脳がないのにコンピューターのように動き回る単細胞生物が発見される
 「ユープロテス(Euplotes eurystomus)」という繊毛虫の仲間は、脳がないというのに、14本の小さな付属器で昆虫のようにウロウロと動き回る。

 小さな単細胞生物は、複雑な動きを指示する脳がないため、転がったり、滑ったり、泳いだりして移動するのが普通だ。

 ところがこの繊毛虫は、まるでぜんまい仕掛けの機械のようなメカニズムで、周囲の環境にあわせながら歩くことができるのだ。

 それはテオ・ヤンセンの「ストランドビースト」と呼ばれる運動彫刻のようでもある。

 まるで連続した論理が働いているかのような動作は、「初歩的なコンピューター」にも例えられるそうだ。

14本の棘毛で、規則的に動く原生動物 原生動物(動物のような特徴を持つ単細胞生物)である「ユープロテス(Euplotes eurystomus)」には、トゲのような繊毛の束(棘毛)が14本あり、これを連携させ脚として機能させることで、泳いだり、歩いたりすることができる。

 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生物物理学者ベン・ラーソン氏は、「ランダムな動きではないので、ある種の情報処理が行われているのではと思いました」と、プレスリリースで語る。

 そこでラーソン氏らは、その動きをスローモーションで観察してみることにした。

 すると、棘毛の動きには32通りの組み合わせがあり、それぞれには決まった流れのパターンがあることが判明したという。

 棘毛は、ほかの細胞の足場構造(細胞骨格)と同じく、主にチューブリンと呼ばれるタンパク質の繊維でできている。

 このチューブリン繊維は、棘毛と棘毛を支えてもいるため、機械的な動きを伝えることができる。

 ウォレス・マーシャル氏は、「ユープロテスは、この繊維のつながりを利用して、精巧な歩行運動を実現しています」と説明する。 初歩的なコンピューターのような動き コンピューター・モデリングによる分析では、チューブリン繊維の張力とひずみが、棘毛の位置パターンを決定していることが明らかになっている。

 歩行中、いくつかの棘毛に負荷が蓄積され、これが解放されることで次の状態に移行する。そして、この流れが周期的に繰り返される。

 「ある状態から規則的に別の状態へと移行するユープロテスの棘毛は、初歩的なコンピューターのようなもの」と、マーシャル氏は説明する。

 実験として、薬でチューブリン繊維のシンクロ反応を邪魔してみたところ、ユープロテスの歩きが乱れ、無意味な円を描くことしかできなくなったという。

 その棘毛の動きは相変わらず規則正しいが、上手に連携して前進したりはしない。ぜんまい仕掛けのように巻き上げられたり、元に戻ったりしていた付属肢は、本来のようには機能しなくなる。

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Euplotes plumipes / Euplotes eurystomus繊毛がシグナル伝達分子のネットワークで複雑な行動を実現 これはユープロテスの棘毛が、脳や神経ではなく、シグナル伝達分子のネットワークによって制御されていることを示している。

 それは脳ではないが、意思決定から学習、迷路のナビゲーションまで、驚くほど複雑な行動を実現してくれる。

 「じつに魅力的な生物学的現象そのものです。ほかの種類の細胞で行われているより一般的な計算プロセスを浮き彫りにすることもできるでしょう」とラーソン氏は語る。

 今回、ランダムな分子プロセスが作り出す連続的な行動のリストに、新たに「歩行」が追記された。だが、こうした分子メカニズムの秘密は、まだまだ解明されていないことばかりだ。

 この研究は、『Current Biology』(2022年8月12日付)に掲載された。

References:Single-Celled Organism Uses Internal ‘Computer’ to Walk | UC San Francisco / Clockwork-Like 'Computer' Discovered Inside Brainless Microscopic Organism / written by hiroching / edited by / parumo

追記:(2022/10/25)本文を一部訂正して再送します。

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