
image credit:Wikimedia Commons // CC by 4.0
とても奇妙な気象現象が起きた町がある。1994年8月、警官のデヴィッド・レーシーが、米ワシントン州オークヴィルの町をパトロールしていたとき、雨が振り始め、フロントガラスをたたきつけてきた。
年間275日も雨にみまわれるこの町では、とくに珍しいいことではないが、この嵐はどこか違っていた。
レーシーはワイパーを作動させたが、どういうわけか雨のしずくをふき取ることができない。なぜか、この雨はまるでスライムのように半透明でドロドロしていてたのだ。
ここからこの町に異変が起きる。
空から雨と共に降って来たドロドロの謎の物体「なんだこりゃ」警官のレーシーは、同乗していた相棒に言った。「こんなもの、いったいどこから来たんだ」
ガソリンスタンドに車を止め、レーシーは、手袋をはめて窓ガラスについたものに触ってみた。それは粘り気があって、かなりベトベトしていた。
オークヴィルの上空から、なぜかこんな不可解な謎が降ってきたのだ。
レーシーは困惑していたが、とくに心配してはいなかった。だが、すぐに深刻な体調不良に陥ることになる。
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数週間で何度も降り続いた奇妙な雨 こんな奇妙な事件がなければ、オークヴィルの町が注目されることはほとんどなかったかもしれない。
かつて林業で栄えたこの町は、ワシントン州に唯一自生するオークの木にちなんでオークヴィルと名づけられた。
1905年に町となり、現在は700人の住人がいる。ここでは、過去を大切にしながらも、ゆったりとした生活が営まれている。
馬に乗ったならず者に襲われた最後の銀行だという建物も残っていて、地元の人がロデオショーに押し寄せる。
そんなのどかな町に、1994年8月7日、奇妙な"雨"が降り注いだ。これを目撃したのは、レーシーだけではなかった。
ある女性は外へ出たとき、半透明のドロドロしたものが地面に点々を落ちているのを見つけた。大きさは米粒の半分くらいだったが、3週間のうち6回ほど、この奇妙な雨が降った。
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この物体は、柔らかくゼリーのような感触で、スライムのようだったと、レーシーは語った。
レーシーは、倦怠感と吐き気に襲われた。
ところが、一日もしないうちに、めまいなどの奇妙な症状に襲われるようになり、医者に駆け込んだ。
ほかの住民も、この妙なスライムが現れたのと同じタイミングで、呼吸器や内耳系の不調を訴え始めた。
「町の全員が、謎の病で寝込んでしまったのです」ロバーツは言う。
サニー・バークリフトは、29エーカーあるの自分の農園の黒いアスファルトの屋根に、このスライムが点々とついているのに気づいたのが最初だった。
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まもなく、彼女の母親のドティ・ハーンが、めまいと吐き気を訴えた。サニー自身は、スライムに触った後で倦怠感に襲われた。
このスライムは人間には有害なだけだったが、動物には致命的だったようだ。
ロバーツによると、スライムが現れてから、周辺の動物12匹が死んだという。
スライムのサンプルを集めようとしたところ、少し離れたところでカエルやカラスが死んでいるのに気づいた。
農園でも、ドティやサニーが飼っていた子猫が死んだ。スライムの成分調査が行われるも完全には解明に至らず 不調を訴えたハーンを診た医師デヴィッド・リトルは、原因はスライムの出現とは無関係の内耳の問題だと考えた。
すると、スライムの中に人間の白血球が見つかったという。
スライムのサンプルは、ワシントン州の保健局でも収集された。ここでは、シュードモナス・フルオレッセンスとエンテロバクター・クロアカという、ふたつのバクテリアが見つかった。
このバクテリアが、オークヴィルの住民の体調不良を引き起こしたのかは議論があるところだが、自然界に存在し、エンテロバクター属の真性細菌の一種であるするE.クロアカは、潜在的に病原体になりえる。
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エンテロバクター・クロアカ / image credit:public domain/wikimedia
ところが、さらに詳しく研究を進める前に、保健局の微生物学者、マイク・マクダウェルが、サンプルが研究室から消えてしまったと報告した。
サンプルには、さまざまなサイズのたくさんの細胞が含まれていて、それらはかつて生きていた生物のものであることが判明した。
病院で分析されたものとは違って、保健局のサンプルには人間の白血球は観察されなかった。人間の細胞内で見つかるはずの核がまったくなかったのだ。
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浮上する様々な説 研究室での分析では決定的な決着はつかず、様々な説が浮上した。
なんらかの自然現象説、人為的なものによってクラゲが空に巻き上げられ、それが破裂して散らばった説、空軍が太平洋上で爆撃訓練を行い、クラゲが水中から吹き上げられて、それがオークヴィルまで飛んできたなどといった説が浮上した。
生物兵器実験なのではという物騒な説もあった。
医師のリトルは、スライムは航空機が廃棄した排泄物なのではないかと仮説をたてた。
人間の白血球があったこと、触れた者に体調不良を引き起こしたこと、動物が死んだ事実などから、不凍液を利用する航空機の排泄物処理システムのせいではないかというのだ。
だが、連邦航空局は、使用されている化学薬品は、廃棄物の色をブルーにすることから、航空機が原因とする仮説を否定した。
もっとも有力な説は、このスライムの正体は、実は「スターゼリー」だという説明だ。
「スターゼリー」とは、ゼラチン状の物体のことで、粘菌の一種などという説もある。
カササギが食べ過ぎて吐き出した、カエルの卵のことをさすこともある。古く14世紀には、隕石が持ち運んだものだと考えられていたこともあった。
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2012年に目撃されたスターゼリーとされる物体
とはいえ、これでは空から降ってきたスライムの説明にはならない。
どれぐらい多くの人々スライムが空から降ってくるところを目撃したのか、それとも、ただ雨が伴ってきたものだったのか、正確なところははっきりしない。
スターゼリーのような自然現象に、なんらかの病原体が伴っていて、因果関係もないのに、誰かが互いに関係があるように作りあげた可能性は十分ある。
もっとも衝撃的な「スライムは空から降ってきた」、「そのサンプルが消えてしまった」という証言の裏づけをとるのは難しい。
レーシーとマイク・マクダウェルは、Unsolved MysteriesというTV番組に出演した以外は、その後、このスライムについてほとんど語ることはなかった。
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Unsolved Mysteries with Robert Stack - Season 9, Episode 6 - Updated Full Episodeいまだ原因は特定できず このスライムとその起源についての具体的な答えは、いまだ見つかっていないが、その後、スライムが降ってくることは二度となかった。
そしてオークヴィルだけがこのような異様な出来事を体験したわけではなかった。
1876年、ケンタッキー州オリンピアン・スプリングで、空から肉が降ってきたという出来事があった。
これは、飛んでいた猛禽類が上空から獲物を落としたのではないかとされている。カエルが嵐の勢いで巻き上げられて、空から落下することは知られている。
また、ジムとキャシー・ベランガー夫妻による別の手がかりがある。
彼らはちょうどスライムが報告された時期に、ワシントンの海岸で死んだカニを見たと言っている。
近くには透明のゼリーのようなものが点在していて、キャシーと飼い犬がそれに触れたら、両者とも翌日に具合が悪くなったという。
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The Oakville Blobs Incident | Raining White Blood Cells for a Month?!
References:The Mystery of the 'Oakville Blobs' / written by konohazuku / edited by / parumo
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とても奇妙な気象現象が起きた町がある。1994年8月、警官のデヴィッド・レーシーが、米ワシントン州オークヴィルの町をパトロールしていたとき、雨が振り始め、フロントガラスをたたきつけてきた。
年間275日も雨にみまわれるこの町では、とくに珍しいいことではないが、この嵐はどこか違っていた。
レーシーはワイパーを作動させたが、どういうわけか雨のしずくをふき取ることができない。なぜか、この雨はまるでスライムのように半透明でドロドロしていてたのだ。
ここからこの町に異変が起きる。
空から雨と共に降って来たドロドロの謎の物体「なんだこりゃ」警官のレーシーは、同乗していた相棒に言った。「こんなもの、いったいどこから来たんだ」
ガソリンスタンドに車を止め、レーシーは、手袋をはめて窓ガラスについたものに触ってみた。それは粘り気があって、かなりベトベトしていた。
オークヴィルの上空から、なぜかこんな不可解な謎が降ってきたのだ。
レーシーは困惑していたが、とくに心配してはいなかった。だが、すぐに深刻な体調不良に陥ることになる。
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数週間で何度も降り続いた奇妙な雨 こんな奇妙な事件がなければ、オークヴィルの町が注目されることはほとんどなかったかもしれない。
かつて林業で栄えたこの町は、ワシントン州に唯一自生するオークの木にちなんでオークヴィルと名づけられた。
1905年に町となり、現在は700人の住人がいる。ここでは、過去を大切にしながらも、ゆったりとした生活が営まれている。
馬に乗ったならず者に襲われた最後の銀行だという建物も残っていて、地元の人がロデオショーに押し寄せる。
そんなのどかな町に、1994年8月7日、奇妙な"雨"が降り注いだ。これを目撃したのは、レーシーだけではなかった。
ある女性は外へ出たとき、半透明のドロドロしたものが地面に点々を落ちているのを見つけた。大きさは米粒の半分くらいだったが、3週間のうち6回ほど、この奇妙な雨が降った。
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この物体は、柔らかくゼリーのような感触で、スライムのようだったと、レーシーは語った。
指でつぶせるくらいの柔らかさですが、これまで見たことがないものでした。こんなことは初めてですから。なにかがおかしい、異常だと、頭の中で警報が鳴り響きました奇妙な雨の後、町に病が蔓延 そして、雨の後、病が蔓延し始めた。
レーシーは、倦怠感と吐き気に襲われた。
住民のベバリー・ロバーツは、この謎の物体に興味を持ち、家に持ち帰って詳しく調べようと集めようとした。
ところが、一日もしないうちに、めまいなどの奇妙な症状に襲われるようになり、医者に駆け込んだ。
ほかの住民も、この妙なスライムが現れたのと同じタイミングで、呼吸器や内耳系の不調を訴え始めた。
「町の全員が、謎の病で寝込んでしまったのです」ロバーツは言う。
サニー・バークリフトは、29エーカーあるの自分の農園の黒いアスファルトの屋根に、このスライムが点々とついているのに気づいたのが最初だった。
[画像を見る]
まもなく、彼女の母親のドティ・ハーンが、めまいと吐き気を訴えた。サニー自身は、スライムに触った後で倦怠感に襲われた。
このスライムは人間には有害なだけだったが、動物には致命的だったようだ。
ロバーツによると、スライムが現れてから、周辺の動物12匹が死んだという。
スライムのサンプルを集めようとしたところ、少し離れたところでカエルやカラスが死んでいるのに気づいた。
農園でも、ドティやサニーが飼っていた子猫が死んだ。スライムの成分調査が行われるも完全には解明に至らず 不調を訴えたハーンを診た医師デヴィッド・リトルは、原因はスライムの出現とは無関係の内耳の問題だと考えた。
だが、いちおうスライムを病院で調べてみることにした。
すると、スライムの中に人間の白血球が見つかったという。
スライムのサンプルは、ワシントン州の保健局でも収集された。ここでは、シュードモナス・フルオレッセンスとエンテロバクター・クロアカという、ふたつのバクテリアが見つかった。
このバクテリアが、オークヴィルの住民の体調不良を引き起こしたのかは議論があるところだが、自然界に存在し、エンテロバクター属の真性細菌の一種であるするE.クロアカは、潜在的に病原体になりえる。
[画像を見る]
エンテロバクター・クロアカ / image credit:public domain/wikimedia
ところが、さらに詳しく研究を進める前に、保健局の微生物学者、マイク・マクダウェルが、サンプルが研究室から消えてしまったと報告した。
サンプルには、さまざまなサイズのたくさんの細胞が含まれていて、それらはかつて生きていた生物のものであることが判明した。
病院で分析されたものとは違って、保健局のサンプルには人間の白血球は観察されなかった。人間の細胞内で見つかるはずの核がまったくなかったのだ。
[画像を見る]
浮上する様々な説 研究室での分析では決定的な決着はつかず、様々な説が浮上した。
なんらかの自然現象説、人為的なものによってクラゲが空に巻き上げられ、それが破裂して散らばった説、空軍が太平洋上で爆撃訓練を行い、クラゲが水中から吹き上げられて、それがオークヴィルまで飛んできたなどといった説が浮上した。
生物兵器実験なのではという物騒な説もあった。
空軍は、第354戦闘飛行隊による爆撃訓練は確認したが、行われた場所は、オークヴィルから64~80キロも離れた場所だった。
医師のリトルは、スライムは航空機が廃棄した排泄物なのではないかと仮説をたてた。
人間の白血球があったこと、触れた者に体調不良を引き起こしたこと、動物が死んだ事実などから、不凍液を利用する航空機の排泄物処理システムのせいではないかというのだ。
だが、連邦航空局は、使用されている化学薬品は、廃棄物の色をブルーにすることから、航空機が原因とする仮説を否定した。
もっとも有力な説は、このスライムの正体は、実は「スターゼリー」だという説明だ。
「スターゼリー」とは、ゼラチン状の物体のことで、粘菌の一種などという説もある。
カササギが食べ過ぎて吐き出した、カエルの卵のことをさすこともある。古く14世紀には、隕石が持ち運んだものだと考えられていたこともあった。
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2012年に目撃されたスターゼリーとされる物体
とはいえ、これでは空から降ってきたスライムの説明にはならない。
どれぐらい多くの人々スライムが空から降ってくるところを目撃したのか、それとも、ただ雨が伴ってきたものだったのか、正確なところははっきりしない。
スターゼリーのような自然現象に、なんらかの病原体が伴っていて、因果関係もないのに、誰かが互いに関係があるように作りあげた可能性は十分ある。
もっとも衝撃的な「スライムは空から降ってきた」、「そのサンプルが消えてしまった」という証言の裏づけをとるのは難しい。
レーシーとマイク・マクダウェルは、Unsolved MysteriesというTV番組に出演した以外は、その後、このスライムについてほとんど語ることはなかった。
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Unsolved Mysteries with Robert Stack - Season 9, Episode 6 - Updated Full Episodeいまだ原因は特定できず このスライムとその起源についての具体的な答えは、いまだ見つかっていないが、その後、スライムが降ってくることは二度となかった。
そしてオークヴィルだけがこのような異様な出来事を体験したわけではなかった。
1876年、ケンタッキー州オリンピアン・スプリングで、空から肉が降ってきたという出来事があった。
これは、飛んでいた猛禽類が上空から獲物を落としたのではないかとされている。カエルが嵐の勢いで巻き上げられて、空から落下することは知られている。
また、ジムとキャシー・ベランガー夫妻による別の手がかりがある。
彼らはちょうどスライムが報告された時期に、ワシントンの海岸で死んだカニを見たと言っている。
近くには透明のゼリーのようなものが点在していて、キャシーと飼い犬がそれに触れたら、両者とも翌日に具合が悪くなったという。
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The Oakville Blobs Incident | Raining White Blood Cells for a Month?!
References:The Mystery of the 'Oakville Blobs' / written by konohazuku / edited by / parumo
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