永続的に保護するよう求めている。
この地を先住民が虐殺された事実を伝える記念碑にしたいと望んでいるのだ。
ワトソン氏は、ボルソナロ大統が思うがままに熱帯雨林の開発を進めようとすれば、穴の男の悲劇は今後も繰り返され、ブラジルの先住民は死に絶えるだろうと、警鐘を鳴らす。
「ブラジルの先住民運動とサバイバルは、それを防ぐためにあらゆる手を尽くします」と同氏は語る。
今日、ブラジルの先住民は深刻な問題に直面している。2020年、殺された先住民は前年比で61%と激増し、182件に達した。
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Footage of uncontacted tribesman in the Amazon rainforest
ブラジル憲法は、先住民に彼らが代々受け継いできた土地の所有権を認めており、タナル先住民自治区では1990年代後半に保護命令が出された。しかしFUNAIのように連邦政府に承認された組織は限られており、それ以外の組織が政府から支援されることはない。
2019年に就任したボルソナロ大統領は、アマゾンの熱帯雨林の開発を推進しているとされている。
人工衛星の観察によると、実際に森林破壊は増加しており、このまま大統領が政権にあり続ければ、生態系が完全に崩壊してしまうと懸念する声もある。
穴の男がいなくなった今、タナル先住民自治区がどうなるのか誰にもわからない。
References:The Last Member of An Isolated Amazon Tribe Dies Alone / written by hiroching / edited by / parumo
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